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私には親友がいた。愚痴や秘密を躊躇わなく言える親友が。その親友と居れば嫌な事も苦しい事もどうでもよくなっていき心が自然と軽くなった。牧場仁美。これが親友の名前だ。牧場はとてもお人好しで初対面でからかってくる面倒臭いひとでも丁寧に対応していた。私なら到底できないことだ。そんな牧場は家族以上に私のことを可愛がってくれた。それは私の目から見ても分かった。「大井静流ちゃん。」牧場は何故か私の名前をフルネームで読んでいる。人が多くいる賑やかな場所で大きな声でフルネームを言われると気恥ずかしくなり少しばかりやめてくれと思ったが彼女の性格を知っているからあまり気にしなかった。そんな彼女と急な別れが起きたのは今から1か月前だ。
1か月前私の地元ではとある事件が起きていた。女子高生が森の中で全裸になりながら血だらけで死んでいたこの事件。小さな地元はすぐに大騒ぎになり連日メディアなどが私の町に訪れていた。女子高生を殺した犯人は今も見つかっていない。事件現場に証拠となるものがひとつもなかったからだ。そのため事前に組まれた殺人計画だと考えられた。私と牧場は殺された高校生とは違う高校に通っていたがやはり同じ年齢の人が殺されるというのはただ無関係な人達でも同じ高校生と言うだけで大勢の生徒が恐怖に脅えていた。私もその一人だった。「殺人事件なんて怖すぎるよね」冷静な口調でそう言った牧場に少し驚いたが私も「そうだね。」とどうでもよそうな口調で述べた。しかしこの事件が私たちに関与しているなんてこの時知る由もなかった。いや知る原因がなかった。
牧場の表情が暗くなったのはそれから一週間後のことだ。いつも通り牧場に手を振って挨拶をしても直向き足を擦るように歩く姿に私は直ぐに違和感を覚えた。急ぎ足で牧場の方に近づくと明らかに顔に元気がなかった。目のハイライトもまるで無く、いつも綺麗で艶がある白い肌は今回ばかりはくすんだ薄いグレーのように見えて、私は牧場に何かあったのだと思い、私は遠回しに聞いてみたのだが、なんでもない。の一点張りでそれ以上は口には出してくれなかった。それほど苦しい思いがあったのだろうと思い。私はあまり首を突っ込むのをやめた。私が落ち込んでいる時も牧場は問い詰めず、牧場がそばにいるだけで心が落ち着いたのだから今度は私がそれをする番だ。
今日はわたしが牧場を守る。いつも守られてばかりだったから少しでも恩返しをしなければ。これを恩返しというか分からないが彼女にとっては嬉しいと感じてくれるだろう。そう思っていたのに・・・昼の休み時間生徒が食堂やクラスで食事をしている時間、私は1階の職員室前横にある自動販売機ではお茶を買っていた時、階段を登っていく牧場の姿が見えた。この時間に牧場が階段を登っているのはおかしいと思い、私は牧場の後を着いて行った。別にバレてもいい人なのに何故か私は足音を潜めゆっくりと彼女のあとを着いて言った。でも牧場はきっと私がうしろにいると知っていたのだろう。今まで早歩きだった足が急に遅くなったからだ。そして階段を登っていくうちに屋上に着いた。屋上に来るのは初めてだった。私の学校の屋上は飛び降り防止のフェンスは無くそれにもかかわらず屋上に繋がる扉はいつも鍵がかかってなかった。鍵が使えなくなったのかそれとも生徒が入らないと先生が思い込み、そのままにしておいたかどちらかは分からないがいつでも入れる状態だった。
そんな時牧場は私向かって言った「ねぇ、今の人生楽しい?私はもう十分。あなたと出会えてよかった。」そう言った牧場の瞳には大粒の涙が流れていた。牧場になんと返そうと下を向き考えている間空間内に衝撃音が鳴った。驚いたと同時に見上げると目の前にいた牧場がいなかった。
私はすぐに屋上から地上を見下ろした。嘘であってくれと心の中で願ったがその願いは叶わなかった。頭から血を流しうつ伏せで倒れている牧場の姿が目に焼き付いた。私はあまりの光景で声もまとも出ず、その場で立ち竦んでしまった。すると目の前に遺書があることに気がついた。その遺書にはこう書いてあった。
ー遺書ー
私はもうあの人と一緒にいることはできません。いつも一緒にいてくれた人ですが私の心はあの人のせいで壊れてしまったのですから。勝手な私を許してください。
短い文章でまとめられた遺書は黒インクが涙で滲み読みにくい所もあった。遺書に書いてあったその人とは私はすぐに誰かわかった。それは自分ではないかと、いつも一緒にいる人、そういえばと私は風の噂で牧場がクラスメイトにいじめられているというのを思い出した。私と牧場はクラスが違う。いつも酷いいじめをされたのにも関わらず私にバレないように接してくれたのが心をえぐってしまいこんな事になってしまったのだろう。そして私はそんなことを忘れていつも牧場に頼ってばかりだった。牧場を自殺に追い込んだのは私と言っても過言ではない。心をえぐったのはクラスメイトだが自殺に追いやったのは私だ。私が人を殺した。親友を殺した。殺した…殺した…殺した…。私はそう何度も心の中で言い続けた。しかし私は彼女の為に彼女の未来の為に生きなければならないと誓い、私はこの場を後にした。
それから3日後牧場の両親は私の家にやってきた。親友あったことから私を心配してれてお土産を持ってきたのだと言うが私は大きなお世話だと感じた。「いつも一緒にいてくれたのにこんな事になってしまうなんて。」私はその言葉にあまり感情が乗っていないことが不審に思えた。だがお土産は一応貰っておこう。〈大原栗まんじゅう〉牧場が1番好きなお菓子だった。私はあの時を思い出しゆっくりと口を開け頬張った。甘い香りが口の中で広がり、それと同時に当時のことを思い出し自然と涙が溢れた。そんな日の夜だった。今日は両親は遅く帰って来ると連絡があった。両親は共働きをしていて同じ職場である。大事な会議があるからとそう書いてあったがいつも遅れる理由は会議だと言っていた。本当に会議なのかは分からなかった。そんな時私は疲れからかそのままソファで眠ってしまった。その時家の中から物音がした。何かが倒れるような音。私は目を覚ましとっくに夜が迎えていた事を知る。そして物音がなった方に近づくと頭に激痛が走った。私はその場で倒れ何が起きたのか分からなかった。ゆっくりと自分の頭を撫でると指に血が着いていた。
血、血、血、これは私の血!血!血!
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
死にたくない、死にたくない、死にたくない
そう思いパニックを起こしてしまった。目の前には、2人の誰かが立っていた。その1人の手にはハンマーがもしかしてこの2人はあの事件の犯人でないか、今度は私を殺しに来たのでないかと思い私は必死の思いで逃げた。玄関を見るとこじ開けられたのが分かる。私を殺そうとしている2人も私のことを必死に追いかけてきた。殺される!そう思い狭い部屋の中を走り回った。家具が身体に当たるがそんなこと気にしなかった。「待て!」大きな声で怒鳴られ私は驚いたがそんなこと気にしなかった。そして私はキッチンに追い詰められた。両側から塞がれもう逃げ道はないと思い、殺されると思った瞬間私は目の前にあった包丁を思いっきり2人に向かって振り回した。暖かい液体が私の身体に飛び散る。それと同時に悲鳴が鳴り響いた。その場で倒れる2人。私はあの事件の犯人を殺した。私はすごいことをしたのだ。そう思っていたのに、目の前にいたのは血だらけで倒れている私の両親。父親の手にはスマホが握られていた。
フローリングには血が着いた花瓶が、この花瓶で頭を打ったのだと分かった。私はどうやら夢を見ていたようだ。そして両親を知らないうちに殺してしまった。私がどんな罪に問われるかはもう知っている。今から警察に通報する。もう死刑でもなんでもいい。逆に死刑の方が牧場に会えるのでないかと思ったくらいだ。両親を殺してしまったことは後悔している。でももうこの後悔を取り消すことは出来ない。この過ちを認めないといけない。そうしなければ一生この傷は癒えないままだ。
𓏸𓏸町女子高生殺人事件の容疑者として牧場 友恵(47)、牧場和樹(50)が逮捕された。2人は1週間前に殺人を計画したことを認め、女子高生を誘拐し、人気のない森の中で殺したことを認めた。容疑者の娘は両親が殺人犯だということ知り、学校の屋上から飛び降りた。また噂となっているいじめは嘘であると判明。遺書にはもうあの人とは一緒に居られないと書いてあったらしい。