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§
ヒリついた空気が充満する部屋の中、重役達が全国から集められた情報に目を通していた。
彼等の胸中に満ちるのは、安心と焦り。
相反する感情の同居に苛まれながら、これからの行動に頭を悩ませる。
曰く、北は北海道、南は沖縄まで、球体は満遍なく全国に現れた。
曰く、他県でもスタンピードや緑化が頻発しているが、大半が小規模。現在はモンスターが現れた際も、民間人の被害を抑え制圧が可能の域。
曰く、外から見た山手線内は、正に伏魔殿である。
「……日本は無事みたいですね」
「あぁ」
「一応安心、でいいのですかね」
「どれも『ここよりは』という枕詞が付くがな」
総理は顎に手を添え熟考する。
『ここよりは』被害が軽微。
『ここよりは』緑に呑まれた場所が少ない。
『ここよりは』多少安全。
そんな場所が全国を埋め尽くしているのだ。
大規模すぎる損害に感覚が麻痺しかけているが、安心していいことなど何もないのが事実。
そして何より、改めて理解した自分達が置かれている場所のヤバさ。
今最も考えなければならないのは、ここからの脱出に他ならない。
「……岩国、もう一度先の調査報告を頼む」
全員の表情が沈痛さに歪んだ。
彼等は全国の状況を確認する前に、ある報告を耳に入れていた。
対策が何も浮かばなかった彼等は、一度そこから眼を逸らし、頭を冷やしたのだ。
「はい。……皇居北方を調査していたΔ隊の全班が壊滅。総勢七十五人中、五十人の死亡が報告されました」
それあまりに悲惨で、恐ろしい結果であった。
命からがら帰還した彼等が、口を揃えて言った。
『あれは魔法だ』
一人の隊員が持ち帰った動画。
そこには、森を焼き、水を繰り、雷光を閃かせ、大地を隆起させる、今までとは一線を隔す化物共が映っていた。
初めは誰もが目を疑った。しかし、避難民や自衛隊の中から似た力を発現する者が現れたのを見て、信じざるを得なくなった。
そして最も彼等を絶望させた情報。
『特別な力を使うモンスターは、総じて現代兵器の効果が薄い』
現段階で銃が使えないとなると、対抗策がほぼ皆無となる。
得体の知れない魔法とやらに頼るのもリスクが大きすぎる。
そもそも民間人を戦場に出すなど言語道断。
「時間が経つにつれ、強力なモンスターの出現報告が増加しています。……猶予はないかと」
「……あぁ」
車両での移動は不可能。
かと言って徒歩では全滅は免れない
空を飛ぶ物は怪鳥の群れに撃墜される。
銃は効かない。
時間経過と共に、球体から出てくる個体は強くなる。
……詰み。
その二文字が全員の脳裏を過ったのは、無理のないことである。
しかし、諦めるわけにはいかない。
今守れる者だけでも、守らなくては。
我道は決意を秘めた目で仲間達を見回した。
「只今を以て近辺の救出活動を打ち切る。全隊員を呼び戻せ。
被害の少ない地域から、出来る限りの大型輸送ヘリと戦闘ヘリを集結させろ。
脱出は東京駅方面の空路を使用する。こちら側のモンスターが一番弱いとの結論からだ。
今作戦名をミユキ作戦と命名する。
作戦決行時刻は……今だ」
「「「――ッはっ‼」」」
一気に熱を帯び慌ただしくなる室内で、総理は俯き己の不甲斐なさに唇を噛む。
作戦の決行とは即ち、首都を捨てるということだ。
場所や施設は問題ではない。自分と時間さえあれば、そんなものいくらでもすげ替えがきく。
……問題は、今も何処かで隠れ助けを待っている人を、切り捨てることになるという事だ。
一国の長として、最も恥ずべき行為。
しかし長である自分にしか背負えない、許されざる大業。
生涯身に纏う自責を受け入れ、彼は準備を始めた。
コメント
1件
おおっ、これはまた重くて熱い回だったな…! 総理たちが首都を捨てる決断をするところ、読んでて息が止まるかと思ったわ。 「ミユキ作戦」って名前、響きは綺麗だけど背負うものがデカすぎるよな。 魔法を使うモンスターが出てきて、もう従来の兵器じゃ対処しきれない絶望感がヒリヒリ伝わってきた。 でも「今守れる者だけでも」って覚悟を決めた総理の顔、かっこよかった🔥