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ことの発端は、俺が他国から取り寄せた今話題の没入体験型MMOを、運営のみんなで遊ぼうと誘ったことだった。
「オォ…!」
人間の作ったゲームだと始めは期待もしていなかったものの、珍しく迫害の対象である人外が主役であったことと、MMO特有の自由度の高さややり込み要素が楽しくて、最近仕事ばかりなみんなにも楽しさを共有したかったのだ。
「仕方ないなぁ…たまには総帥のらっだぁじゃなくて、ただのらっだぁとして普通にみんなと遊びますか!」
「ミンナ?」
「そ、これのゲーム機って今みんな持ってるようなヘッドセットタイプのやつでしょ?」
らだおくんの言葉に頷くと、なんだかあれよあれよと言う間に話は広がっていき、当初予定していた人数を遥かに超えた規模感で一斉プレイをすることになってしまった。
「国の運営保てるか…?」
「大丈夫!大丈夫!オート機能もあるし、ウチのら民は優秀なやつ揃いだからねーっ」
心配そうなレウさんも、結局はヘッドセットを装着してゲームをプレイするように。
「…ラダオクン!」
やり始めたばっかりの頃は、すごく楽しかった…でも、だんだんとおかしなことが起こり始めたのだ。
「…?」
ゲームとリアルの区別が曖昧になった。
ゲームの世界がリアルだと信じて疑わない者が増えていって、目を覚さないようになりはじめたのだ。
ただ夢中になってしまったとか、現実逃避だとか、そう言うのじゃなくて。
「アレ…?」
本当に、わからなくなってしまうのだ。
すぐに問題になった。俺は必死に現実にしがみついて、ゲームの内側からみんなを説得するようになった。
「ラダオクン、コレハゲームダヨ!!帰ロウヨ!!」
「え、何言ってんのみどり…あ、もしかしてお前、新手のイタズラ?引っかかるわけないだろそんな冗談にぃ〜」
らだおくんまで取り込まれた時、俺は心底後悔した。こんなことなら、みんなをゲームになんて誘わず、どれだけ寂しくても仕事が終わって一緒に遊んでくれるまで、ずっと待っていればよかった…と。
「調ベナキャ…」
解析を始めた。持ち前の情報収集能力とたくさんの知識と魔法を使って。
俺はゲームでもリアルでも魔法使いだから。
「夢カ現カ、選バセレバイインダ…!」
結果は思っていたよりも簡単なことだった。
だけど、その簡単な答えを出すまでが難しい…そこに悩んでいる間にも、月日はどんどん過ぎていく。
そんな時、ゲームをプレイしていないら民の一人がたまには息抜きにと差し出してくれたのが、デスゲームを題材にした物語だった。
・ ・ ・
ら民があまりにも休めとせっつくものだから、仕方なくもらった物語を読みながら休んでいたら、人を殺した罰として拷問のような処刑を受けている少女の一人のセリフが目に止まった。
『こんな現実なら、私はもう生きていたくないわ…ここが夢だったなら、よかっ…た…』
その描写が、普段は信じない神の天啓のように思えてならなかった。
居ても立っても居られなくなった俺は、キラキラと光り輝いて見えるその一文をら民に見せて回ってはこう言ったのだ。
“とびきりサイアクなデスゲームをしよう!”
“あの世界が現実じゃなければ良いと思わせれば、今ここにいないみんなも帰ってこれるかもしれない!”
それからはあっという間だった。
内部からバレないように権限を複製して、世界もそのまま複製したものに身内のおバカどもを移動させる。
あとはデスゲーム会場のセットを作って、インストールし、権限を使ってプレイヤーを収容、監禁、からの地獄へ行くよりも辛い悪夢を見せて現実へ連れ帰ることの繰り返し。
「ヨシ、ヨシヨシヨシ…!」
心の底から喜んでいたけど、本当はそれと同じくらい苦しくて痛くて仕方なかった。
グループを一つ片付けるごとに心の裏側の、柔らかい部分がすり減って行くし、毎晩酷い悪夢にうなされて、酷い不眠症に悩んだり。
幸せだけじゃない。これが正しいのかどうかも有耶無耶になり始めた頃に…運営の…みんなの番が回ってきたのだ。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
仲間を殺した経験は、たとえ現実ではなかったとしてもその人の心に傷を付けてしまう。
だけど、運営のみんなはちょっとやそっとじゃ絶望してくれないから…
「こんなことさせてごめんなさい…」
盛り付けの時、それとなく気配を消して毒を盛ったし、レウさんを脅しているきょーさん背中を押したりそそのかしたりしたのも俺。
きょーさんが咄嗟に心臓に刺してレウさんを楽に殺してあげようとしたものだから、無理矢理きょーさんに俺の意識を繋いで、まだ息のあるレウさんを滅多刺しにした。
「……疲レタ」
その日は一睡もできなかった。
あんなことをしたんだから…当然の報いだ。
レウさんときょーさんが目を覚ましたと喜んでいる様子を監視カメラで確認したあとはまたデスゲーム会場に、ゲームの中に戻った。
それから…そう、今にも自殺してしまいそうなコンちゃんに声をかけたんだ。
・ ・ ・
コンタミ side
レウさんが死んだ。
他殺で、きょーさんが犯人だった。
殺意のない殺しだったそうだ。
何故か体が止まらなかったそうだ。
「…いつか俺も殺しちゃうのかなぁ」
それ嫌だ…じゃあ、誰かを殺してしまう前に自分のことを殺してしまおう!
頭の中で自分がにこやかに提案して、それに大賛成だと笑いながら準備をした。
「…こんな世界なくなればいいのに…」
…死ぬのは、怖い。自死ほど心臓が痛み、手足は凍え、肩のすくむことはないだろう。
どうにも決めきれずに包丁片手に震えていると、みっどぉがオバケのようにぬっと扉を開けて部屋に入ってきた。
「み、みっどぉ。これは…そのっ…」
仲間に自死の様子を見られた。
やましいことをしているような気持ちになって、必死になって弁明をしていると、はたと気がつく。
「…コンチャン?」
死にそうなのは彼の方じゃないか、と。
狂気を渡されて死ねと言われたら、少しの躊躇いもなく逝ってしまいそうなみっどぉの様子に、俺は心配が勝った。
包丁を捨てて、すっかり光を失ったみっどぉを抱きしめながら問いかける。
「みっどぉ、何か辛いことがあったなら話して…俺でよければ何でも協力するから」
「…本当?」
少し幼くなったような気がする問いかけに深く頷くと、俺から離れたみっどぉは言った。
…らっだぁを、苦しめて殺してほしいと。
らっだぁに信頼を寄せているみっどぉに限って、そんなことを言うわけがないと思ったけれど、みっどぉはブレなかった。
「つまり、俺たちは今ゲームの中で…カラダ本体は現実で目を覚まさないままってこと?」
「ソウ…」
にわかには信じ難い話だったが、みっどぉの表情が、その影の濃さが、嘘じゃないと告げていた。これが、真実なのだと。
「…なら、みっとぉが殺戮マシーンになってもよかったんじゃ…?」
俺の素朴な疑問に首を振ったみどりくんは、現実世界へ帰るための詳しい条件を教えてくれた。
【帰還条件】
この世界を自分の意思で否定すること。
複製した世界から現実世界に意識を戻すためには、ゲーム世界に作られたキャラクター…仮初の肉体から意識を完全に切り離すこと。
以下の二つが必要事項なのだが、細かな制約によってみっどぉバーサーカーモードで殲滅、というわけにはいかなかったそうだ。
【権限持ちの制約】
生死に直接関わってはいけない。
これが最も大きな障害だったそうだ。
殺さねばならないのに、事情を知っている自分が殺すことは許されない。
もし自ら手を下して仕舞えば、永久にゲームに入れなくなるかもしれない。そうすれば俺たちを助ける手立てを失うから、守るしかなかったのだとか。
「じゃあ、きょーさん時は…?」
「繋ガリヲ作ッテ無理ニ動カシテイタケド、武器ヲ持ッテイタノモ、刺シタノモ、アノ場合ノシステム判定デハ犯人ガキョーサンニナル」
納得していると、青い杖を取り出したみっどぉが改めて言った。
“らだおくんを、死ぬほど苦しめて殺して”
自分が一番苦しそうなのにも気が付かずに。
それが、ほんの少し寂しかったりする。
「わかった…でもたぶん、俺は負けちゃうだろうから。その時はみっどぉがらっだぁに直接助けてほしいって言うんだよ?」
曖昧な頷きを返す末っ子気質な魔法使いさんの頭を撫でてから部屋を出た。
ここはキッチンだから、階段を上がってすぐの子供部屋まではそんなに距離はない。
この程度ならまだらっでぃーも部屋でウダウダ膝抱えてるはずだ。
「かっこいいとこ見せなきゃねぇ…」
子供部屋の前で深呼吸をする。
死にそうになったら願うことはただ一つ。
“こんなクソみたいな世界は夢であれ!!”
「やっほ〜、らだおくん」
・ ・ ・
らっだぁ side
みどりが、俺たちの知らないところで俺たちのために必死こいて働いていた。
それを知ったら、なんだか心の底がじんわりと温まると同時に、少し悲しさでズキズキと痛みが走る。
「無理させてごめんね…」
「…」
否定しない…そうとう心にきてるという事実に、俺は酷く悔しい気持ちになった。
俺がもっと夢と現の区別が出来ていれば…いや、たらればの話をしたって心は回復しない。
みどりをいち早く安心させ、心身ともに回復させるためには、俺がここから出なきゃいけないわけだから…
「あ、じゃあコンちゃんと同じことすれば良いんじゃない?みどりは手ぇ出せないもんね」
「ェ…」
「俺が出られたらみどりはどうなる?」
「世界ガ勝手ニ破壊サレテ、俺モ現実ニ戻ル」
なら安心だ。
不安そうに服の裾を握りしめているみどりの頭を撫でて、部屋を出るように伝えた。
きっと、このゲームに意識を取り込まれたら民全員の死と絶望を見届けてきたのだろう。
「デモ…」
「みどり、大丈夫」
「…」
「十秒もしないで終わらせるから、きっとすぐに目が覚めるよ」
レウさんも、きょーさんも。
コンちゃんだってそう。
みんなの死を背負ったみどりに、俺の死まで背負わせるなんて出来ない。
「だから向こうのお部屋で待っててね」
「…ン」
パタンと扉が閉まった。
すぐにみどりから預かった、コンちゃんが使おうとしていた包丁を逆手に持つ。
バクバクとこの後に及んで意地汚い心臓を嘲笑いながら、その胸に深々と包丁を突き立てた。
「はっ…こんな、誰も幸せになれない世界があってたまるか…」
バキバキと世界にヒビが入る。
隙間から、白い光が差し込んだ。
「…これで…かえれる…?」
微かな浮遊感と共に、俺の意識は遠のいた。
・ ・ ・
目が覚めて、まず初めにみんなの顔が映った時、壊れかけていた心臓から確かな鼓動を感じた。
どれだけ謝っても、みんなに与えた傷かあることに変わりはないけれど、そんな俺のことを笑って許してくれる。
ありがとうって言って抱きしめてくれる。
俺のしてきた事は、何も間違っていなかったんだと実感した時、一筋の涙が頬を伝った。
「…アリガトウ」
そう言ってはにかむと、たくさんの手が頭をわしゃわしゃと雑に撫でていく。
それが、俺にとって一番幸せな現の世界だった。