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予選の動画が公開されて少し経ち、冬休みも終わり高校の三学期が始まった日の事。

二・三日前にローカルスレを久しぶりに見てしまい、エインセルの被害者が多数発生しているのを確認して対処に頭を悩ませていたのだが特に何も思いつかずボーっとしていたのが宜しくなかったのか、教室でクラスメイトの男子から声を掛けられた。

あまり付き合いも無く、正直苗字しか知らないヤツなのだが、そいつは、

「小野麗尾、ちょっと話いいか?」

「……何か?」

「小野麗尾って冒険者やってるんだよな? この間お前がダンジョンに行った時の動画がネットにあったんで見たんだけどさ」

「……ああ、イベントのやつか。それで?」

エインセルの事でも聞きたいのか?

「あの動画見て、ちょっと頼みたい事が出来てさ」

「……何だよ」

当店に握手券の取り扱いはございませんが。

「時間に都合が付くなら今度俺と試合をしてくれないか?」

「……試合?」

何を言い出すのかと思い、詳しく話を聞くとコイツは総合格闘部の部員で腕試しの為に部員以外の武道家と戦ってみたいのだとか。

少し考え込みコイツ、いや拳道 武(けんどう たける)に回答する。

「無理だし、正直やる意味が無いと思うんだが。まず俺は武道なんて習っていないし、武器使わんと戦いにならん。武器を使うのはモンスターを殺すか、俺のモンスターに殺させる為の時間稼ぎにしか使ってきていない。だから武器を使って戦うと相手に怪我させるだろうし最悪致命傷を負わせかねない。寸止めとか器用な事は出来るとも思えないし。それでもいいと拳道が思っていても俺は嫌だ。得る物も無いのに好き好んで前科者になる積もりは無いんだ」

「ん、む…… そうか、残念だなぁ。動画でお前、凄かったし戦って見たかったんだが」

「……そう言ってくれてありがとう。でも俺、半年前に冒険者始めてそれより前には適当にジョギングするぐらいの運動してただけだから、やっぱり参考にはならないと思うよ」

「そっか。時間取らせてゴメンな。話を聞いてくれてありがと」

離れて行くのを見て机に伏せる。擬似睡眠行動による”話しかけるな”アトモスフィアの精製を開始。

危なかった。動画効果で体育会系ダンスィが接近してくるとか何の冗談だ。

エインセルの件で女子が来ると思っていたが、予想外の方向にも程があるだろ。

しかし、気を抜いていると話しかけられるとは…… 閃いた!

その日の放課後はダラーっとしながら校内を徘徊したのだが、俺に声を掛ける女子は居なかった。

ていうか、何故か見知らぬ生徒達に道を譲られたり、避けられたり……

あれー? もしもし? 今なら俺、話しかけられても大丈夫だよ! 大丈夫、きちんと応対するよー

通りすがりに向かい側から歩いてきた女子生徒と目が合ったのだが、その女子はすぐに目を逸らし急ぎ足でその場を離れていった。急にお花を摘みたくなったのか用事を思い出したのかしたのだろう。そうだよね?(震え声


「守、現実から目を背けたい気持ちはわかるが――」

放課後、ファミレスにて池流がトドメを差しに来た。ヤメロォ! もう少し気付かない振りくらいさせろよ!

「例の動画の影響でござるな」

嘘だといってよ、鍵留!

「うむ。ダンジョンの話は前から俺も聞いてはいたけど守が撮ってた動画は見たこと無かったから、公開された動画で初めてお前のダンジョン探索風景見た訳なんだが。正直引いたわ」

「守殿がもう少しこう、何か感情的な行動を取っていれば別だったのですが。拙者から見た守殿は殺戮マッスィーンでしたな」

「それな。アレ見て話しかけたクラスメイトって勇気あると思うわー」

「拙者達の様に守殿を知っている人間でなければ難しいでしょうな」

「嘘だろ、おい。冒険者ならアレぐらい普通だって、いや本当」

「守も立派に冒険者に染まったな…… 一般人ならアレ、普通に引くぞ」

「しかりですな。一般ピーポーから見て、そこらのヤンキーやらチンピラより遥かに脅威度の高い存在になってしまわれておりますぞ。前に話したクラスカースターなど、もう問題にならないでしょうなー」

「馬鹿な…… 待ってくれ。そんなやつらはどうでもいいが、それじゃ今年のバレンタインは…… 俺の活躍に密かに憧れていた女子に下駄箱か机の中にチョコを忍ばされるイベントは……」

そっと顔を背ける二人。

「「おきのどくですが、バレンタインイベント1はきえてしまいました」」

「ウオォォォォォ……」

机に突っ伏す。馬鹿な。そんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁ

「ご注文のフライドポテトです」

店員の女性が微笑みながら配膳する。これからは地元で俺の事を知らない女性からしかこんな笑顔を向けられる事は無いというのか。

「ブルームフラウちゃんの人気は凄いんだけどなぁ」

「ですな! スポンサーとして非常に鼻が高いですぞ! いやぁ我ながら良い投資をしてしまった物ですぞ!」

一瞬コイツラにエインセルの本性バラそうかと思ったが、さすがにそれは遣り過ぎかと止めておいた。

知らない方が幸せな事も世の中にはあるんだ。できれば俺も知りたくなかった。本当に知りたくなかった。

ダークフェアリーの話題で盛り上がる親友二人とポテトを貪ったその翌日。


「小野麗尾、ちょっと昨日の話だけどもう一度いいか?」

「……何か?」

一縷の望みを掛けて女子向けにエインセルの握手券を用意していたんだが、話かけて来たのは拳道だ。

「実は昨日の話をウチの部の外部顧問の人に話してみたんだよ」

「……それで?」

外部顧問。ウチの学校の部活にはそんなのがいたのか。

「そしたらさ、その人が昨日お前が言っていた問題を何とかするから”死合”をやってみないかって言ってくれたんだ!」

「……何とかって。どうするんだよ」

「その人、元冒険者でお前の話をその人にしたら興味持ったらしくてさ、魔道具使って解決できるって言ってたぞ!」

ええ……(困惑

弱ったな。女子人気をどうにかして確保したいのに体育会系ダンスィ等と関わっている場合では……

いや、待て! これは奇貨! これをきっかけに俺のイメージを「話した事の無い怖いヤツ」から「怖かったけど話してみると良いヤツ」に出来ないか!?

「……そこまでされたんじゃあ仕方がないな。装備持ってこないといけないから今日は無理だけど」

「本当か! ありがとう! それじゃ早速話して”死合”の都合を聞いてみるわ!」

ありがとな! そう大声で言いながら教室を走り出る拳道。

拳道を見ながらそれとなくクラスメイトの視線を確認する。よし、何人かはこちらを見ていた。

これで「話せば判るヤツ」位の印象は出来たはず。ここを足掛かりに目指せ、母さん分以外のバレンタインチョコゲット!

最終的には彼女ゲットも!!!


それにしても、”試合”か。対モンスター戦闘以外のやり方なんて今の装備で考えた事もないんだけど…… まぁ、なるようになるか。所詮、俺は素人だ。力任せに棒を振り抜く位しかできん。防具任せの防御で勝つまで適当に打ち続けるのみよ。

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