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「さて、里見殿」
佐竹義重が里見義堯に声をかけた。
「憲政様は、箕輪にいらっしゃった模様」
「そうか……」
義堯は頷く。
「まあ、わしは変わらぬ」
「海から――」
「奇襲、奇襲、奇襲じゃ」
「箕輪に監視を北条は入れるとの読みだったからのぉ」
義重はそう言って、地図へ目を落とした。
「我々は別働隊として独自で動き、
動きを悟られないようにする」
「それが、あの女の読み」
「癪だが、従う他あるまい」
「これからの方針は里見殿におまかせするが、佐竹も協力させて欲しい」
「海戦に慣れておらぬゆえ、
教えていただきたいという思惑もある」
「山は武田。
陸は上杉、長尾。
海は我々で行きましょう」
義堯はしばし考え込んだ。
「……ふむ」
「たしかに武田が甲斐から南下すれば、上手く行こう」
「長野どのには手紙を送るか」
「我々で海からの補給をさせないようにすれば、 北条もやがてきつくなりましょう」
「なるほど」
義堯も頷く。
「そうするなら、たしかに里見だけでは無理であるな」
「では早速、海での戦をお教えしよう」
「時間が惜しい……」
「よろしくお願いいたす」
義重は深く頭を下げた。
――――――――――――――――――
そして、海戦の訓練が始まった。
「……^^;」
船が大きく揺れる。
佐竹の兵たちは、青ざめた顔で手すりにしがみついていた。
「😱」
「うっ……」
「こんなに揺れるのですかな……」
「うっ……やばい……」
「おいやめろ……?!」
里見義堯は、そんな佐竹兵たちを眺めながら淡々と告げる。
「……この揺れに慣れてもらわねば、
海の戦はできませんぞ」
「揺れる船で正確に相手を倒す技術もいる」
「船酔いしておらぬものは、早速あの的を狙え」
「何度も攻撃するのだ」
「はい!」
里見兵の一人が槍を構える。
「いいか、こうするんだ」
「えいっ!」
ズドンッ!
槍は見事に的のど真ん中へ突き刺さった。
「ほう……」
義重が感心する。
「槍が見事にど真ん中」
「貫通しておる」
「なるほど、揺れる勢いで刺したのですな」
「その通りじゃ」
義堯は満足そうに頷いた。
「戦場を味方にすれば、北条恐るるに足らず」
その一方で、佐竹兵の一人は青ざめた顔をしていた。
「殿……」
「的が三重に見えるのです」
「何故ですかね……」
「ゆさゆさ」
義重が肩を揺さぶる。
「しっかりせぬか」
「殿、逆効果です!」
別の兵が慌てて止めた。
「お辞めください……💦」
義堯は兵の様子を見て、ため息をついた。
「……限界だな」
「おい、こいつを船から下ろし、休憩場へ運んでやれ」
「無事なものは、そのまま攻撃を続けよ」
「はい!」
義重はふらつきながらも槍を握り直した。
「おう……」
「船酔いに負けてたまるか」
「船酔いに負けていては、北条に勝てぬわ!」
「おりゃー!」
槍を構え、的へ刺そうとする…。
しかし――
「……」
的に刺すことは出来なかった。
義堯が目を細める。
「惜しいな……」
「少し的にかすった」
「初手でこれは筋が良いぞ」
「鬼と呼ばれているだけはあるわ」
義堯も槍を手に取った。
「わしも見せねばな……」
シュッ!
船が大きく揺れた、その瞬間。
義堯はその揺れに合わせて槍を投げる。
――ズドンッ!
遠くの的のど真ん中に、槍が突き刺さった。
「さすがです、殿!」
里見兵から歓声が上がる。
義重は目を見開いた。
「信じられん……」
「あの揺れで当てられるとは……」
「絶対、物にしてやる!」
里見兵の一人が笑う。
「この揺れで当てられなければ、やられるぞ」
「できないなら、徹底的にできるまで体に覚えさせるしかない」
「頑張れ、佐竹家の皆!」
「終わったら酒でも飲もうぜ!」
佐竹兵の一人が青ざめる。
「船酔いしてるやつに酒は悪手では……」
「船酔いを酒で治すんだよ」
「へへへっ」
「殿……大丈夫ですかな……」
「うう……船酔いが……」
義重は苦しそうにしながらも、槍を握り直した。
「でも、負けてたまるか……!!」
義堯が力強く頷く。
「その意気だ、義重殿」
「必ず倒そう、北条をな」
――――――――――――――――――
訓練後。
里見義堯が一通の書簡を手に、義重へ差し出した。
「佐竹殿……」
「この書簡を」
「箕輪で事件があったようだ」
「…………!!」
義重が書簡を読む。
「憲政様が襲撃だと……」
「なんと卑怯な!」
義堯は静かに頷いた。
「無事だったのが、不幸中の幸いじゃ」
「それと、先程話していたことは、
こちらからの返書として送っておいた」
「船酔いでお辛かろう」
「今は休まれよ」
「そ……そうさせていただく」
「もう限界でして……」
そこへ、里見兵が豪快に笑いながらやって来た。
「おう、佐竹の殿様!」
「酷い船酔いか、笑」
「酒飲んで直そうぜ!」
「俺も昔はそれで直したんだ!」
「ははははは!」
「やめて……泣」
佐竹兵が慌てて止める。
「逆効果です!」
「お辞めくだされ!」
「へへへっ、大丈夫だって」
「ほら、飲もうぜ!」
「⸜(* ॑ ॑* )⸝ウェェェェェイ」
義堯が眉をひそめた。
「これ」
「嫌がっているやつに無理やり飲ませるのは良くない」
「その酒、全てこっちによこせ」
「飲まずにやってられるか🔥」
「それでこそ殿!」
「飲みまくりますぞー!」
「…………」
義重は思わず青ざめた。
「……恐るべし、里見家……」
ワイワイ、ガヤガヤ。
こうして、里見家の酒宴は続いていった。
――――――――――――――――――
翌日。
「さあ、昨日の続きだ」
義堯の声が響く。
「……うう」
義重は船に乗り込みながら、辛そうな顔をしていた。
「揺れが辛い……」
「ところで里見殿」
「かなり飲まれていたのに、酔いは……」
義堯は何でもないことのように答える。
「心配するな」
「わしらは、迎え酒して直してきたから」
「へへへっ」
里見兵も笑う。
「やっぱり酒は薬ですな!」
「ははははは!」
「えっ……」
義重は唖然とした。
「酒を……大丈夫なのですか?!」
「大丈夫だって」
里見兵は弓を手に取る。
「今度は弓で的を狙う」
「ほらな!」
「真ん中に当たったろ!」
「ははははは!」
「佐竹の殿様も、やってみるか」
「…………」
義重は目を疑った。
(マジか……)
(酒飲んでるのに当てやがった……)
(そして解決策、ぶれねえな……)
(まさか、義堯殿譲りだったとは……)
「おう、やってやる……」
「弓を貸してくだされ」
弓を受け取る。
船が大きく揺れる。
義重はじっと的を見つめた。
「…………」
そして――
「ここだっ!」
放つ。
ヒュンッ!
矢は的の中心から少し外れた。
しかし――
「おお!」
里見兵が声を上げる。
「もうギリギリとはいえ、的に当てたんか!」
「すげえな、佐竹の殿様!」
「今度は一緒に飲もうぜ~」
「強いヤツと飲むの好きなんだよ」
「……あ、ありがとうございます……」
義重は引きつった笑みを浮かべた。
(やめろ……)
(やめてくれ……泣)
義堯は満足そうに頷いた。
「義重殿」
「揺れを読むことを覚えたようだな」
「その意気だ」
「それと…今日は全員、的の真ん中に攻撃を当てるまで辞めないからな」
「時間が無いから許せよ★」
「…………」
佐竹一同の顔が、一斉に青ざめた。
「ひええええええっ!」
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こうして、地獄の訓練は夜通し行われた。
最初に的の真ん中に当てたのは、もちろん義重殿。
それに続いた佐竹の兵たちの奮闘は、
今でも里見家での伝説となっておる。
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「……む?」
義堯が首を傾げた。
「我らのことか……?」
「それは佐竹家の方で伝説になっておったよ」
「ハッハッハ!」
富来 えび
122
#自分用
富来 えび
20
һагυ_彡
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コメント
1件
いやあ、面白かったですね!里見義堯の「酒で直す」精神がぶれなくて笑いました(笑)。船酔いで青ざめる佐竹兵たちと、ケロッとしてる里見勢の対比が絶妙で、戦略の話もちゃんと進みつつ、キャラの人間味がしっかり出てるのが琴寧さんらしいなあと。義重殿が「マジか…」と絶句するところ、すごく好きです。訓練の厳しさも伝わってくるのに、どこか温かい空気があるのが不思議で、でもそれがこの物語の良さですね!