じゅー…
「…なんかごめんね」
「大丈夫ですよ、るなもお腹すいてましたから!」
ソースの焦げる匂いがなんともいえない。
色気より食い気、昨夜から緊張してほとんど何にも食べていなかった。
ふたりで公開告白を逃げるように去ったのはいいが、俺は 途中お腹が空きすぎて動けなくなったのである。
思い出したくなくて両手で顔を覆った。
「き、昨日からほとんど食べてないなら仕方ないですよ!ねっ、ねっ?」
るなさんからのぎこちないフォローが入り、いたたまれない気持ちになった。生きてた中で一番ダサいと思ってる。
ここ入りましょ!すかさず指を刺したその先には お好み焼き屋さん。(意外と有名店だったらしい)
ただいま鉄板挟んで悶えてる。
「るなここはじめてきました」
「来たことないの?なんか有名店みたいだね」
「いっつも行列作ってるのは知ってますよ。でもいつでも来れるから、いっかなって」
昨夜から続いた緊張のピークは過ぎ去り
幸か不幸かお腹が減って余計な気は使ってない。いや、使えない。
なにも意識していない、そうだな、 たまに泊まるシェアハウスのご飯当番してるような感覚だった。
「まだかな」
俺とるなさん二人っきりで話したことがない。
あるとすれば俺がシェアハウスに泊まって、夕食の手伝いでキッチンに並んだ時のみだ。
本当にそれくらいしかなかった。
いま当たり障りなく喋れているのが不思議だ。
飯が前にあるからかな。
「シヴァさん、ひっくり返したほうがいいですか?」
「後もう少しだけ待ってみよ」
るなさんが前屈みになるたびに、サイドの髪が垂れる。何度か耳にかけていた。
耳に髪をかける仕草…をじっと見てしまった。
グッと込み上げる何かに頑張って耐える。
「髪しばっちゃいますね」
煩わしくなったらしい。
るなさんは鉄板から距離を取ると、カバンからシュシュを取り出してくるりと器用に結んだ。
ポニーテールじゃなくお団子。う、好きだな。
後毛がかわいい…ニヤけそうな口元をを咳払いで誤魔化した。
目の前にいる人が彼女だなんて実感が湧かない。
よく考えたら 告白から一時間も経ってないもんなぁ。
「今日はこのあと帰っちゃうんですか?」
「うん、その、…つもり」
二人の周りだけ急に静かになったみたいだ。
じゅうう、鉄板の音だけが聞こえる。
そうですよね、忙しいですもんね。
るなさんはいたって前向きな声を出したが、落胆の色を隠せていなかった。
俺だって本音を言えば帰りたくなかった。
「るなさんも明日は忙しいんじゃないの?」
「明日は何にもないんです…シヴァさんは?」
「俺は撮影かな」
---撮影は夜からだ。
予定という予定を、昨日の夜から今日の新幹線乗る手前まで死にものぐるいで終わらせた。
何かに追われたくなくて
何も考えずるなさんと会いたくて、 無理やり時間を作った。
居ようとすれば、いれる。
「ご飯食べたら東京戻るね」
「…じゃあ、改札まで行っていいですか?」
「いいよ」
やっぱり寂しいな、なんて。
微かに心が揺らいだ。
「うそだろ!?」
「運転再開見込みはあす、あさ…ですって」
車両間トラブルにより運転見合わせ。
復旧めどは明日早朝。はぁぁあ〜??俺の決意は何処へ。
気持ち切り替えて帰ろうと思ったのに!?
呆然としていた俺は、ついつい、と服の裾を引っ張っられた。
「えっと、シヴァさん、どう、しますか…」
「どうもこうも…ベストはビジホでダメならネカフェだな」
頭をかきながらスマホをいじる。
近場の安いビジホはもう満室に近かったが、少し奥へいけばギリギリ空いていた。
すかさずポチポチっとな。
「よかった、とれた…」
「よかったですね!埋まる前で」
「そーだね、えぇー…っと」
もごもご口を動かしていたら、るなさんの顔が何倍にも明るくなった。
「まだ、まだ一緒にいれますか!?るなお話したいです!!」
「…いいけど、遅くなったらダメだよ。ちゃんと家に帰るんだよ。」
「はいっ!!」
えらい俺。よく言った俺。
いますぐうりとなおきりさんに褒めてもらいたい。
画面向こうの良い子のみんなに言っておくが、付き合って初日に手ェ出すとかないからな!?
俺はみんなのシヴァさん…じゃなくて
まだ真正面からまともに顔も見てないのに…そんな勇気のカケラひとつもねぇっつの。
「じゃあ、じゃあ!!シヴァさんのお泊まりするとご案内します!」
「るなさん家は!?遠くなるならだめだよ!?」
「大丈夫!!るなのおうちはその一個手前です!」
え、ちっか。
あっけに取られていると、ぐいぐいとるなさんが俺の腕を引っ張っていた。
「るなね、ちょっと新幹線止まってて嬉しいんです」
「え?」
「だってシヴァさん逃げるように帰りそうだったから」
ぎっくぅ
読まれてて肩を縮こませた。
別に早く別れたかったわけじゃない。
長くいればいるほど、本当に東京に帰りたくなくなる。
俺の口から寂しいとかもっと会っていたいとか本音が出てきてしまいそうで。
醜態を見せる前に撤退したかったからだ。
「つぎ、いつあえるか、わからないし…もちょっと、お話したかったんです。」
「…」
俺もるなさんも忙しい。
次会えるとすれば…夏休み。
まだ、だいぶ先の話だ。
「シヴァさんは、お話いやですか?」
「んーん…ぜんぜん」
上目遣いで小首をかしげるるなさんに、はいかYESしか言えない。
いやなわけなかった。
俺の返事を聞いて、またぱっと顔が明るくなる。
今度は少し、ほおが赤みがかっていた。
「やったぁ」
崩れたふにゃふにゃの笑顔を見て、胸の奥が締め付けられた。
俺と話すだけなのに嬉しいの?感情の荒波で溺れそう。
「でも、でも!ちゃんとうちに帰るんだよ!るなさん!」
「はぁい」
これはるなさんじゃなくて俺に言ってる。
だって狂おしいほど愛おしくて、離れがたくなるのが目に見えてるからだ。
コメント
4件
え…ヤバ…もう…好き………() 新幹線止まってくれてありがとう!!!!!シヴァさんのピュアさがなんとも言えなくムズムズして悶えてます😇
彼女が欲しいと言いながら、いざできたらド級のチキン対応しかできない🐸さんを妄想してます。 そのぶん、いざとなれば振り切っていただきたい。いつかはわかりませんが。