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深い森の中、太陽の優しい光が枝葉の隙間から差し込む。
一見のどかな光景。
だが、今この森にいる者達にとってそれはあまりにもどうでもいいことだっただろう。
なにやら言い争いをする数人の若者たち。
そのうちの一人の少女の持つ剣。
それが男の身体を斬った。
「うッ…ぐっ…!?」
「ごめんねお兄ちゃん…いや、『リオン』」
「どうしてだ…『ルイサ』」
旅の途中、突然のことだった。
このパーティの一員だった少年リオン。
彼は妹のルイサに突如、切り付けられた。
「どうしてって言われても…」
「なんで俺を…!俺たちは兄妹じゃないか!」
「だって…もううんざりなんだもん」
冒険者としての生活に嫌気がさした。
そんな理由で彼女は兄の命を奪おうとしたのだ。
だが、その表情からはどこか寂しそうな感情も読み取れる。
しかしリオンには理解できない。
何故ならリオンにとっては妹こそが唯一の家族であり、心の支えでもあったからだ。
そんな彼を見つめる少女の顔が歪む。
その瞳に浮かぶのは哀れみと悲しみ。
そして、わずかな憎しみの色。
「可哀そうなお兄ちゃん…」
「何を言って…」
「でも安心して?『あなたの妹』はもうこれ以上『お兄ちゃん』を傷つけたりしないから…」
「え?」
どういうことだ? 混乱するリオンに向かって、ルイサはさらに続ける。
まるで別人のような口調で。
それも演技じみたわざとらしい言葉遣いで。
彼女の口元に浮かんでいる笑みもまた、作り物めいた不気味なものだった。
その笑顔を見た瞬間、リオンは背筋に寒気を感じた。
「よし、よくやってくれたルイサ」
それを見て笑みを浮かべるこのパーティのリーダーの騎士『ガ―レット』。
ガ―レットはルイサの腰に手を回し、自身の元に引き寄せる。
妹のルイサは、つまり『そういう関係』だったのだ。
このパーティのリーダーであるガ―レットと。
しかしだからといってこんな…
「どういうことだガ―レットッ…!」
「リオン、悪いがお前はここで死んでくれ」
「なッ…!?」
言葉では『悪い』といってはいる。
しかしその表情は全く悪いとは思っていない。
ガ―レットの顔が、まさにそう物語っていた。
その整った顔からは想像もつかないほどの歪んだ、邪悪な笑顔を浮かべながら。
全員、下衆な笑い声を上げている。
「ふふ…」
「へへへ…」
そんな彼らの様子を見てリオンは愕然とした。
彼らはいったい何を言っているのか?
自分が何のために戦ってきたのか?
今まで必死になって頑張ってきたというのに、何故…
いや、一人だけ違う者がいた。
それは…
「ち、ちょっと…アンタたちなにしてるのよ!」
その二人の間に割って入る一人の少女。
リオンと共にコンビで戦う相方の小柄な女戦士。
鉤爪使いの『キョウナ』だった。
「なんだキョウナ。お前も抵抗するのか?」
「そ、そりゃあアタシだって冒険者だし!当然よ!」
「ならちょうどいい。貴様にも消えてもらおうか」
「えっ…」
「おい待ってくれ!キョウナは関係ないだろ!!」
ガ―レットの言葉に驚くキョウナ。
しかし、リオンはそれを庇うように前に出る。
すると、今度はルイサが口を開いた。
「仕方ないでしょ」
ルイサの言葉に疑問を抱くリオン。
最初からここで自分たちを襲うつもりだったのか。
そう確信するリオン。
そして…
「そうだよお兄ちゃん」
「まさか…お前たち…そんな!?」
「うん。でも大丈夫だよお兄ちゃん」
「くっ…!」
顔を歪めるリオン。
彼を守ろうと、キョウナが抵抗を試みる。
「ふざけないでガ―レット!ルイサも!」
「黙ってろキョウナ」
愛用の鉤爪を引き抜き三人を威嚇するキョウナ。
しかしそんな彼女もガ―レットの一撃で軽くやられてしまった。
「黙ってろって」
「うげッ!?」
キョウナの戦闘パターンを、ガ―レットは完全に把握している。
隙を突かれ、腹に拳を打ち込まれるキョウナ。
そのまま気絶し、倒れてしまった。
「あぐっ…」
意識を失い、その場に倒れるキョウナ。
「さて、残るはお前だけだなぁ?リオンよぉ?」
「くっ!?」
目の前に立ちふさがる怪物を前にして、リオンは恐怖した。
この場から逃げ出そうと必死にもがく。
だが彼の身体はいつものように動こうとはしなかった。
怪我が思ったよりも大きかったのだ。
「無駄だぜぇ?そんな体で戦おうなんてよぉ!」
そう言って高笑いをするガ―レット。
彼はリオンの首根っこを掴むとそのまま地面に叩きつけた
そのままリオンを押さえつつ、倒れたキョウナの方に目をやる。
何か解決法は無いか。
傷のせいでうまく回らない頭で策を練るリオン。
しかし何も思いつかない。
布で纏めた彼の長髪が風に吹かれる。
「どうしてだ、どうしてこんな…」
「強いパーティには悲劇の過去の一つでもあった方がいいだろう?」
まったく納得いかない理由だった。
リオンは妹であるルイサに視線を移す。
しかしルイサは目すら合わそうともしない。
見下したように見返してくるだけだった。
「それに以前の『失敗』もあっただろ」
「あれはガ―レット、お前が…」
「だから責任をお前に被ってもらうんだよ」
以前、とある仕事で失敗をしてしまったガ―レット。
仕事先にその詳細は話さなかった。
何故か?
すべての責任をリオンに擦り付け、始末するつもりだ。
さすがに死んだ人物に対し、責任を問うことはしないだろう。
それに…
「もう私も子供じゃないの。現実的な判断をしただけ」
「ルイサ…!」
「こんな時代、兄妹の情よりも『こっち』の方が大切なの」
先ほどとは逆に、ルイサはガ―レットの腰に手を回し身体を密着させる。
そういえばガ―レットの実家は国でも有数の貴族だった。
半ば道楽で冒険をしていたガ―レット。
冒険者として暮らすよりも、ルイサはそちらを選んだという訳だ。
「街に戻ったら私、彼と…」
背後は崖だ。
少なくとも、こんな森の奥では助けなど呼べない。
呼べるわけがない。
かといって、二人を相手に戦うというのも現実的では無い。
「そうだったな」
愕然とした。
いや、今更か。
ここで冗談で済ませるわけが無い。
さらに追撃とばかりに、リオンを殴り飛ばすガ―レット。
先ほどの傷、裏切られたことによる精神的ショック。
それらのせいで身体が言うことを聞かない。
「じゃあな、リオン」
「ごめんね、『お兄ちゃん』。私、幸せになるから」
そういいながら、二人で一本の剣を握るガ―レットとルイサ。
そしてそのままその剣をリオンに突き刺した。
ゆっくりと、確実に。
「あッ…」
二人の剣が深々と突き刺さる。
痛みを超えた感覚がリオンを襲う。
しかし、そんなことはもうどうでもよかった。
腹部の激しい痛みなど。
そのままガ―レットとルイサは二人でリオンを崖から突き落とした。
「その剣、お兄ちゃんにあげる」
「じゃあな」
「お兄ちゃんは安心して死んでね。私がちゃんと一緒に弔ってあげるから」
「キョウナのやつは…――――」
何故こんなことになってしまったのか…
キョウナ、彼女は無事だろうか…
そう考えながらリオンの意識は、そこで一度途絶えた。