テラーノベル
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追軍が進み始めてどれくらい時間が経った頃だろうか。
先頭付近に入っていたリオルドが視線の先にタナトス領の砦の姿を見付け、軍隊長ルカスヴェタに声をかけた。
「軍隊長殿! 砦が見えて参りました、不用意に軍で近付くと攻撃を受ける可能性がございます。この先は私と、リスティアナ嬢、それと軍隊長殿の数名で向かった方が宜しいかと!」
「──承知した……! だが、砦も敵方に落ちていないとは言い難いので、先ずは我々が先頭に……!」
ルカスヴェタの提案に、リオルドは頷き砦からかなり離れた手前で下馬すると、リスティアナが下馬するのを手助けする。
「──リスティアナ嬢?」
「ありがとうございます、スノーケア卿」
少し前からリスティアナの態度に違和感を覚えていたリオルドは、少しだけリスティアナから距離を取られているような気がする。
このような状況でリスティアナに聞く事もできない。リオルドがリスティアナに視線を向けると、以前と変わらず笑顔でお礼を告げてくれる。
違和感は気の所為だろうか、と若干首を傾げたが、それ以上リスティアナに踏み込む事が出来ずに、前方を歩いてくれるルカスヴェタ達数人の軍の者達の後に続き、タナトス領の砦に向かった。
遠目から確認した所、砦はしっかりと機能している事が分かる。
最悪の場合、砦も敵国の手に落ちている可能性があったが最悪な結果とはなっていないようだった。
「軍隊長殿……、砦の上に居るのは我がスノーケア辺境伯の騎士達です……。どうやらこの砦は無事のようです」
「なるほど、それは僥倖です。砦が機能していると言う事は、王都方面からいくらでも援軍を送れる。砦の者に、スノーケア卿が顔見知りの者はいらっしゃいますか?」
「──兄上の側近や、近衛隊でしたら分かるのですが……果たして私が知る者が居るかどうか……」
ルカスヴェタを先頭に、リオルドとリスティアナが続き、後方からの攻撃や奇襲に備えて後ろに五名程が続く。
リスティアナ達が砦に近付くに連れて、砦の上部が些か騒がしくなり、リスティアナ達一行にも緊張が走る。
問答無用で攻撃を仕掛けられないとも言い切れない。
ルカスヴェタとリオルドが緊張に表情を引き締めていると、砦の上方から声が響いた。
「──そちらに居らっしゃるのは、スノーケア辺境伯様の弟君、リオルド様では……!? そっ、それに共に居らっしゃる女性はメイブルム侯爵様のご息女であられるリスティアナ嬢では……!?」
体を乗り出し、嬉々とした声音で言葉を掛けられ、張り詰めた緊張感の中に居たリオルドとルカスヴェタは些か気が抜けてしまう。
自分の名前が呼ばれたリスティアナは、凛と背を伸ばして一歩前に歩み出ると、砦の者に向かって声を返した。
「──仰る通り、私はリスティアナ・メイブルムと申します……! 我が父、オースティン・メイブルムをご存知でしょうか……?」
「ああっ! やはりそうでしたか……! 侯爵様からお伺いしていた通り……! リオルド様とご一緒に来られる可能性がある、と伺っておりましたので、直ぐに分かりました……! 直ぐに砦の城門を開けます故、お待ち下さい!」
あっさり告げられ、リスティアナやリオルド、ルカスヴェタは互いに顔を見合わせると苦笑する。
最悪の場合、命を奪われる覚悟すらしていたと言うのに何がどうなっているのか。
ギイイ、と重厚な音を立てながら城門が開き、ルカスヴェタはリスティアナに向かって笑いかける。
「どうやら、メイブルム侯爵様はこのような事態となるのを見越しておられたようですね。我々がこの砦にやって来るのも把握していたようです。いやはや……我が国の指揮官として迎えたいくらいです」
リスティアナとリオルドが揃ってタナトス領に来る事も。
そして追軍であるウルム国の軍と合流して行動する事も。
リオルドがこの砦を目指すだろう事も、まるで分かっていたかのような準備の良さにルカスヴェタは感心する。
砦に入るのに揉めて時間を無駄にしてしまえば、スノーケア辺境伯家に向かうのにも時間が掛かってしまう。
リオルドがこの場で情報収集をするだろう、と言う事を先読みしてこの砦に予め連絡をしていたのか、それとも本人がこの砦にいるのか。
どちらかは分からないが、砦内部に通されればそれも直ぐに分かるだろう、とルカスヴェタは考えた。争う意思が無い事を相手に示す為、腰に下げていた長剣を外して右手に持ち替えた。
◇
「どうぞこちらへ。少し内部は薄暗いのでランプの火をご利用下さい」
「ありがとうございます」
砦内部に居た騎士達や兵士達がリオルドの姿を見て嬉しそうに表情を輝かせ、リスティアナの姿にそわそわと落ち着きなくし、ウルム国からの援軍である軍の者達を見て瞳を輝かせている。
「メイブルム侯爵様はこちらに……! お怪我をされていらっしゃるので、この砦にて療養して頂いております」
「──えっ!?」
案内してくれた兵士の言葉に、リスティアナは慌てたような表情を浮かべ、開かれた扉の奥に急いで足を踏み入れた。
「──お父様!」
「リスティアナか。スノーケア卿も共に来てくれたか、良かった」
リスティアナが部屋へと入室すると、ベッドに横たわるオースティンの姿を見付け、リスティアナはオースティンへと駆け寄った。
上半身は包帯に覆われ、その包帯には血が滲んでおり、怪我の程度の酷さが伺える。
普段は気迫に満ち溢れている自分の父親の弱々しい声に、リスティアナはくしゃり、と表情を歪ませた。
次いで室内に入って来たリオルドも、オースティンの怪我の酷さに僅かに眉を寄せていると、最後に入室してきたウルム国の軍隊長ルカスヴェタが胸に手を当ててオースティンに一礼する。
「──お初にお目に掛かります。私はウムル国のティシア王女殿下直下の軍、軍隊長を務めるルカスヴェタ・シーヴァンスと申します。メイブルム侯爵様のお陰で我々は迅速にこの砦に招かれる事が出来ました、感謝致します」
「ああ……、貴方がシーヴァンス殿か……。ウルム国でのご活躍を伺っておりました。このような姿で申し訳ございません」
オースティンとルカスヴェタの会話が済むと、オースティンはリスティアナに視線を向ける。
「お父様、何があったのですか……。お怪我の酷さは……大丈夫なのですか……」
「ああ、命に関わるような怪我では無い。……スノーケア卿、シーヴァンス殿。タナトス領の現状を説明しよう、こちらに来て貰えるだろうか」
リスティアナの言葉にオースティンは安心させるように言葉を返すと、リオルドとルカスヴェタを自分の近くに呼び寄せ、タナトス領が現在陥ってしまっている状況の説明を始めた。
タナトス領にある小規模な砦が敵方に落ちて居ない事。
スノーケア辺境伯の無事は確認出来ている事。
だが、こちらの手勢が寡兵の為、中々辺境伯家の邸を包囲している敵方を駆逐出来て居ない事が説明された。
「ここより先……辺境伯の邸に近い二つの砦は敵方に落ちていて、我々では砦の奪還が難しかった。だが、ウルム国の援軍が来た今であれば奪還も可能だろう。恐らく、その二つの砦が我が国内部に潜んでいた者達により最優先で落とされ、報せなどもそこで全て遮断されている可能性がある」
外側にある防衛目的の砦でも無く、国境に近い砦でも無く、スノーケア家の邸からアロースタリーズ国側の砦が狙われ落とされている。
砦の守備兵も多く置いていない、その砦を狙い連携の取りやすい近場のもう一箇所の砦を落とした。
敵方はその二つの砦で連携を取りながら、スノーケア辺境伯からの報せを全て葬っている。
オースティンの話を聞いたルカスヴェタは眉を寄せ、口を開いた。
「それ程簡単に落とせてしまった、と言う事は……やはり内部の者が手引きをしていたと言う事ですね」
「──ええ。砦には現アロースタリーズ国王陛下の兄君であらせられる王兄、バジュラド様のお姿が確認出来ております」
ルカスヴェタの言葉に重々しく頷き、悔しそうにオースティンは言葉を返した。
◇
その後は、オースティンが得た情報でルカスヴェタ中心に戦略を練り、リスティアナとリオルドは軍の後方に加わる事となった。
リスティアナは戦闘の邪魔になるから、とオースティンが療養する砦に残る事を希望したのだが、オースティンからメイブルム侯爵家としてしっかり事の全てを見て来なさいと言われてしまえば頷く他無い。
リスティアナを守る為にリオルドが傍に控え、殆どの戦闘はウルム国から援軍としてやって来てくれたルカスヴェタの軍と、この砦から出しても問題の無い兵士達を含めた二軍で敵方に落ちてしまった二つの砦を同時攻撃する事となった。
その砦に向かうのは、明朝。
相手方にもウルム国からの追軍がこの地へ到着した事は既に知られているだろう。
戦闘の混乱に乗じて王兄であるバジュラドに逃げられてしまっては、元も子も無い。
その為、ルカスヴェタは最短で砦を落とす戦略を練り続けたのであった。
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高瀬船
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コメント
1件
高瀬船さん、第31話読ませていただきました! 砦に到着してからの空気感がすごく良かったです。緊張して進んでいたのに、まさかの「知ってる!」って展開で一気に和んだのが面白かったです。それでいてオースティンさんの怪我の描写が痛々しくて、リスティアナが「お父様!」と駆け寄る心情がすごく伝わってきました……。 そして敵陣にいるのが王兄・バジュラド様という衝撃の事実。内部の者が手引きしてたって流れも、政治的な陰謀を感じさせてワクワクします。明日の戦略会議からの展開が気になります!