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ホクロの住民
36
278
#学校
より
84
「でも、そんなのって、本当にどっちでも……」
つい実際に思っていたことを言いかけると、
「……かっこつけることも、男には大事なんだよ」
鷹騰社長が口にして、マティーニをぐいっとひと息に飲んだ。
「いいか? だから俺は、本音は簡単には見せない……はず、だったんだがな……」
そうして、ふと自分の言動を考え込むように、カウンターに片手で頬づえをついた。
「……とりあえず、忘れとけよ。さっきのは」
「はい……」鷹騰社長がそうしてほしいなら……と、おとなしく頷く。
すると、彼が頬づえをついたままじっと私の方を見据えて、
「……おまえと話してると、なんか調子が狂うんだよな……」
一言を呟いて、首を傾げたところへ、不意に店の電話が鳴り響いた。
電話に応対したマスターが、
「鷹騰社長、お電話です」
と、コードレスホンを渡す。
受け取って、話し終わった彼が、
「悪い。これからここで打ち合わせがあるんだ。俺から誘っておいて申し訳ないが、帰ってもらってもかまわないか?」
と、私の方へ向き直った。
「はい……こちらこそ、誘っていただいてありがとうございました」
頭を下げて、カウンターの丸イスから立ち上がる。
「すまないな。だが、もう帰れるようになっただろ?」
かけられた言葉に意外な心配りを感じつつ、「はい」と頷いた。
「帰る前に、メイク直していけよな」
そんな気遣いまでしてくれたことに、春樹にはなかった思いやりが感じられて、ささくれていた胸の内がほぅーっと落ち着いていくようにも思えた。
トイレで軽くファンデを塗りリップグロスを引くと、鷹騰社長に「ありがとうございました」と、もう一度お礼を伝えた。
「ああ、いいって。じゃあ、また……な」
上げられた片手に、軽くお辞儀を返してお店から出た──。
電車に乗り自分の家へ帰る途中、(なんかちゃんと喋ってみたら、割りといい人だったな……)と、感じていた。
ここまで次々評価が変わる人も、珍しいかもしれないと思う。
第一印象では横柄にしか見えなかったのに、二度、三度と会う内に、なんだか印象が変わってきて、
名前を褒められた時にはちょっと気恥ずかしくなって、思わず惹かれそうにもなる程だった。
不思議な空気感のある人──っていうか、あれが大勢の人達を取りまとめる社長の器ってものなのかな。
そんな風にも思いながら、だけどもう会うこともないんだろうな……と、ぼんやりと感じる。
『また……な』とは帰り際に言ってくれたけれど、だからといってまた会える保証なんて、あまり思いつかなかった。
それに春樹とは、このまま自然消滅もあり得そうだったし、
あのマンションに行くこともなければ、あんな有名人の彼とは、二度とは会う機会もなさそうに思えた……。
コメント
1件
第11話、読ませていただきました! 鷹騰社長の「調子が狂う」って言葉、すごく響きました。強面だけど急に見せる照れや気遣いのギャップに、主人公と同じで私もドキッとしました。名前を褒められたシーンから帰り際の「また…な」まで、さりげない優しさがじんわり沁みますね。一方で春樹との自然消滅の予感もあり、この先の展開が気になります。二人の距離がどう変わっていくのか、引き続き楽しみです!