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「ねえ、涼ちゃん。俺と配信どっちの方が大切なの?」
そう言葉を発した元貴の表情の裏に何か歪んだものがあった。本能的に恐怖を感じた時、歩み寄ってきた元貴に手首を掴まれ、身体を押し倒される。
「痛い……っ!!待って、すぐ配信切るから!」
「いいよ別に切らなくて。」
「なんで…?どういう意味、っ、!?」
発せられた言葉の意図を聞こうとした時、曲げられた元貴の膝が下腹部を刺激する。突拍子もない行動に視線を向ければ、楽しそうな笑みを向けられた。
「元貴…!!今じゃな、いって…!!」
「かわいい。ねえ、かわいいよ涼ちゃん。ずっと他の人とばっか話しててさ。俺とじゃだめなの?満足させられないの?」
真っ直ぐと向けられた瞳から注ぎ込まれる愛の重さに息が詰まる。言葉が続くにつれて、辛そうな表情に変わっていく様子に既視感を感じた。限界まで我慢をした時に元貴がする表情で、以前にもこんなことがあった。
「見てる人に色んな事教えないで。俺だけが知ってる涼ちゃんで居てよ。」
段々と元貴の言葉がヒートアップしてきた時、スタンドに置いておいた配信用のスマホが震えた。画面に表示された通知の内容を見ようと瞳を細め、鮮明になった文字を見て目を見張った。通知には「マイク入ってますよ!」というDMが映し出されていた。
「…!!元貴!配信ミュートしてない!」
慌ててそう告げるも、自身の上に被さる元貴に動揺した様子は無かった。寧ろ僕の慌てた様子を見て楽しんでいるようで訳が分からない。
「ほんと退いて、マイク切らなきゃ、!?ん、ッ…ふ…ぁ…。」
動こうとしない彼を力ずくで退かそうとした時、柔らかい唇が触れ合う。驚いて薄く開いた口から入り込んだ舌に口内を弄ばれ、優しいいつもとは違う食らいつくようなキスに背筋がぞくぞくとする。頭ではダメだと分かっているのに、上手く手に力が入らない。
段々と酸素が薄くなり思考にモヤがかかってきた時、唇が離された。途端に流れ込んでくる酸素で呼吸を整えていれば、その様子を見下ろしていた元貴が、ポケットから取り出したスマホの画面を突きつけてきた。
「見て、涼ちゃん。」
言われた通りに画面に目を向けると、僕の配信しているアプリのアカウントが映し出されていた。画面はオフになっているものの、夥しい程のコメントが流れている。
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ぽちゃ:これヤバいやつ?
生ハム3世:え、彼氏持ち?
魚の子:放送事故www
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「バレちゃったね、涼ちゃん。」
そう発した元貴の口元が弧を描く。
「ごめん…………。」
申し訳なさから視線も合わせられぬまま謝罪を呟けば、優しく頬を撫でられた。
「謝れて偉いね、でも」
きっと怒られるだろうと思い固く目をつぶって元貴の続けようとしていた言葉を遮り、口を開く。
「個人情報バレちゃってごめんなさい…!!」
精一杯の謝罪を述べたつもりだったが、向けた相手の反応がなく恐る恐る目を開く。開いた視界の中には、きょとんとした表情を浮かべている元貴が居た。
「涼ちゃん……」
「はいっ!」
小さく呟かれた名前に返事をしたが、変な風に声が上擦ってしまった。そんな様子を気にすることなく元貴が言葉を続ける。
「ごめん、勘違いしてた。俺と同棲してるの知られたくなくて隠してるのかと思ってて。」
「え……?知られたくないわけないじゃん!言っていいなら、こんなかっこいい人と一緒なんだよって教えたいもん!」
僕のセリフに暫く考え込んだ元貴が突然立ち上がった。不思議な挙動を見つめていれば、腕を引いて立ち上がらせてくれる。
「あ、ありがとう?」
「来て、涼ちゃん。」
「ん……?何するの、っ!?え?」
依然として流れ続けているコメントを映す配信用のスマホの前に座った元貴に手招きをされる。大人しく近くに寄れば、手を掴まれて膝の上に座らせられる。
「どーもみなさーん。涼ちゃんの彼氏です。」
「元貴!?」
画面の表示されたカメラのボタンをオンにした元貴が言葉を紡ぐ。突拍子もない行動に驚いた顔を向けるが、当の本人は何食わぬ顔でコメントを目線で辿っている。
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ぽめ:カップルチャンネルに路線変更?
ドアノブの化身:推し変しそう。めっちゃ顔良い、彼氏さん。
snake:なんか涼ちゃん顔赤くない?
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「顔赤いってよ。見せて。」
ひとつのコメントを拾った元貴に顔を覗き込まれる。
「そんなに赤くないけ、ど…。」
目線を合わせようと隣を向けば、片手で顎を引かれて、間近にあった元貴の唇が触れキスをされる。突然の状況に理解出来ないままでいると、画面に視線を戻した元貴が楽しそうに呟いた。
「コメントはや。これ結構需要あるんじゃない?」
「ばか!!!!」
こんなに大勢の人が見ている中でそんな行為をするなんて恥ずかしすぎる。羞恥で潤んだ瞳で睨みつければ、それを見た元貴が目を見開いた。
「……それやばいよ涼ちゃん。」
何が、と言葉の意味を聞く間もなく配信を切られてしまう。こんな終わり方をしたらきっと見てくれている人に不満が残るだろう。そんなことを考えていれば、おもむろに伸ばされた元貴の手が服の下へと入り込んできた。
「!?ちょっと元貴、!」
抵抗も虚しく、好き勝手に身体をまさぐる冷たい手のひらに背筋にぞくぞくとした快感が走る。
「次は俺の時間でしょ、涼ちゃん。」