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あれ、ここはどこだ?
なんて思いながら辺りを見回す。ここはどこだ、なんて記憶喪失のセリフじゃないか。そんなわけないのにふと出たこのセリフはなんでだろう?…まあそんなこと考えていたって仕方がない。
まあここがどこなのかは置いておいて。今僕が置かれている状況というのは極めて特殊、と言えるのかもしれない。
この世界は特殊、いや、異常だ。
とある日から地球の自転が止まった。天体とかを研究している学者は、重力がどうたらブツリホウソクがどうたらと言っていたけど僕にはそんなこと分からない。わかるのは地球が回る時代は終わった、ということだ。
最初は僕ももちろん驚いたさ。朝はもう二度と来ることがなくなっただなんて。それをスマホのニュースで知ったときには立ち止まってただぼうっと景色を見るしかなかったからね。
幸い、世界の技術は思っていたよりもこの異常に適応し始めている。太陽しか当たらなくなった地域は人工的にバリア?のようなものを空に張り、擬似的に夜を作り出したらしい。温度湿度も調節ができるだとか。
でも太陽が当たらなくなった地域はずっと暗いままだ。地球の半球すべてを照らす明かりを生み出すエネルギーの確保が難しいらしく、温度湿度こそ適しているものの、僕の住んでいるところはずっと真っ暗だ。
そんな日の当たらない世界でおかしくなってしまう人は一定多数存在する。僕の大切な人、リリイがそうだ。
光がないことに絶望し、光を歌い続けて歌い続けて、声が枯れるまで歌い続けていた。
あまりにも憔悴しきって歌うものだから仕方なく僕はリリイを檻へと閉じ込めた。檻っていっても借りた部屋に鍵をかけただけのものだけど。
とまあこんな感じで過去の僕が聞いたらきっと信じられないようなことが今起こっている。
そういえばさっきここはどこだ、って言ったけど思い出したよ。ここはリリイと僕が元々一緒に住んでいた家だ。
この異常が起こってからこの環境に家が耐えられなくなったのか、元々住んでいた家やその周りの建物はみんな崩壊してしまった。この荒んだ土地は僕らの住んでいた所だ。
そうと分かってから急に酷く懐かしく感じる。リリイと過ごした様々な思い出が脳裏によぎる。彼女はおかしくなる前から歌うことが好きな人だった。僕はいつもその歌声に救われていたっけ。夜が怖いときにはいつも「明けない夜はない」って歌ってくれたんだ。
…そろそろ帰ろう。またリリイの歌が聞きたくなった。
ふと気がつく。僕はどうやって家に帰ったのだろう?そばにはリリイがついていてくれた。
椅子に座り、悲しそうに僕を見つめるリリイと目が合う。すると悲しい顔をしながらも薄っすらと微笑んでくれた。
「ねえ、リリイ。今日も歌ってくれるかい?」
「…ええ。今日もあなたを引きずり込む暗闇から守ってあげるわ。」
リリイの声はもう随分見なくなった太陽のような、真昼のような澄んだ声なんだ。
いつも希望と光を歌ってくれている。僕はこの声が本当に大好きなんだ。
ごめん、本当は気づいていたんだ。
君に救われる前から僕はとっくに夜に引きずり飲まれてしまっていたんだよ。
ああリリイ、リリイ、どうか許してくれないかな。
僕はもう君の幸せを願っていたあの頃あの時に戻れないんだ。
ねえリリイ、リリイ、どうして手を伸ばして僕の頬なんて撫でているの?
ああそうか、僕から出ていった雫を拭ってくれているんだね。
明けない夜はないと歌う君は紛れもなく僕の光だったよ。
「あなたを忘れないよ?」
「…うん、僕も。」
暗転。