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ユーカ
201
静かな夜、かまどの音
薪がぱちぱちと音を立てる。
囲炉裏の火は穏やかに揺れ、木造の部屋を優しい橙色に染めていた。
壁に映る炎の影は、まるで過去の記憶のようにゆらゆらと揺れている。
外では吹雪が荒れ狂っているというのに、この家の中だけは別世界のような静けさに包まれていた。
囲炉裏を挟み、唯我と農家の老人が向かい合って座る。
木の膳には炊きたての白米。
湯気の立つ味噌汁。
素朴な漬物。
そして香ばしいお茶。
冷え切った身体に、その温もりがゆっくりと染み込んでいく。
「まぁ、たいしたもんは出せんがな。腹を空かせた若ぇ衆には、こういう飯が一番よ」
老人は笑いながら湯呑みを差し出した。
「……十分です」
唯我は短く答え、静かに箸を動かす。
しかし、その表情にはどこか落ち着かない様子があった。
老人はそんな唯我を見つめ、ふと口を開く。
「……その刀、いいもんだな」
その一言に、唯我の箸がわずかに止まった。
背中に立てかけられた漆黒の刀――
龍焉刀。
ただの武器ではない。
ネオコードの力と共に、ORVASから託された特別な刀だ。
唯我は静かに視線を向ける。
「……名は伏せますが、少し変わった能力を持つ刀です」
老人はゆっくり頷いた。
「やっぱりな」
そう呟くと、龍焉刀をじっと見つめる。
「普通の人間には分からんだろうが……あれは“気”を放っとる」
「気……?」
「ああ。まるで刀そのものが呼吸しとるような、不思議な感覚だ」
その言葉に、唯我の眉がわずかに動いた。
目の前の老人は、ただの農家ではない。
その確信が胸の中で強くなる。
老人はお茶を一口飲み、静かに語り始めた。
「ワシもな……若い頃は剣を握っとった」
唯我は顔を上げる。
「剣士だったんですか?」
「流派を名乗るほど立派なもんじゃない。だが剣一本で命のやり取りをしたことは何度もある」
老人は懐かしそうに笑う。
だが、その目には確かな重みがあった。
「……そうですか」
「もう何十年も前の話じゃ」
そう言いながら老人は右足に手を添えた。
「戦いすぎて身体はボロボロよ。今じゃ農具の方が似合っとる」
豪快に笑う老人。
しかし右膝はほとんど曲がらない。
戦場で負った古傷が今も残っているのだろう。
唯我は静かに尋ねた。
「それでも忘れないんですね。剣を振っていた頃を」
老人は笑みを消した。
囲炉裏の炎を見つめながら、ゆっくりと答える。
「……忘れるもんか」
低く、重い声だった。
「人を斬った時の重さも」
「仲間を守るために振った剣も」
「命を賭けた一太刀の意味もな」
囲炉裏の火が大きくはぜる。
パチッ――
静寂が部屋を包み込む。
唯我は何も言わなかった。
老人もまた、多くを語らない。
だが、その沈黙は不思議と心地良かった。
外では吹雪が荒れ続けている。
しかしこの小さな家の中だけは、穏やかな時間が静かに流れていた。
そして唯我はまだ知らない。
この老人との出会いが、自分の運命を大きく動かすことになることを――。
コメント
1件
囲炉裏の火の描写がすごく優しくて、吹雪の外との対比が綺麗だった……。老人の「忘れるもんか」って台詞が胸に刺さった。人は大切なことをちゃんと覚えてるんだなって。唯我くんも何か感じ取ってたよね。この静かな時間、ずっと見ていたい気持ちになったよ🥀🤍