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 百子は呆気に取られて目をぱちくりさせていると、陽翔がベッドサイドに置いてある小さな箱を手に取り、指輪を彼女の左手の薬指に滑らせた。何の抵抗もなく、あっさりと指にはまったそれは、軽い付け心地で、つるりと部屋の間接照明を反射していたが、指輪に嵌められた石がぐるりと手のひら側に回り、百子はここでようやく陽翔の発言が飲み込めてきた。
 「もしかして……?」
 「そうだ。指輪の石はジルコニアだし、リングはシルバーだな。婚約指輪でそんな安いやつは買わん……それにしてもぶかぶかだな」
 「あっ……ちょっと! 何で」
 陽翔が百子の指から指輪を外し、再び箱にしまうので、百子は抗議の声を上げる。せっかくプレゼントされた指輪をずっとつけていたいのに、わざわざ隠す意味が分からないのだ。
 「サイズ合ってないから落とすぞ。そもそもこの指輪はつけるための指輪じゃねえし」
 陽翔の説明に、百子はますます意味が分からなくなり、どういうことなのかをストレートに尋ねた。
 「プロポーズリングって言うらしいぞ。俺は百子の指のサイズも、デザインの好みも知らなかったが、プロポーズはしたかったから買ってきただけだ……要はプロポーズのための指輪ってことだな」
 陽翔が段々と声を小さくしていき、ついには顔を赤くして黙り込む。百子から目をそらし、頬を搔いていた彼だが、頬に柔らかく温かいものが触れて、思わずそちらに目線を移す。百子の瞳から雫が落ちており、陽翔はぎょっとした。
 「百子……? 何で泣いてる? 嫌、だったのか?」
 百子は激しく首を振り、勘違いにわななく彼の口を塞いだ。
 「もう! そんなわけないじゃない! 陽翔が思ったよりもロマンチストなのにびっくりはしたけど……すっごく嬉しいの……! デートだけじゃなくて、ここまで考えてくれたのが嬉しいの! 私はタイピンしか渡してないけど……本当に……本当にありがとう、陽翔!」
 百子が勢い良く陽翔に飛びつくものだから、勢い余って陽翔は彼女ごとベッドに倒れ込む。彼女の温かさと重み、そして彼女の感謝の言葉がじんわりと陽翔の体に温かいものを隅々まで広げていき、陽翔は目の奥が段々と熱くなっていった。
 (百子が愛しい……離したくない)
 「タイピン、めちゃくちゃ嬉しかったぞ。俺の好みを覚えててくれたんだなって思った。百子、明日……もう今日になったかもしれんが、婚約指輪、一緒に見に行こうな」
 陽翔は心の底から湧き上がる彼女への愛しさごと、彼女を抱きしめて口づけを交わした。