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第三十三章 見つからないまま
結局、見つからなかった。
何度も同じ道を辿って、同じ場所を見て、
それでも――なかった。
隣でずっと付き添ってくれたラウ男さんは終始優しくて、〝見つかるまで探そう〟って言ってくれた。
――もう、いい。
そう言ったのは、店のショーウィンドウに映った、惨めな自身の姿を見たからだった。ひとりぼっちを受け入れた筈の翔太が、いつの間にか温もりを求めて亮平に縋り、雪うさぎのキーホルダーに縋って、必死に探す姿が、酷く滑稽なものに見えた。
〝本当にいいの?〟と優しく背中を撫でたラウ男の手は温かいのに、どうしてか、空いた穴が埋まらない。
違う……。安心するのに、あの人の温もりとは何かが違う。
分かってるのに、その“違い”が、うまく言葉にならなかった。
寮の部屋は、いつもと同じはずなのに、少しだけ、冷たく感じた。ベッドに座る。
――何も、ない。
あの温もりも、あの声も、ここには、ない。
なのに、身体だけが、覚えている。
雪うさぎのぬいぐるみを抱きしめる。まだ離れて数時間しか経たないのに、亮平に会いたい。
翔太💙「ひとりぼっちじゃん……」
カーテンの隙間から、細く差し込んだ光が、床に長く伸びていた。オレンジに滲んだ夕陽。
時間が、ゆっくり沈んでいくみたいに、部屋の中の色が、少しずつ変わっていく。
ベッドの端に座ったまま、動けない。
伸ばした指先が、その光に触れる。
――温かい、はずなのに。
どこか、遠い。
静かすぎる部屋に、さっきまでの気配が、嘘みたいに消えていた。隣には、誰もいない。
分かってる。
分かってるのに、胸の奥だけが、まだ、何かを探している。
光が、少しずつ、ずれていく。
指先から、離れていく。
――置いていかれるみたいに。
気付けば、部屋の中は、もう半分、影に沈んでいた。
翔太💙「……やばっ!もう……こんな時間だ」
――行かなきゃ
そう思った。でも、クローゼットを開けるけど何もない。
ナース服と、普段着と、“それ”に使える服は、何もなかった。
翔太💙「……っ」
分かってる。
誰に聞けばいいかなんて、最初から。
一度だけ、目を閉じる。
逃げる理由を探すみたいに。
でも、出てこなかった。
――なんで、迷ってるんだろ。
たったそれだけのことなのに、指が、すぐには動かなかった。
頭のどこかで、別の名前が、浮かんで。
――違う。
小さく、息を吐く。
画面を見つめたまま、一度、目を閉じた。
それから、通話ボタンを押す。
コール音が、やけに長く感じた。
ラウ男🤍「なぁに?今別ればかりじゃん?もう恋しい?」
翔太💙「……先生もそういう冗談言うんだね」
ラウ男🤍「どうしたの?」
声が、少しだけ掠れる。
ほんとは、逃げ出したくて、違うことを言いそうになって。
飲み込んだ。
翔太💙「ラウ子さんの……携帯の番号教えて下さい」
少しの沈黙。
ラウ男🤍「……なんで、俺じゃダメな話?」
少し声色が変わった気がして、身動ぐ。
翔太💙「頼みたいことがあって……お願いします」
ラウ子🤍「遅いよ、ユキちゃん」
楽しそうなおもちゃでも見つけたように、目を輝かせていた。
ラウ子🤍「頼って来ると思ってた」
翔太💙「……どういう」
ラウ子🤍「洋服ないんでしょ?」
全てを分かっているようなラウ子の言動に、翔太は体をこわばらせた。用意していたように、いくつかの服をベッドの上に出したラウ子は、〝ユキちゃんはこっちが似合いそう〟だの、〝意外とギャル系もいけちゃう〟などと楽しそうだった。
ラウ子🤍「“ちゃんとやる気”なら、必要だもんね」
その言い方に、ほんの少しだけ引っかかる。
翔太💙「……」
何も返せない。
ラウ子はくるりと背を向けた。
ラウ子🤍「来て」
当然みたいに言う。
迷う時間なんて、与えない。
どれも、“翔太”のためのものじゃない。
ラウ子🤍「どれがいい?」
軽い声。
選ばせてるようで、選ばせていない。
翔太💙「……」
視線が、止まる。
短いスカート。
落ち着いたモノトーンカラーのワンピース。
ラウ子🤍「あ、それ似合いそう」
先に言われる。
逃げ道を塞ぐみたいに。
翔太💙「スカート短くないですか?」
ラウ子🤍「だからいいんでしょ。ほら、着てみて」
翔太💙「……ここで?」
ラウ子🤍「何?」
首を傾げる。
ラウ子🤍「今さらでしょ」
軽く笑ったラウ子。
翔太💙「……」
指が、動かない。ラウ子は一歩近づく。
ラウ子🤍「手、止まってる」
翔太💙「……」
ラウ子🤍「やめる?」
その一言。でも、選択肢にはなっていない。
翔太💙「……やります。仕事、なんで」
小さく。でも、はっきりと。
ラウ子は、満足そうに笑った。
ラウ子🤍「いい子」
その言い方が、やけに耳に残る。
――布が、擦れる音。
服を脱ぐ。
体温が、少しだけ下がる。
ラウ子の視線が、離れない。
隠す意味なんて、もうないのに。
それでも、少しだけ背を向ける。
ラウ子🤍「前向いて」
軽く言う。
逆らえない声。
ゆっくり、向き直る。
ラウ子🤍「うん」
満足そうに頷く。
ラウ子🤍「やっぱり“ユキ”の方がいい」
その一言が、胸に落ちる。
翔太💙「……」
何も言えない。
ラウ子🤍「ほら」
近づいてくる。
指先が、顎を持ち上げる。
ラウ子🤍「顔、ちゃんと作って」
鏡の前。
そこにいるのは、翔太じゃない。
ラウ子🤍「笑って」
命令。
翔太は、少しだけ口角を上げる。
ラウ子🤍「違う」
即答。
ラウ子🤍「もっと」
距離が近い。逃げられない。
ラウ子🤍「“欲しがられる顔”」
――ぞわ、と
背筋が、震えた。
その言葉に、一瞬だけ、別の声が、重なる。
〝いい子……もう戻れないよ――〟
「……っ」
息が、詰まる。
――違う。
あの時と、同じじゃないのに。
分かってる。
違うって、分かってるのに。
身体が、勝手に、思い出す。
ラウ子🤍「ほら、もう一回」
軽く頰を撫でたラウ子。その手は優しいのに、瞳は鋭く翔太を捉えて離さなかった。
ラウ子🤍「そうだ、今度は好きな人を思って笑って見せて」
好きな人……。
コメント
4件

なんだか、難しい。 ユキて、なんだっけ。戻らないとだな。花とみつばちみたいに色んな虫が寄ってくるのね🥺