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佐野くん、思った以上にムカつく性格してた
最近、チャシロの様子がおかしい。前よりも付き合いが悪くなった。バイト先の先輩にもそうなったらしい。それより、あのお人好しで誰にでも人懐っこいチャシロが皆に冷たくなったギャップには俺も心も驚きを隠せなくて、トビはとてつもなく落ち込みつつ心配してた。どうしたものかと考え込んでいたら
「さっとうー!!」と元気よく呼ばれた。チャシロじゃない。先月、転校してきた佐野だ。ここの高校、才能高校は転校してくる人が多い。それはチャシロの養子?の白澤琉歌と言う人の不動産会社、白澤不動産の子会社がこの辺りM市は特に多く家族ごと転勤してくる人が多いからだ。佐野もそのうちの一人で中学1年の時まではここに居たが、引っ越して福岡の男子校にいたらしい。戻ってきたとか。佐野はチャシロよりかは背が高いが他の男よりも小柄で顔も悪くない、可愛さのある顔、声をしている。凄く面食いの心も前、男じゃなければなぁと言っていたくらいだ。けれど空気を読めなく、少しかまってちゃんの性格をしている。前までは男子校でチヤホヤ甘やかされていたんだろうなと予想出来てしまう性格だ。だから今日もこうしてチャシロの事を気にかけている俺たちを察せずに話してくる。そしてたまにチャシロを睨む。そういうのやめてくんねぇかなと内心モヤモヤしながら話す。佐野は相当チャシロの事が嫌いみたいで前、陰口を俺らに言ったのを思い出した。その時俺と心が不快に感じで注意したけどトビがその場にいたらヴォルデモートになり、佐野はもうこの場にいなかったと思うほど酷い陰口だった。何でそんなに会って間もないのに嫌いになるんだろ。それにチャシロは嫌われるような自己中なやつでもないし、佐野のような空気が読めなく、構ってちゃんでもない。係の奴が決まってるゴミ捨てがサボられてるのを気にして自分から捨てに行くし、たまにバレーとかバスケの助っ人もしてくれる。ただただ優しくて裏表もない人がいい奴だ。そんなチャシロを見て俺は直ぐに友達になろうと思った。昔からの幼なじみの心は人見知りが激しい奴だったけどチャシロ相手だとすんなり話せる。それほどチャシロは話しやすい奴なのだ。それなのに佐野はチャシロが嫌いという。単なる逆張りじゃねぇの?。呆れが口から出そうになり出かけた言葉を慌てて止める。
「あ、ちょうどいい所に。砂東、五十嵐、糸操、白澤、佐野、ちょっとこい」
センコーに呼ばれて驚いたが俺は黙って着いてく。ふいとチャシロを見るとまたボケーッとしてた。心は口を尖らせめんどくさそうな顔トビはチャシロを見て困り顔を作っていた。佐野はと言うと頬を膨らませ「むぅ」と言っていた。これが世間の言う犬系男子というものだろうか。かなりキツイが顔が可愛いので可愛く見えてきた。目がおかしくなった気がして前を向いて歩いた。着いた先は汚れた部室だった。ソファや棚にはホコリが被っており、薄暗い。
「何ですか?この部屋」
「ああ、元々ここは美術部の部室だったんだが新しい部活できるから引越しさせたんだ」
「美術部の奴らはコンクールとかあって掃除できないらしいし」
「まさか…掃除しろってことですか…!?」
「そうなるな」
「はぁ!?やですよ!」
「佐野は美術部でもあるだろ。これは本来お前の仕事だ。」
「仲間達からもコンクールあるからやってねって言われただろ?」
「ぅ…っ」
「終わったらアイス奢るからやってくれ、頼むお前らしかいねぇんだ」
「…アイス…」
アイスと言う単語にすかさずチャシロが反応した。そういうところは通常運転なんだな。少し安心した。本当に最近のチャシロは笑顔を見せてくれなかったから。少しだけ微笑んでいた。俺らはその微笑みに負けた。
「わかりました!今回だけッスよ!」
「任してくださいよ!」
「おお、助かるなありがとうお前ら」
「え!皆…僕のために!」
俺らはあくまでチャシロの為に掃除するからであって決して佐野の為じゃない。それなのに馬鹿な佐野は勘違いをする。
「さて、まずは窓から開けるか」
「うわー、ホコリが…」
「ょいしょ…えい!」
「ちょ、佐野!そんな勢いよくカーテン開けたら…ブェッックショオン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うわー、ウケる笑」
「うわ!へっ…くしょん!」
「…くしゅん…!!…けほっけほっ」
佐野が思い切り埃まみれのカーテンを開けるものだから、ホコリが辺り一面に舞い、鼻に攻撃をする。俺のくしゃみはでかいからあんまりしたくねぇのにしちゃったじゃねぇか。心は顎にかけていたマスクを鼻までつけてホコリ攻撃をガードする。せこいぞ!トビは為す術もなくただくしゃみしてた。チャシロは空色のパーカーの袖を口に当てて隠すように咳とくしゃみをしていた。一方佐野は「くちゅっ!」と言ったガムをカム音のようなくしゃみをしていた。ぶりっ子は嫌いだ。面倒臭いから。
「さぁ、何からする? 」
「とりあえずそのダンボールをどうにかするか」
山積みになったダンボールをどうにかしようという話になった。佐野が言うにはブと書かれた箱を新しい部室へ、ビと書かれたダンボールは美術室へとのこと。
「あ、俺美術室に持ってくね」
「おう!チャシロ頼んだ」
「うん」
「あ、僕もついでに」
佐野が荷物も持たずにチャシロについて行った。俺らは呆れた顔で顔を見合い、佐野がチャシロのことが嫌いなのを思い出し休憩としてこっそりついて行った。
「ねぇ、チャシロ」と何かを企んでいるような笑顔を浮かべながらチャシロへ話しかけていた。しかし…俺らには苗字呼びなのに何でチャシロだけ呼び捨てなんだろと思ってたら2人とも美術室に入って姿が見えなくなった。不安心を煽られた俺らはこっそり美術室を覗く。最悪バレたらチャシロが忘れ物をしていたと嘘をつこう。うん。そうしよう。美術室の扉に頭を出し覗く。そこで見た光景に俺らは言葉を失った。床に転がり落ちている真っ白なスケッチブック達とダンボール、それを拾おうとするチャシロの手。その手を踏み付ける佐野の足。チャシロの顔は佐野で隠れ見えなくて、佐野の顔は見える。馬鹿にしたような苛立っているかのような顔だ。トビが飛び出そうとしたが慌てて止める。だって今見られたら男のプライドを持ちかねているチャシロはそのプライドをバキバキにおられるからだ。この重たい空気の中最初に口を開いたのはチャシロだった。 「まだイジメとかしてるんだね。 」といつもの様なおちゃらけている見たいな声とかじゃなくて冷めきった綺麗な声だった。
「はぁ?だから何?そもそも何でお前が知ってんの?」
「福岡にいた友達が言ってたから。」
「そのお前の友達ってあれ?清滝?」
「ダメ、教えたくない」
「っテメェ!」
「…!」
佐野がチャシロの頭を掴み机に数回ぶつけた後、床に投げつけた。後腹を蹴った。これが俗に言うイジメなのだろう。チャシロの頭からは赤い水滴が滴り鼻からも滴っている。
「コケにするのもいい加減にしろよ!」
「白澤って言う名前を父さんから聞いて感づいたけど…やっぱお前だったわ」
「お前、調子乗ってんな?」
「別に…調子乗ってる訳じゃ…煙草やめろって言っただろ」
場所とかお構い無しに佐野はポケットから煙草をだし、火をつけた。佐野の足で見えないチャシロの顔が青ざめた気がした。俺はというと最初からずっとカメラを回している。心はウォルデモートになったトビを止めていた。佐野は煙草を二三回吸って、チャシロに近付けた。チャシロがいつも右目を隠すようにしている前髪をどけ、包帯を外した。右目にグリグリと煙草を押付ける。チャシロの声にもならない悲鳴に耐えられなかったのだろうか。心が「ごめん、蓮」と声を上げたのに気がついた。ハッとして心の方に振り返った時には遅かった。心の所にトビはいなく前を向いたら床に佐野が転がっていた。トビはチャシロに抱きついていて、チャシロは気を失っている。心は先生を呼びに行った。俺はそこに立ち尽くすことしか出来なかった。まさにカオス状態。
あの後先生が駆けつけ説明は後からと言って皆保健室へ行った。保健室の先生がチャシロは数針縫わないとダメと判断しチャシロは病院へ直行、佐野は残ってた。俺らはここに残ってろって、嫌だ、また佐野が勘違いする。先生から連絡がきた。チャシロは数日早くて明日まで、目が覚めないかもしれないとのこと。
「ん…ぅここは」
「よう佐野、目覚めはどうだ」
「砂東…くん!五十嵐くんも糸操くんまで!」
「全然大丈夫だよ♡」
佐野はその後嘘を言い始めた。チャシロに元々虐められていた今回は殴られて気を失いそうになったけどやり返したと。気持ち悪い。甘ったるい声も甘えるような表情も吐き気がする。俺らは数分くだらない嘘の話を聞かされたあと逃げる様に帰った。今日はみんな疲れてるだろうから明日、病院に行くという話になり佐野も着いてこようとしたが無視をする。あれから毎日病院に通った。しかしチャシロが目覚める気配は全くしなかった。
数日後、病院についてチャシロが居る部屋へ行った。部屋に着くとチャシロが寝ているであろうベッドの前に誰かが立っていた。その人は俺らに気づいて話しかけた。黒髪で身長が俺らより低く、上品な顔立ちで綺麗な赤目をしていた。
「おや、糸操さん達ではないですか」
「あぁ…お久しぶりです」
「トビ、知ってる人?」
「この人は白澤琉歌さん、チャシロの父親みたいな人だ。」
「おお、よく噂に聞いてます。チャシロの友達の砂東蓮です」
「い、五十嵐心です」
「そうでしたか。」
「ところで…病院へ行ったという事情だけは聞いてるんですけどチャシロくんは何故このような状態に?」
「あ…えっと…」
俺は急いでバックからスマホを取り出した。動画を撮っておいて正解だった。だが、今見せると白澤さんはどういう反応するだろか…止めなかった俺らを攻めるのか…。
「こんな事しか出来なくて…ホントごめんなさい」
「ふむ……………」
「写っているこの人は佐野くんの息子でしょうか?」
「え、知ってるんですか!?」
「はい、一応僕の子会社の人ですので」
「…この子がチャシロくんに…」
白澤さんは意外にも冷静だった。もっと怒り狂うんじゃないかと思ってた。だって白澤さんはチャシロの養子、いや、親だ。怒り狂っても仕方ない。白澤さんに聞こうと思ったらトビに止められた。沈黙が続く。すると、白澤さんの携帯から音がなり始めた。
「失礼」
「少し外に行ってきます。チャシロくんをお願いしますね」
「はい」
白澤さんの革靴の音が遠さがる、再び病室は沈黙に。けど、その沈黙は意外な奴に破られた。
「ん……んん」
「チャシロ……?」
「こ、こは……」
「「「チャシロ!!」」」
「ひっ!何って……トビ…砂東達まで」
チャシロが目を覚ました。これには俺ら3人も驚いてチャシロを驚かせてしまった。状況が分からず混乱しているチャシロに全て話す。全て見ていたこととか、プライドとか関係なく。チャシロは俯いて「うん」や「そっか」とか言いながらしっかりと話を聞いていた。ベットの掛け布団をキツく握りしめ、目元は赤くなり涙を押えていた。可哀想だ。話すのを辞めたい。けどここでやめてしまったらまた同じ事を繰り返す。今度はあの時みたいに雰囲気に縛られ動けないような過ちは繰り返したくない。トビが守るだけじゃダメだ。チャシロの先輩が守るだけじゃダメだ。俺らも守らないと。例え怪我しようとも、好きなバレーをやめようとも。そう強く覚悟を決めた。話終えるとチャシロは「ありがとう、ごめん」と複雑そうに微笑んだ。
「チャシロは…」
「……うん、砂東どうしたの?」
「佐野と、どんな関係なんだ?」
「……」
チャシロが再び無言になった。寝起きで頭が回らないのか言葉を失ったのか、チャシロは言葉を詰まらせながらも過去を話してくれた。身体を震わせながら。
「俺っ…」
「うん」
「その、イジメグループに、虐められててっ…」
「佐野は、そのリーダーでっ… 」
「叔父さんの…息子だからっ、だから気に入って貰えなくてっ…」
「だからっ、その…っ」
「…ぁぅっ…ごめん…なさっ…ぃ」
「もっ、話せない…っ」
「チャシロ、大丈夫分かったから」
「ありがとうな」
「ぅんっ……」
「ん、息しよ、俺の呼吸に合わせて」
チャシロが話しているうちに呼吸を忘れトビが背中を擦りながら呼吸をさせる。事情は分かった。ようは嫉妬に狂ってチャシロを虐めた。ただそれだけ。呼吸は出来るようになったが泣き止まない。一方、トビはチャシロの頬に手を当て撫でたり、頭を撫でたり。しまいには手を繋ぎ始め細く白い指をいやらしく撫で絡ませる。いつもは抵抗するチャシロが抵抗しないからって、やりたい放題だな。にやけ面が隠せてねぇぞコノヤロー。心は買ってきていた水をチャシロに渡す。俺は気づかないうちに手をチャシロの頭に置いてた。訳わかんねぇ。いつの間にか俺と心はチャシロ全肯定Botに流されてたみたい、流れってこわい。ひとしきり撫で回すとチャシロは安心したのか泣き止んだ。その後沢山話していたら廊下から落ち着きのある革靴の音が聞こえてきた。白澤さんが帰ってきたのだろうか。しかし、あってたけど違った。白澤さんともう2人来たから。1人は銀髪の長髪で伏せ目をしメイド服を着てた。もう1人を視界に入れると心は頬を赤らめた。俺でも知ってる。この人はチャシロのバイト先の先輩、冷鏡ヌコさんだから。いつも通り綺麗な空色のメッシュとインナーカラーの入った長い茶髪に学帽を深く被り黒いシャツに白いネクタイと上着だ。目が覚めていたチャシロに白澤さんやメイドの人は少し驚いたがすぐに冷静になった。冷鏡さんが低く冷たさのある声で「ナースコールはしたのか?」と聞いてきた。しまった、してねぇ。
その後すぐに看護師さんを呼んだ。チャシロは早くて明日には退院らしい。良かった。けど冷鏡さんに看護師を早く呼べと叱られた。あの人怖いよな、心は興奮してたけど。あのメイド服の人は花崎莉華というらしいチャシロと白澤と一緒に暮らしている召使いらしい。召使まで雇える底知れない財産に関心を持ったけど白澤さんのカリスマがすごいって本人は語っていた。今日はもう解散という形になり、帰った。寝心地がいい気がした。
木の葉もすっかり赤く染まり、朝にはひんやりとした空気が漂う季節に。季節はどんどん変わっていく、けど俺らは変わらずバカをして過ごす。チャシロの体調もすっかり良くなり佐野の事も克服した。それに白澤さんとヌコさんが裏で色々してくれたみたいで佐野は俺らに近づかなくなった。気分がいい。更に良くさせようと俺らは立ち入り禁止の屋上への階段を駆け上がる。冷えきったドアノブに手をかけガチャりと音を上げ扉を開ける。青く澄んだ空が視界一面に広がり、下を見下ろせば校庭でバスケやらサッカーをする楽しげな声、赤く染まりきった紅葉を包むように舞う葉っぱ。冷たいはずの空気が暖かく感じる。とても心地良い。その光景にチャシロは「わぁ」と感嘆の声を上げた。しかし寒いものは寒いようでトビから上着を着させてもらっている。ブカブカで萌え袖になっている。トビはその萌え袖に釘付け。心はずっと写真を撮ってる。やっぱり皆は変わらないな。凄く嬉しいし楽しい。秋と冬の狭間は1番嫌いだ。別れの季節への道だから。俺は先ばっかり見て逃げる、でもコイツらは違う。今を大事にして目の前にあるものに向き合う。秋が少しだけ好きになった気がした。そして俺は再び思う
好きだなって。