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第五十一章
覚悟
―殺意なき刃―
「……お前、俺を斬らないのか」
柄に伸ばした手を下ろした煉華に、右腕は静かに尋ねた。
「殺意がない相手を斬る趣味はない」
「そうか」
殺意がない。
そう判断して、自分から柄に伸ばした手を下ろす。
その判断は、あまりにも危険すぎる。
右腕は煉華をじっと見つめた。
「で……何の用? みんなを分断させた目的は?」
右腕は小さくため息をついた。
そして次の瞬間。
煉華の喉元には、右腕の刀の切っ先が当たっていた。
赤く、細い線が生まれる。
「!? っ、ぁ……っ」
「お前は、殺意がないと言ったな」
無表情のまま、淡々と告げる。
その表情は、いつもと何も変わらない。
早かった……。
全く見えなかった。
今、少しでも動けば、喉を掻き切られる。
本能がそう告げている。
煩いほどに、頭の中で警報が鳴り響いていた。
「俺は今も殺気を出していない。殺意もない。だが……少しでも手を動かせば、お前を殺せるぞ」
「!! っ……」
「この状況で、刀から手を離すべきではなかったな……」
右腕は、ゆっくりと刀を下ろした。
ようやく呼吸ができるようになった煉華は、その場に膝をつき、乱れた呼吸を整えた。
「いいか……お前を含め、巫女たちは甘すぎる」
煉華を見下ろしながら、右腕は淡々と思ったことを口にする。
「人を……敵を殺す覚悟がない」
「殺さなければ殺される場所に、お前らは……俺たちは立っている」
右腕の声には、感情らしい感情がなかった。
「死にたくなければ、敵を殺せ。殺意がなくても殺せる。忘れるな」
頭上から淡々と響く声。
閉塞感がする。
ぼんやりと……どこか遠くから聞こえてくるような声。
何かを話しているのだろう。
けれど、その言葉が耳に入ってこなかった。
いや。
自分の甘さを指摘されたことで、耳に言葉が入ってこなかったのかもしれない。
「……」
煉華は俯き、砂を掴んだ。
身体が小さく震える。
そんな煉華を見て、右腕はため息をついた。
そして背を向ける。
「お前に何かを感じたから、確かめに来たんだが……」
一度だけ煉華へ視線を向ける。
「気のせいだったようだ」
再び、ため息をついた。
「もう用はない」
そう言い残すと、右腕は一人、打ちひしがれている煉華を残し、その場から姿を消した。
コメント
1件
読ませていただきました。「殺意がない相手は斬らない」と言った煉華の喉元に、即座に刃を当てる右腕の動きが鮮烈でした。殺意がなくても♡♡♡る——その淡々とした言葉の重さが、煉華の「甘さ」をくっきり浮かび上がらせていて、自分の弱さと向き合う覚悟を突きつけられたような、苦くて深い回だったなと感じています。