テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
2000年代半ば、SNSの前身である掲示板やブログが爆発的に普及し、人々の不満や嫉妬が目に見えないノイズとなって街を覆い始めた頃。
東京の夜には、その精神の濁りを喰らって太る異形「マガツ」が蠢いていた。
日常の裏に潜む狩人
都内の古びた喫茶店で働く青年・蓮(レン)は、表向きはどこにでもいるフリーターだが、裏ではマガツを狩る討伐者(トウバツシャ)の一人だった。
マガツは実体を持たない。
失恋の痛手、不条理な上司への殺意、自己否定といった人間の負の感情に寄生し、その宿主の精神を蝕みながら肥大化する。
彼らが使う武器は、自らの精神を極限まで研ぎ澄まして生み出す「心象兵装」だ。
蓮が右手をかざすと、空気中の光が歪み、紺碧の光を放つ一振りの日本刀が姿を現す。
己の意志が揺らげば強度が落ち、恐怖に呑まれれば刃ごと砕け散る残酷な兵器だった。
渋谷の闇と「嫉妬の塊」
ある雨の金曜日、渋谷のスクランブル交差点近くの雑居ビル屋上で、過去最大級のマガツの反応が感知された。
宿主は、SNSでの誹謗中傷に晒され、絶望の淵にいた若いクリエイターの男。
彼の背後には、黒い煙のような巨大な多足の異形がへばりつき、男の脳からドロリとした負のエネルギーを貪っていた。
「助けて……誰でもいいから……」
男の潰れそうな心の悲鳴を聞きつけ、屋上の縁に降り立ったのは蓮と、彼のパートナーである女子高生・葵(アオイ)だった。
葵が胸元に手を当てて静かに息を吐くと、純白の長槍が形を成す。
「蓮、宿主の精神領域まで侵食されてる。刃を外せば、あの人の心が壊れるよ」
「分かってる。一撃で核だけを穿つ」
闇を祓う一閃
マガツは気配を察知すると、咆哮なき精神波を撒き散らした。
脳を直接揺さぶるような激しい頭痛と、過去のトラウマをフラッシュバックさせる精神攻撃。
蓮の視界が歪み、かつて自分が味わった絶望の記憶が蘇る。
「……惑わされるな!」
蓮は自分の脚を強く踏み締め、精神のブレを力ずくでねじ伏せた。
刀身が紺碧から鋭い白銀へと輝きを増す。
葵が前衛に跳び出し、マガツの鋭い触手を長槍のしなやかな演武で次々と払い落とす。生まれた一瞬の隙。
「ハァッ!」
蓮は地面を蹴り、宿主の男の背後に迫った。
刃を寸分違わずマガツの中心――人間の悪意が凝縮された漆黒の核――へと突き刺す。
静寂の戻る街
「ガ、ァ……」
声なき悲鳴と共に、マガツの巨体が霧のように霧散していく。
寄生から解放された男は、そのまま屋上に崩れ落ち、穏やかな寝息を立て始めた。
男の心から毒が抜け、正常な休息へと移行した証拠だった。
光の刀を消し去った蓮は、雨に濡れる渋谷の街を見下ろしながら息を整えた。
「これで一人救われた、と思いたいね」
「うん。でも、明日にはまた新しい怒りや悲しみがこの街に生まれるよ」
葵は槍を消し、パーカーのフードを深ぶかと被り直した。
目に見えない戦いは、誰に知られることもなく、今夜もこの街のどこかで続いている。
コメント
1件
第5話読み終えたよ〜!!😭💕 心象兵装が精神の強さで形や強度が変わるって設定、めっちゃかっこよすぎる…! 蓮が過去のトラウマをねじ伏せて刀が白銀に輝くシーン、エモすぎて震えた。葵との連携プレイも最高だし、宿主を傷つけずに核だけ穿つ戦い方が渋い。最後の「明日にはまた新しい怒りや悲しみが生まれる」って台詞、世界観のダークさと優しさが混ざっててグッときた… 続きめっちゃ気になる!!
1
1
もか@リムるな🫶小説コン開催
1,202
313