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出会い
夜の森は、異様なほど静かだった。
風も止み、虫の声すらない。
ただ、湿った土の匂いと、鉄のような血の匂いだけが漂っている。
その中心に――
一人の少女が倒れていた。
×××。
全身は無数の傷で覆われ、黒い服は裂け、赤く染まっている。
呼吸は浅く、かすか。
それでも――
彼女はまだ、生きていた。
(……まだ……死ねない……)
ぼんやりと霞む視界の中で、×××は必死に意識を繋ぎ止めていた。
ここは、キメラアント討伐任務の最前線。
幻影旅団として派遣され、単独で敵を引きつける役を担った場所。
――だが、想定以上だった。
敵の数。
敵の進化。
敵の執念。
すべてが、予測を超えていた。
(……しくじったな……)
胸の奥で、静かにそう呟く。
痛みはもう、ほとんど感じない。
それが逆に、危険な証拠だった。
出血は止まらず、念もほぼ枯渇している。
このまま放っておけば――
確実に死ぬ。
それでも、×××の顔に恐怖はなかった。
あるのは、諦めにも似た静けさだけ。
(……団長……ごめん……)
幻影旅団No.22。
彼女は“蜘蛛”として生きてきた。
感情を殺し、過去を捨て、仲間のために刃を振るう。
それが、生きる意味だった。
……はずだった。
「……あれ?」
そのとき。
遠くから、声が聞こえた。
少年の、明るい声。
「ねえキルア!こっち、なんか倒れてる!」
「は!?危ないだろ!近づくな!」
「でもさ、生きてるかも!」
足音が近づいてくる。
複数人。
×××は、微かに眉を動かした。
(……ハンター……?)
次の瞬間。
逆光の中に、四つの影が浮かび上がる。
まず、真っ先に駆け寄ってきたのは――
黒髪で、無邪気そうな少年。
ゴン。
「うわ……ひどい……!」
続いて、銀髪の少年がしゃがみ込む。
キルア。
「……重傷だ。すぐ手当しないとヤバい。」
金髪の少年――クラピカ。
冷静に周囲を警戒している。
「敵の気配はない。だが油断するな。」
最後に、眼鏡の青年――レオリオ。
「医者志望の出番だな……!どけ、俺が見る!」
四人は自然に役割を分担し、×××を囲んだ。
彼女は、うっすらと目を開く。
ぼやけた視界に、見知らぬ顔。
(……敵……じゃない……?)
「おい、意識あるぞ!」
キルアが声を上げる。
×××の喉が、かすかに動いた。
「……に……げ……」
「は?」
「……ここ……まだ……危ない……」
弱々しい声。
だが、確かな意思がこもっていた。
ゴンは目を見開く。
「えっ、でも――」
「ゴン、聞け。こいつ、戦場の中心にいた可能性高い。」
キルアは表情を引き締める。
「……相当、強い。」
クラピカも頷いた。
「それに、この傷……尋常じゃない。」
×××は、必死に息を整えながら続けた。
「……キメラ……まだ……残ってる……」
「……本当か?」
クラピカが問いかける。
×××は、かすかに頷いた。
「……地下……巣……」
その瞬間。
四人の空気が変わった。
「地下!?じゃあまだ――」
「……くそ、時間ないな。」
キルアが歯を噛みしめる。
レオリオが叫んだ。
「とにかくこの子を運ぶぞ!このままじゃ死ぬ!」
「俺が背負う!」
ゴンが即答する。
「待て、傷に響く。俺が支える。」
キルアが反対し、二人で慎重に×××を抱え上げた。
その腕の中で。
×××は、ぼんやりと考えていた。
(……なに……これ……)
今まで――
誰かに、こんなふうに守られたことはなかった。
利用するか、されるか。
奪うか、奪われるか。
それだけの世界。
なのに。
この四人は。
見ず知らずの自分を、命がけで運ぼうとしている。
(……バカ……だな……)
でも。
不思議と、嫌な気はしなかった。
むしろ――
胸の奥が、少しだけ温かい。
キルアが、小さく呟く。
「……なあ、お前……名前は?」
×××は、一瞬、迷った。
本名を言うわけにはいかない。
蜘蛛であることも、隠さなければならない。
でも。
意識は、もう限界だった。
「……×××……」
それだけ言って――
彼女は、静かに意識を手放した。
「おい!?しっかりしろ!」
「くそ……!」
ゴンは必死に呼びかける。
キルアは、歯を食いしばった。
「……絶対、死なせねぇ。」
その胸の奥で。
まだ誰も知らない運命が、静かに動き始めていた。
――蜘蛛の少女と、四人の少年。
決して交わるはずのなかった道が、
今、この瞬間に交差したのだった。
to be continued…
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