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翌日、ほとんど寝ていない体は絶不調。

何度か律也さんからの視線を感じながら、なるべく近づかないように過ごした。

さすがに今は、何を聞かれてもうまく答える自信がない。


こんな日は早く帰ろうと、定時に会社を出た。

ここのところ寝不足が続いているから、ゆっくり休まないと。

もう心も体も限界。

しかし、そんなときに限って潤からの誘いがあったりする。


もちろん、ただ誘われただけなら私だって断っただろう。

でも、今日の夜かかった電話はいつもと違っていた。


「今から出てこられるか?」


潤にしては珍しく覇気がなくて、無駄に笑ってみせる声も弱々しかった。


「うん。大丈夫だよ」

私は迷うことなく返事をした。


こんな潤を放ってはおけない。


***


「悪いな、連日呼び出して」

「いいのよ」

私が自分の意思で来たんだから。


待ち合わせたのは会員制のバー。

潤が時々利用している店。


「えっと、私はアルコールでないものをお願いします」


こんな店に来て無粋だと思いながら、さすがに今日は飲めない。


「どうしたの、珍しく弱っているじゃない」

冷やかすように言ったのに、

「まあな」

思いの外まともな返事が返ってきた。


「らしくないよ」

「わかってる」


どうしたんだろう、こんな余裕のない潤は本当に久しぶり。


「こんな事お前に言っていいかどうかわからないけれど、」

そこまで言って、言葉を止めた。


どうやらよほど言いにくいことみたい。


「何よ」

「あいつ、好きな女がいる」


はあぁ。そんなこと。


「別に私は」

「それも俺のお見合い相手だって、すごい偶然だろう」


「そうね」

確かに、奇跡みたいな偶然。


ククク。

「あれだけ必死に探しても見つからなかったのに、いきなり現れたんだぞ『高田鷹文です』なんてお袋さんの旧姓を名乗って」


「それはびっくりだったわね」


その時の2人を想像すれば、面白いなとは思うけれど、声を上げて笑う気分ではない。

でも待って、


「お見合いをしたってことは、その子は鷹文のことを好きではないの?」

「いや、好きなんだ。でも、鷹文の素性も、過去も何も知らない。それに、彼女自身も素性を隠しているから言いたくても言えないんだろう」


何、そのコミック漫画みたいな展開。


「素性を隠すって、彼女は何者なの?」


「鈴森商事の娘」

「鈴森商事って」


うちのライバル会社。って事はそこそこのお嬢さんじゃないの。


「何で素性を隠す必要があるのよ?」


「親の七光りを感じずに仕事をしたかったらしい」


ふーん。わがままな人。


「で、どうして潤がやけ酒を飲んでいるのよ」

そこが一番わからない。


「お前さあ」


ん?


「平気なの?」

「何が?」

「鷹文のこと」


グイッと体を寄せて、潤が私の顔をのぞき込んだ。

***


8年間、私は鷹文を探していた。

まさか名前を変えているとは思わなかったけれど、人混みに出れば無意識に彼の姿を求めていた。

でも、それは当時の鷹文が目に焼き付いていて、心配でたまらなかったから。

昨日会って、元気で立派な社会人になっていることを知れば未練なんてない。


消息を消した恋人を思い続けるのに8年は長すぎる。

その間私にだって色々な出会いがあったし、人として成長もした。

大学生だった頃の私とは違うんだから。


「結局、変わってないのは俺だけか」

「そんなこと、潤だって彼女いたじゃない」


ここしばらくはフリーだって知っているけれど、8年間何もなかったわけではないでしょう。


「今はいない」

「うん、知ってる」


じゃなきゃハロウィンの日に私を呼び出したりしないでしょうからね。


「お前、本当に結婚するの?」

「え、えらく話が飛ぶわね」


潤、酔ってるのかしら。


「どうなんだよ」


あら、絡み酒。


「するわよ。結婚して本郷商事を継ぐの」

「相手は誰でもいいと?」

「違うわ。律也さんだから結婚するのよ。優しいし、会社を任せられる人だから」

「随分打算的だな。もっと情熱的な恋をしろよ」


はあ?

今度は私が潤の顔を見つめた。


「どうしたの、潤らしくないよ。何があったの?」


グイグイッと、手にしていた水割りを一気に空ける潤。


「一華ちゃん。お見合い相手の子なんだけれど、面白い子なんだ。本当はお見合いなんて断ってしまおうと思っていたんだけれど、話しているうちに彼女に興味がわいて、今日も呼び出して会ったんだ」


「へー」

なんか、ムカつく。


「そうしたら、食事の間中鷹文の話を聞かされて、」

「そりゃあ鷹文のことが好きなんだから仕方ないでしょう」

「しまいには、嫉妬した鷹文に連れ去られてしまったわけ」


はあ。

「それは、お気の毒様」


なんだ、鷹文も幸せにやっているのね。

安心した。


「潤もその子が好きなの?」

「どうかなあ」

否定しないんだ。


「すみません、私も水割りをください」

カウンターの中に声をかけると、


「お前、飲むの?」

心配そうな顔で潤に見られた。


「飲むわよ。急に飲みたくなったんだから」


はあー。

あれだけ早く寝ようと思っていたのに、今日も遅くまで飲んでしまいそうだ。

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