二時間半を遅すぎると恨めしく思ったのは初めてだ。
「人多いな…」
八重洲口を抜けてまっすぐ新幹線乗り場へと向かった。平日金曜日だからか、サラリーマンと旅行にいく人で改札はごった返している。
とは言っても、まだ時間は三時すぎ。
指定された番号に腰を下ろしたが、出発してからあたりを見渡すと人はまばらだ。
「…」
この間大阪行った時はアニメをみていたのだけど、今回は何もする気が起きなかった。
ずっと、昨日の電話のやりとりを頭の中で繰り返していた。
“会いたいです”
声にこもる熱で、気持ちはまだ俺に向いてくれているのだとわかってしまった。
自惚れてる暇があるなら、ささっと伝えろ。
そんな非難が聞こえてきそうだな。
「…、あ…え?」
と思ったのも束の間
えとさんからLINEが入る。”るな”の文字が目に入り急いで開いた。
「…」
“るな振られたと思ってるよ、誰かさんがモタモタしてるから”
“次の恋頑張ろうかなって言ってました。”
“死ぬ気で会ってこい”
「…あー早くつかねぇかな」
えとさんからエールではなく脅しが送られてきた。マジかよ、次のって、そりゃぁ困る…早く会わないと。
さっきはまだ自分に気持ちが、なんて余裕があったがえとさんからのタレコミで不安は倍増。
や、でも会いたいって言ってくれたし…
万が一とかあんの?わかんねー…
「新幹線おっそ…」
時速285キロに文句を言いつつ、窓の袖にほおをつきただただ時間をやり過ごした。
“ほーむまでおむかえにいきます”
「なんだこれかわいいか」
まさか口から出てるとは思わなかった。
あたりを見回してしまう。
急いで文字を打ったのかな。
オールひらがながるなさんらしくて笑ってしまった。
2時間30分を悶々と過ごし、降り立った新大阪。
るなさんは迎えに来てくれる…って書いてあったけど…大丈夫なのか
みんなよく言っていたが、るなさんと待ち合わせをして会えたためしがないとか。ある意味伝説。
そうなる前に連絡しようと画面を覗き込んだら、背中に強い衝撃が走った。
「んぶっ!」
「って!?」
後ろを振り返ると、俺の背中に思い切り顔をぶつけた…るなさんがいた。
「え!?るなさんか!?」
「うぅー…いたぁ…はな…」
「どうした、どこぶつけたんだよ。…鼻?」
「シヴァさんみつけて、走ったらその、こけて…」
鼻を押さえて俯くるなさんに驚き、俺は顔を見ようと屈んだ。
…ひさびさにあった彼女は髪をおろしていて、先を緩く巻いていた。
最後に会った、あの無邪気で元気な雰囲気とはまた違う。
本来ならドキッとする場面なのだけど、次に目にしたのは鼻が赤くなってて涙目の顔だ。
大人っぽくなったな、けど中身は変わってなくてほっとした。
「走らなくてよかったのに」
「見つけたから、はやく声かけなきゃって」
「大丈夫だって逃げないんだから」
あって開口一番なんて言おう
そればかり考えていたのに。
まさかのアクシデントで会話に困ることがなかったなんて。
るなさんらしいな
くっ、と喉を鳴らしてしまった。
「っはは」
「ひどいなんで笑うんですか?」
「…会いたかった、会えてよかった。」
るなさんが目を見開いた。
その瞬間、あの、告白された時間に巻き戻ったようだ。
好きですと言われて、信じることができなかった。
シェアハウスにきた頃からひっそりと想い続けていた。
だからと言ってとりわけ積極的に話そうとか、距離を縮めようとか、一切なかった。
もちろん一緒に活動していく中で言葉を交わしたこともあるし、みんなで遊ぶ時は楽しんだけれど。
私欲を一切出さなかったんだ。
俺なんかが好きになってはいけないと思っていたから。
彼女はよくモテた。
そもそも入ったきっかけも、じゃぱぱさんのリスナー企画で変に人気が出て銅像(バーチャルでな)が出来祭り上げられる始末だ。
そこを面白がってじゃぱぱさんが声をかけたと聞いた。会ってみて理由がわかった。
天然で、目が離せなく、強いて言うならば小動物。顔はもちろんだが仕草までもが微笑ましい。
出身が同じののあさん、リーダーのじゃぱぱさんはもちろんのこと、リスナー時代から親交のあったもふくんたちは特に彼女を可愛がっていた。
かまいたくなる気持ちがわかる。
沼に落ちる人はどっぷり落ちるんだろって…後々沼った俺が思ったんだから。
守ってあげたい衝動にかられるんだろう、特に男は。
そう、
きっとるなさんに似合う人は
うりやなおきりんのようなイケメンで理解があるか、はたまた
ゆあんくんのように歳の近い二人きゃっきゃと楽しめるような、そんな人物…
俺は勝手に思い描いていた。
だから
好きですと言われて
あの分厚い手紙に想いをたくさん綴られて
俺はあの気持ちに応えていいのかと、悩んでしまった。
「あの、あの…るなもるなもです…っ」
新大阪駅のホーム
行き交う人はそれなりにいた。
ちらちらと、視線を向ける人が何人かいる。
「るなさん、ごめんね。遅くなった…あの時の」
だけど今更場所を変えるつもりもない
衝動に駆られて想いのままに
「返事を言いに、ここへ会いにきたんだよ」
“俺も好きです---”
必死だった。
喉がカラカラのなか絞り出す愛の言葉。
上手く喋れないかと心配なったが、こういう時の言葉ってクリアに言えるものなんだな。
「遅くなってごめん。まだるなさんの気持ちが有効なら、だけど」
俺の言葉にるなさんはぶんぶんと首を縦に振った。
「…っ、るなは、シヴァさんが好きです」
「…俺もだ。るなさんが好きだよ」
わぁ!
「え、あ!?」「えっ」
沸き起こる歓声に驚き目を見張った。
気づけば俺らの周りにギャラリーが…なんかスッゲーいるんだけど!!
恥ずかしながら完全に二人の世界になっていたわけで。
やった!よくやった!おめでとう!
スゴイなどなど…え、なにいつの間にこんないたの?
しまったここは大阪だ。羨ましいだの彼女かわいーぞとかヤジがすげー、完全にやらかした。
「うっわー…人生で一番嬉しいけど一番恥ずかしいわ…」
「ですね…」
のちに語り継がれる、”新大阪のホームで告白はするな”(しねーから、とうりあたりに突っ込まれた)である。
この一件は
じゃぱぱさんが面白がって、数少ないからぴちの教訓になった。なんでだよ。
余韻に浸る暇なく、二人で急いでその場を収めてダッシュで逃げた。
コメント
9件
付き合った………感動……🥲 尊い…もう…語彙力が………()
大阪生きてて行ったことないんですよネ🚄