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◆
鋭琉は、前線に立つ一兵卒だ。
異能を持たない彼が、よりによって危険な前線に立つ理由は、
「兵士の等級に関わらず、国が衣食住を与えているから」
と言えば十分だろうか。
もう少し踏み込むなら、
人間1人、しかも男を養うのに要する金は高い。
大した戦力でもない人間を養う金があるか、と言えば十分だろう。
鋭琉もそれは知っている。
この国は異能を持たない人間に比較的優しい方だといえるが、肩身が狭いのは確かだ。
そんなことを思いながら、鋭琉は異能が飛び交う戦場を歩く。
爆発音やら稲妻やらが見える割には、硝煙や火薬の匂いはしない。
鉄臭い匂いと、木造の建物や草木が焼けたような匂いだけだ。
戦場向きの異能には、派手で音が大きく、遠目でも見える異能が多い。
そのせいで、戦場は視界が悪い。
基本的に銃を扱う鋭琉には、それは致命的だ。
異能を持っておらず、武器しか使わない鋭琉には、異能を防ぐ術もないわけで。
その状況下で、戦場に立つ。
足は竦まない。
いつ爆撃が飛んでくるか、稲妻に撃ち抜かれるか、重力で押し潰されるか、わかったものではないが、単独でいると思いの外見つからないということを鋭琉は知っている。
彼らは人が集まっている場所を狙って攻撃を入れる。
相手にとってもまた、異能のせいで戦場は視界が悪いのだ。
それでも尚、鋭琉はいつも胃が縮むような感覚に襲われる。
慣れない。
が、慣れてはいけない、とも思う。
それが、今まで生き残ってきた所以だと、鋭琉は考えるからだ。
──突如、人魂のような霧が天空に舞い上がって、鋭琉は我に返った。
焼けずに残っている草木がさざめく。
葉が螺旋を描いて、霧の中心部に吸われていく。
反射的に銃を構えて、鋭琉は気づく。
「(あれは──精霊か)」
精霊は草木や河川に宿ると言われている。
ちょうど今召喚が終わったのだろう。
「(・・・精霊は、初めて見た)」
内心そう呟いて、鋭琉は銃を下ろした。
物理攻撃でない異能には、銃は効かない。
精霊には試したことがないが、一か八かで撃ったら居場所が割れる。
それが得策だとは、鋭琉には思えなかった。
精霊を撃つより、精霊異能持ちを撃った方が確実だ。
鋭琉は銃を手に馴染ませるように軽く握って、遮蔽物に背を預けた。
下手に動くと精霊がどうなるかわからない。
適当に撃つなんて言語道断だ。
精霊はまだこちらに気づいていないのか、前線に立たない異能持ち、所謂後衛を狙っているようだ。
鋭琉は暫くタイミングを測っていた。
精霊異能の使い手はおそらく後衛だろう。
少なくとも、1人であるはずはない。
となると、一発でも外すと勝機はほとんどない。
射程距離ギリギリにいる精霊異能使いを、一発で撃ち殺す。
そして、居場所が割れて返り討ちに遭う前に、手榴弾を投げ込んで、殺せるだけ殺す。
あとは状況を見て、退くかどうか考えれば良い。
──我ながら、あまりに脳筋だと思う。
多分、さすがにそろそろ死ぬと、自分でも思う。
だが仕方ない、と鋭琉は頷く。
異能を持たない人間が、異能持ちの意表をつくには、
果てしなく頭が良くなるか、
逆にこれくらいの命知らずな脳筋戦法を取るほかないのだ。
ふいに背筋が冷えて、顔を上げる。
精霊と、目が合った気がした。