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鉱山長と鉱山夫の後に付いて、坑道の中を奥へ奥へと進んでいく。
酷い事故が起こってしまったものの、鉱山の内部を見られたのは少しラッキーかもしれない。
あ、いや、不幸中の幸いというか……。いやいや、少し不謹慎だったか。
「それにしても、さっきの揺れって何だったんでしょう?」
「あー、鉱山の奥で崩落があったようでな」
「え? 奥にいた人は大丈夫だったんですか?」
「ああ、崩落の直前に爆発音が響いてな。
それである程度は避難していたから、生き埋めになったやつはいなかったんだ。
……まだ奥にいる、ガッシュとセドリックは除いて……な」
なるほど、確かに怪我人は多かったけど、全員中級ポーションで何とかなるくらいだったもんね。
被害がそこまで大きくなかったのは、それこそ不幸中の幸いだ。
それにしても――
「……爆発音、ですか」
「爆発といえば、冒険者ギルドの入口でも爆発事故があったみたいっすよ」
「何だと? 今回の一件と関係があるのか?」
「さぁ……? さっき捕まえたヤツなら何か知ってますかね?」
「そうだな。戻ったらこってり絞ってやるか」
……ふーむ。
言われてみれば、爆発が続いていて怪しいもんね。
もしかして、組織立った事件が起きているのかも? こわいこわい……。
「――鉱山長。
俺がガッシュたちを見たのはこの先なんですが……」
ゆるやかなカーブを曲がっていくと、岩や土砂が坑道を塞いでいた。
完全には塞がっていないものの、人間が通れるスペースは見当たらない。
「もしかして、この下にはいねぇだろうな……?
……おおい!!! 誰か埋まっているか!!!!?」」
鉱山長は一際大きな声で、目の前の土の山に呼び掛けた。
その後、耳を澄ませていると、か細い声が聞こえてくる。
「……よし、誰かいるようだ。掘り起こすぞ!!」
鉱山長と鉱山夫たちは、持っていたシャベルで土を取り除き始めた。
私はその後ろに控えながら、さり気なく鑑定スキルを使ってみる。
……中にはどうやら、ガッシュさんとセドリックさんの二人がいるようだった。
怪我はしているようだけど、命に別状は無さそうだから、ひとまず報告するのは止めておこう。
伝えたところで何が変わるわけでも無いし、そもそも説明が面倒だからね。
しばらくすると、ガッシュさんとセドリックさんが救助された。
「鉱山長と――
……お前らも、ありがとよ。セドリックも何とか無事だぜ」
「心配掛けるんじゃねぇよ!」
「そうっすよ!」
「心配したんですから!」
ガッシュさんは鉱山夫たちの兄貴分、みたいな感じなんだね。
確かに頼りになりそうだし、納得は出来るかな。
「あの、怪我をしているようなので、これを使ってください」
話の切れ目を狙って、私は中級ポーションを差し出した。
「え? 何でこんなところに女の子が!?」
「おう、アイナちゃんじゃねぇか。
こんなところで、どうしたんだ?」
「……え? ガッシュさんの知り合いですか!? もしかして娘さん!?」
セドリックさんが驚きながらガッシュさんを見る。
「馬鹿! ちげーよ! 今朝、ここに来る途中に会ってな。
ああ、そうだ。最初に使ってやったポーション、このお嬢ちゃんからもらったものだぞ!」
「そうだったんですか?
……いやぁ、お嬢ちゃんは俺の命の恩人だなぁ。付き合ってください」
「いえ、結構です」
よく分からないことを言われたので、軽く一蹴する。
「はっはっは! なかなか面白いお嬢ちゃんだろう?」
「とほほ……」
「それは良いので、早くポーションを使ってください。痛いでしょう?」
「分かった、分かった。
これくらいの怪我は何てこと無いんだが、ありがたく使わせてもらうよ」
……いやいや? それなりに血が出てますよ……?
私の心のツッコミをよそに、ガッシュさんは傷口にポーションを振り掛ける。
「おお、さっきのより効果が強いな……。
これ、もしかして高級ポーションか?」
「いえ、中級ポーションです」
……効果は2倍だけど、ね!
「そうなのか? それじゃ品質が良いのか……。
あれ? そうすると朝にもらったのは、もしかして初級ポーション?」
「はい」
「そうか、あれで初級ポーションだったのか。
セドリックに使ったとき、しっかり効いていたから中級ポーションだと思ったんだよ」
……初級ポーションも、効果は2倍だからね!
「できるだけ高品質のものを持ち歩いているんです。
何があるか分かりませんから」
私の言葉に、鉱山長が続ける。
「ここに来る前にもな、怪我した全員分のポーションを用意してくれたんだ。
……戻ったら、コンラッドのおやっさんに報告と……報酬を用意してもらいに行かないとな」
「鉱山長、俺も付いていくぞ。
おやっさん、こういうところでもケチりそうだし」
「ちげーねぇ!」
鉱山夫のツッコミに、一同は爆笑していた。
……しかし残念ながら、私には内輪ネタが分からない。
「あのー、コンラッドさん……というのは?」
「すまんすまん。
コンラッドのおやっさんは、この鉱山の所有者でな。俺たちのボスなんだ」
なるほど、ここのオーナーさんね。
「一応貴族なんだが、どうにも金にがめつくてな。
現場の方に、あんまり回してくれねぇんだよ」
「ああいうの、守銭奴っていうんでしょうね!」
「ちげーねぇ!」
一同、爆笑。
……だから! いまいち私は乗れないから!
「よし、それじゃガッシュとセドリックも救助したし、外に出るか!」
「おう」
「「「はい!」」」
内輪ネタが場を席捲する中、ガッシュさんだけ返事が違ったのだけは、少し笑えたかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
坑道の外に出ると、鉱山夫たちが出迎えてくれた。
ガッシュさんとセドリックさんを囲んで、賑やかに無事を喜びあっている。
私はその光景を、少し離れたところから眺めていた。
さすがにここではよそ者だし、そもそも屈強な男だらけで私は場違いだからね。
そんな中、鉱山長が私の元にやって来た。
「お嬢ちゃん――
……ああっと、ガッシュから聞いたんだが、アイナさんって言うんだな。
アイナさん、今回は本当にありがとうな」
「いえ、お役に立てて何よりです」
「俺の名前も言い損ねていたな。俺はオズワルドってんだ。この鉱山の責任者をやっている。
今回の礼もしたいから、滞在先を教えてくれねぇか?」
「あ、はい。
宿屋に泊まっているんですが、名前は何だったけ……」
「宿屋なんて、たくさんあるからなぁ。
それなら街までコイツを付けるからさ、場所を教えてやってくれねぇか?」
鉱山長がそう言うと、後ろの方からジェラードが現れた。
「……どうも」
あれ……?
何だかいつもより元気が無いけど、どうしたんだろう?
「アイナさんは、それで良いかな?」
「あ、はい、大丈夫です。
えぇっと……アルリーゴさん、よろしくお願いします」
「……うん、よろしく」
「それじゃアルリーゴ、頼んだぞ!」
鉱山長のオズワルドさんはジェラードのお尻を1回叩いてから、鉱山夫たちの輪に戻っていった。
「……痛たた……。
それじゃ――」
「はい、行きましょう」
ジェラードが歩き出したので、私はそれに付いていく。
途中でまた誘われたり口説かれりすると思ったけど、宿屋までの会話はこれだけだった。
気楽ではあったけど――
……何だかジェラードっぽく無かったね? どうしたんだろう……。