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141 - 第8話:消されたフラクタル

2025年04月24日

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第8話:消されたフラクタル



ツリーハウス学舎、北棟3階。

午後の演習を前にして、コードアーカイブ室がざわついていた。


「おい、これ見てみろ……昨日のデータ、全部飛んでる」


「なに……?バックアップ領域まで?」


モニターの前で真っ青になっていたのは、1年のハナダ。髪を横に流した細身の碧族生徒で、穏やかな性格の努力家だ。

彼の演習用フラクタルデータが、丸ごと消失していた。




「コードが、消された……?」

タカハシが顎に手を当てて考える。


その隣では、ゲンがモニターを逆さから覗き込み、真顔で言った。


「なぁこれ、どっかで《ERASE = TRUE》とか使ってない? 悪ふざけの延長でさ」


「いや、冗談じゃすまねぇって! 演習用コードの一部に、消去コマンド仕込むなんて……」




学舎内に緊急通達が出され、スエハラ先生が登場。


「これは、誰かのいたずらか、それとも――意図的な“封印”かもしれん」


「コードは記録される。だが“記録されたくないコード”もある」

そう言って、先生は一枚の旧式端末を取り出した。


そこには、部分的にバグったような記録断片が残っていた。


《EMOTION = “未定義”》《TRIGGER = NULL》《CONCEAL = TRUE》《TYPE = “記憶”》


「これは……記憶型フラクタル……?」


「“コードが目的じゃなかった”可能性もあるってことか」




その日の午後、校内演習が中止となるなか、ゲンとタカハシは自主トレ場へ。


「こんな時に練習かよ」

「こんな時だからこそ、“確かめたい”んだろ?」


ゲンの指先が、碧光のリングにふれる。


《SCAN = “断片”》《TRACE = “共鳴杭”》《RENDER = SILENT》

杭の脈動が走り、かすかに残された音――ハナダのフラクタルに宿った“音”が浮かぶ。


「これ……音か? コードじゃなくて、“記憶の旋律”?」


「コードは消えても、想いは残るってことさ」




後日――


「原因は特定されていない」とされながらも、演習データは復旧された。

だが、スエハラ先生はその裏で、ゲンたちにだけこう告げた。


「忘れたことにするのも、“フラクタルの一部”だ。だが、それが誰かのためだったとしたら――お前らは、どうする?」


コードは、ただの力じゃない。

ときに“想いを封じる術”でもある。


ゲンは空を見上げた。


「……俺は、消さないよ。たとえ意味がなくても、“誰かが残そうとしたもの”は、受け取ってみたい」


その言葉に、タカハシはただうなずいた。

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