side.涼架
あのラジオ収録から数日後、元貴は予定通りお仕事で海外へ。
といっても数日で帰ってくる···そう思っても同じ日本にいないというだけで寂しい僕はもう元貴がいないといられなくなっちゃってるなぁ、なんて思う。
本当はあの日、僕の部屋のスペアキーをそのまま持っていてほしい、と渡したかった。けど···恋人でもないのに、と躊躇してやめた。手をそっと重ねれば濃密に握り返してくれるのに、元貴との距離は近くて遠い。
「はぁ···早く帰ってこないかなぁ」
「元貴?明日には会えるでしょ、今日には日本に帰ってくるんだし」
若井はギターの手入れをしながらこっちも見ずにさらっとそう返す。
「そう、だよねぇ···もうすぐ空港に着くかな?今日は遅いから顔出さないって言ってたよね」
「だねー、まぁ時差とかあって疲れてるだろうし、さすがの元貴も家に帰るでしょ。俺たちももうすぐ終わりだし、ちょっと遅いけどなんか食べに行く?」
なんだかんだ若井も寂しいのかも。久しぶりに2人でご飯もいいかもしれない、元貴がいると強制イタリアンだしなぁ、たまには違うもの食べたい、なんて少し気分が明るくなる。
「いいね!行こう行こう」
若井は手入れしたギターを置いて何食べよう、と言いながら早速スマホを覗いている。じゃあ、僕も帰る用意をしちゃおう、とパソコン作業を終わらせようとモニターに向かい合う。
「······涼ちゃん、元貴が乗ってる飛行機って何時着だっけ?」
やっぱり若井も元貴なことが気になるんだぁ、なんて思いながらそれに答える。
「たぶん21時着の520便でしょ、僕の誕生日と1つ違いだなぁなんて思ったからよく覚えてる」
「···それって本当?間違いない?」
若井の声が震えているのに気づく。
スマホを握りしめて画面を見つめる若井は血の気が引いたような真っ白な顔をしている。
「これ、緊急速報で···21時着の520便が胴体着陸して···大変なことになってて···これ、元貴の乗ってる飛行機じゃないよね?」
どういうこと?
若井の言葉の意味が理解出来なくて返事が出来ない。
「涼ちゃんパソコン貸して!」
ニュース速報を調べるとまさに今、炎上している機体の映像が流れる。
空港は騒然としていて画面の中では原因不明、消火活動中、なんて同じ文字が何度も流れている。
周りのスタッフたちが僕たちの会話を聞いて集まってくる。
まさか、そんな···誰か同行しているスタッフに連絡が取れないか、マネージャーは?と一気に騒然となる。
うそ、そんなことあるわけないよ。
若井何言ってるの。
僕は元貴に電話をかけた。
·········電源が入っていないか、電波の届かない—-
スピーカーにしていた為、その機械的な音声を聞いて先ほどまで騒がしかったこの場がシン···と静まり返る。
うそうそ。
そんな時だってあるよ、移動中とか。
静まり返ったスタジオにバン!と扉を勢いよく開けて入ってきたのはマネージャーで、その表情は動揺しきっていた。
「話、聞きました、あの飛行機にたぶん大森さん乗って···ます、詳細はわからないけど予定通りならあの飛行機に······今、誰か連絡取れないか調べてますので」
そう言ってまた外に飛び出していった。
みんな何言ってるの?
そんなわけない。
ありえない。
身体中の力が抜けてその場にガクン、と座り込んでしまう。
「そんなわけないよ···だって、元貴すぐ帰ってくるって言ってたよ···」
どうしてみんな暗い顔してるの。
若井なんて目を真っ赤にして泣いちゃいそうな、へんな顔。
だって、元貴は帰ってきたらまた僕が作るトマトパスタ食べたいなぁ、お願いって言ってた。
もう材料買ったよ、いつでも作ってあげられるんだから。
それに僕まだ元貴に言わなくちゃいけないことがたくさんあるのに。
「元貴、帰ってくるよね···?」
若井、泣いてないで返事してよ。
誰でもいいから、答えて。
コメント
4件
涼ちゃん……
😿😿😿😿😿😵💫😵💫😵💫😵💫😵💫😵💫