〖第一章 不思議な糸〗
八月。蝉の声がいつも私を起こす。夜なのに夏の涼しい風は全くやって来ない。目が覚めてしまえば、その風が恋しくて、家の裏にある神社へと足を運ぶ。神社の近くはよく風が吹き、とても心地よい。特に、神社の裏側。神主さんからは許可を得て、いつも涼みに言っている。今日も風で木の葉が揺れ動き、その風が私の首筋へと流れていく。いつもなら、このまま木の上に登って、この風を堪能するが、今日はあるものが目に入った。
「これ、なんですか?糸、ですよね」
私がいつも登っている木に、一本の糸がかかっていた。その糸は、一見白色の普通の糸に見えるけれど、よく見ると、淡い光を放っているのだ。
「光る糸なんて聞いたことないよ⋯?」
色々と不思議に思っていると、糸が浮き始め、私についてこいとでも言うようにまっすぐと伸びていった。
「ま、待ってください!どこ行くんですか!」
声をかけても止まるどころか伸びるスピードを速めてきた。そして、やっとの思いで糸に追いつくと、糸は祠の前で止まっていた。
「目、閉じて」
私は、言われたとおりに目を閉じた。
「いいよ」
「あの、いきなり何なんです⋯か⋯?」
私の眼の前には、白い装束を見にまとっていて、顔には大きな布をした身長の大きい人?が立っていた。
「ん⋯あれ?ここって⋯」
目が覚めると、私の上にはなぜか知らない天井が見えた。
「おはよう」
私に声をかけたのは、あの時見た人?だった。
「いきなり、倒れたから、心配、した」
どうやら私は、この人?をみたあと、倒れてしまい、この人?がここへ運んできてくれたのだとか。
「ありがとうございました。あなたのお名前は?」
「オリノカミ」
オリノカミ⋯神様!?確かに、いきなり眼の前に現れたり、装束みたいなの着ているし⋯わ、私神様に助けていただいたの!?
「か、神様⋯それはともかく⋯あの、オリノカミ様!助けていただいたお礼をしたいのですが⋯ 」
「いい」
「お願いします、私がしたいんです 」
人であれ人でなかれ、助けていただいたお礼はしなければ。
「⋯名前は」
「私は、夜咲 都唯と申します」
私が名乗ると、オリノカミ様は驚いた顔をしたあと、しばらくの間だまってしまった。そしてオリノカミ様はやっと言葉を話してくれた。
「ツユ、お前をカンナギにする」