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ある日の昼過ぎ、シングルファザーの加村矢吹は、昼食を終えて会社へと戻っていた。
「あぁ、また仕事かぁ」
「プルルルプルルル」
「ん?誰からだ……」
加村のケータイの液晶には、保育園の文字が大きく表示されていた。
「もしもし」
「加村さんのお電話で間違いありませんか?」
「はい、何でしょうか?」
「ちょっとトラブルがありまして。今からこちらに来ていただくことは可能でしょうか?」
「ええと、ちょっと仕事が」
「そうですよね。お迎えの時にお伝えします」
「あぁ、はい」
(何なんだ今の人。これじゃ気になって仕事にならねえ)
加村は、ズボンのポッケからハンカチを取り出すと、冷や汗を拭った。
そして夕方。
仕事を終えた加村は、一目散に保育園へと向かった。
「あっ俊真くんのお父さん」
走ってきた加村を見つけた若い男性が、小さく手招きをした。
その男性の着ているエプロンの、左胸の桜のワッペンには「田村」と書かれている。
「田村先生!お昼の電話は?」
「あぁ、その事なんですが……」
田村先生は、目を細め、申し訳なさそうな顔でさくら組の部屋を見た。
そこには、楽しそうに遊ぶ子供たちの姿と、端っこの机で、独りで塗り絵をしている俊真の姿があった。
俊真の右頬は、痛々しいくらい真っ赤に腫れている。
しかし、泣きもせず、悲しい顔もせず、一生懸命な顔で塗り絵をしている。
「俊真?……田村先生、何があったんですか?」
続く