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『全てのカップルが運命の赤い糸で結ばれました。あなたたちの使命は果たされました』
スクリーンの文字が輝きを増す。
「これで元の世界に…」
その言葉が終わらないうちに、また視界がぼやけ始めた。
「なおくん!」
「大丈夫、手を離さないから!」
強く握り合った手を、最後まで離すまいとする。意識が徐々に遠のいていく―
◇◇◇◇
「…くん!なおくん!」
「うっ…」
目を開けると、そこは文化祭準備で残っていた教室だった。夕暮れ時の光が差し込んでいる。
「夢、だったのかな…」
沙耶が不安そうに呟く。時計を見ると17時30分。異世界に飛ばされる直前の時間に戻っている。
「違うよ」
スマートフォンを取り出して確認する。ギャラリーには、異世界でこっそり撮っておいた白い部屋の写真が残っていた。
「本当だ。私のにも写真が…」
「全部、現実だったんだ」
お互いに顔を見合わせる。異世界での出来事。そして、伝え合った想い。
「なおくん、その…私たち」
「付き合うんだよね」
「うん」
照れくさそうに頷く沙耶。
「あのさ」
「なに?」
「帰り道、手を繋いでもいい?」
「…もう、聞かなくてもいいのに」
そう言いながらも、沙耶は自然と手を差し出してきた。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん」
教室を出て階段を降りていく時、ふと廊下に人影が見えた。
「あれ、山本くんと椎名さん?」
図書室から出てきた二人は、何やら嬉しそうな表情で話している。
「健一、やったみたいだな」
「美咲さんも嬉しそう」
その向こうには、生徒会室の前で立ち話をする三島先輩と白鳥先輩の姿も。
「凛先輩、なんか柔らかい表情してる」
「三島先輩も、いつもより自然な笑顔だよね」
二組のカップルを見送りながら、校舎を後にする。
「なあ、さっちゃん」
「ん?」
「俺たちも、結構いいカップルになれそうじゃない?」
「どうしてそう思うの?」
「だって」
歩きながら繋いだ手を軽く揺らす。
「こうしてるの、すっごく自然だから」
「…そうだね」
夕暮れの街を、ゆっくりと歩く。明日からは恋人同士として過ごす日々。でも、きっとそれは今までと大して変わらない。
だって俺たちは―幼なじみで、親友で、そしてこれからは恋人。
「なおくん」
「ん?」
「明日からの文化祭準備、楽しみだね」
「今までと何も変わらないと思うけど」
「違うよ。私、なおくんのこと好きって、堂々と言えるんだもん」
「あ、それは俺も」
照れくさそうに笑い合う。
「でもさ」
「うん?」
「運命の赤い糸に頼らなくても、きっと俺たちは気づけたと思う」
「そうだね。ちょっと遠回りしただけ」
「その方が、俺たちらしいかもな」
手を繋ぎ直して、また歩き始める。
「なおくん」
「なに?」
「好き」
「…俺も、好きだよ」
夕焼けに照らされた街を、新しいカップルが歩いていく。 異世界で紡いだ赤い糸は、きっとこれからも二人を結び続けるだろう。
でも、それ以上に強く二人を繋いでいるのは― この15年間で育んだ絆と、やっと気づけた想い。 そして、これから紡いでいく未来への期待。
そんな想いを胸に、俺たちは歩み続ける。 手と手を、心と心を、しっかりと繋ぎながら。