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コメント
5件
なんかめっちゃこの物語の雰囲気すこ💞 うーん、点描の唄とか灯火かな…?
soFt dRink儚い気がします
「 夏 の果 」
もとぱ
若井side
9月。けれど、まだ蝉は鳴いていた。
朝から 湿った熱気が 校舎に纏わりついて、教室の空気は重たかった。
高校三年の夏休みが 終わっても、進路も。将来も。まだ何も 見えて こないまま。
それでも、毎日を 過ごさなきゃ いけないのがこの季節だった。
授業 を 抜け出して、屋上に逃げた。
校則では立ち入り禁止。
でも、鍵は壊れたままで誰にも 見つからない。
そこが、俺にとっての 静かな避難場所 だった。
風が吹いていた。
さっきまでの 蒸し暑さが、コンクリートの上で少しだけ 和らいでいく。
柵に 背中を預けて目を閉じる。
今日も ひとりきり そう思っていた。
……でも違った。
誰かが居た。
視界の端 給水タンクの影。
そこに、蹲るようにして座っている奴が居た。
最初は幽霊かと思った。
あまりにも静かで 気配が なかったから。
でも、そいつは 生きていた。
顔を上げた。目が合った。
白い顔に、カットバンが貼ってある。
頬に一枚。首筋にも細い線。
制服の袖から 覗いた腕 には、青あざが浮いていた。
なのに、その姿が、 妙に 綺麗だった。
「 助けたい 」 とは思わなかった。
けれど 目が離せなかった。
「 …だれ? 」
思わず、声が出た。
そいつは 少し間を置いてから、ゆっくり口を 開いた。
「 若井くん、でしょ 」
驚いた。名前 なんて名乗っていないのに。
「 一年、上の学年に いるよね。
前 階段ですれ違った。 」
声は 淡々としていて、まるで他人事のようだった。
でも 確かに 俺の事を” 見ていた “声だった。
「 ここ 君の場所だった? 」
「 いや…別に、そういうわけじゃ ない 」
「 じゃあ、居てもいい? 」
頷くしか無かった。
何故だか 追い出しちゃいけない気がした。
蝉の声が 煩いほど響いて。空は眩しくて。
その屋上に 俺と” 彼 “のだけが居た。
名前はまだ 知らない。
でも 多分。忘れられない出会い だった__
儚い曲 と言えば何を思い浮かべますか。