テラーノベル
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「……それで、何だよ? 俺が、よく働くって?」
グラスを空けて、「俺にも、新しいのを」と、鷹騰社長がマスターに頼む。
「働いてるじゃないですか。昨日も夜中まで明かりがついてましたし」
昨夜、気づいたことを告げると、
「ああ、見たのか。パソコンを開けたら、片付けないとならない案件が目に入ってな……夜中にパソコンなんて、開くもんじゃないよな」
そう横で話して、口の端に軽い笑いを浮かべた。
「うちの彼氏なんて、とっくに寝ちゃってたのに」
「彼氏?」と、視線がチラリと送られる。
「そう彼氏です……うちの情けない彼氏……」
グラスから一口を流し込み、溜まっていたことをつい愚痴った。
すると、説き伏せるような口調でこう伝えられた。
「そんな風に言うもんじゃない。少なくとも、今はまだ泣くほど好きなんだろ? だったら情けないなんて、男のことを言うなよ」
「別に……泣くほど、好きってわけでもないけど……」
小さく呟いて、今さらもう春樹のことなんか、どうでもいい気がした。
「それに俺だって、眠れるなら寝たいんだし。俺は、仕事に追われすぎなだけなんだよ」
ふぅっと横で息を吐いて、彼がマティーニのグラスを口元に運ぶ。
「でも、睡眠時間を返上してでも働くとかって……」
テレビで見た話題を持ちかける。
「ああ……それは、”時には”って言っただろ。時間が許すなら、俺も寝たいんだって」
「……そうなんですか」
「ああ……」と、口直し代わりの水を呑み込んで、
「寝ようとすると、至急の連絡が入ったり、メールが着たりしてな。寝る時間がなかなか取れないから、テレビで話したあれは、俺の負け惜しみだよ」
鷹騰社長が、そんな風にも口にする。
「……負け惜しみ、ですか?」
「そう……そういうことにしておきたいんだっていう、負け惜しみだ。自分が寝られない程、仕事に追い立てられてるなんて、思いたくもないからな……。
だから、ビジネスチャンスだとか言って、かっこつけて自分をごまかして……」
カクテルグラスを手に、そこまで話して、
「……って、俺は何を話してんだろうな……」
ふと彼が言葉を切った。
「……なんで俺は、おまえ相手に本音なんか……」
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ホクロの住民
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#学校
より
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マティーニを喉元を上下させて飲むと、
「……聞かなかったことにしろよ」
私に顔を向け、声を落としてそう含むように言ってきた。
「いいですけど……」
鷹騰社長の本音が聞けたのは少し嬉しかったけれど、どうしてそれを聞かなかったことにしなきゃいけないんだろうと思う。
「……かっこ悪いだろうが」
ボソッと低く呟く彼に、
「かっこ悪い?」と、聞き返す。
「俺は、かっこ良くいたいんだよ。……隙は、周りには見せたくないんだ」
「はぁ、そうなんですね……」
私には別にどっちでもいい考えな気もして、やや適当に返事をすると、
「……おまえ、どうでもいいとか思ってるだろ」
と、心の内をあっさりと見抜かれてしまった──。
コメント
1件
読了しました。第10話、いいですね。鷹騰社長が「負け惜しみだ」と本音をこぼす場面、すごく人間味があって惹かれました。かっこつけたいけど隙を見せてしまう、その「かっこ悪い」を隠そうとする感じがむしろ魅力的です。最後に心の内を見抜かれて「どうでもいいとか思ってるだろ」と返す掛け合いも絶妙。二人の距離がじわじわ縮まっていくのが心地良いですね。続きが楽しみです!