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とよ
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結局あの後雨に降られ、なんとか三人で必要な物を各自の部屋に運び込んだ。
オレとリツキさんが割り当てられたのは、寮の中でも最も歴史のある……と言えば聞こえがいいが、単刀直入に言ってしまえば古い寮だった。恐らくここが男女両方を受け入れている寮であり、かつ安価であるからだと思う。
でもまあ、こういう古臭い場所はどちらかと言えば居心地がいいと感じるから、オレ自身は納得している。そもそも実家がこんな感じだ。
リツキさんが合うかは分からないけど。不自然にふさがれた小さい穴も見かけたし。……このことは一旦黙っておいた方がいいのだろうか。
天井を見上げる。こんなに古い寮だが、幸いなことに一人一部屋とその点は恵まれていた。それに一部屋一部屋がそこそこ大きい。
引越しの際にすれ違った時にも他の生徒は干渉してこなかったし、そういう気風の寮かもしれない。ありがたいことだ。 中には家族や友達の集まりの延長線上の付き合いを要求される寮もあると聞く。そんなところではなくて助かった。
「ルカくん? ちょっと大丈夫かな……?」
リツキさんがドアをノックする。困りきった声色に、もしかしたら虫かネズミか、その辺りの生き物が出たのではないかと思った。
「分かった、すぐ開ける」
ドアを開けると案の定困った表情のリツキさんがいる。身長差があまりないから分からないが、さっき会った時より縮こまっているようにすら思えた。
「あ、あのね、男の子に頼むことでもないって分かってるんだけど……ワンピースの金具が外せなくって」
髪が乾いていたから気付かなかったが、彼女の服は雨の中歩いたせいで濡れたままだった。濡れているのはほぼ裾の部分だから、そこまで寒くはなさそうなのが幸いだ。
「分かった。……えっと」
寮にいる女子生徒には少し声を掛けづらかったのだろう。別に金具の一つ二つ、先生に泣きつかれることもあって慣れている。
でもここで金具を外したら半分脱げたまま彼女は二階に上がらなければいけないのでは、と思い当たる。とは言ってもやむを得ない場合を除いて二階に男子が上がるのは避けた方がいいだろうし。
「ちょっとだけ、お部屋貸してくれる?」
「え」
彼女にはその、あまり男女の意識が無いのだろうか。もしくはオレ自身が異性として見なされていないかのどちらかだ。
……おそらく、後者だろう。悪い感情からではないことは承知しているが、特に年上からそんな評価を受けることがある。
「……どうぞ」
挙動不審にならないように少しだけ意識したままドアを閉める。ぼうっとした表情でリツキさんは部屋を見ていた。
「あ、ごめんね。なんだかまだ人の気配がないなって」
「どうやらしばらく使われていなかったらしい。毎年この寮は空きが多いらしいよ」
魔法使いと言えばなんだかんだで古いもの好きだというイメージが強かったが、案外最近はそうでもないのかもしれない。あるいは古い物や伝統は好むが、それはそれとして住み心地の方が大切なのか。
「そうなんだ」
「金具、早めに外してしまおうか」
リツキさんが頷いた。白い首筋に触れないように注意を払いながら金具に手をかける。
「ルカくんやラティ先生が色々サポートしてくれるんだよね」
先生が先生と呼ばれることに違和感を覚えてしまう。確かにオレにとっての先生ではあるのだが、他多数の先生になる想像がつかない。
「まあ、できる範囲で」
「心強いな、ありがと」
指先に効率よく力が入っていないからか、話で集中できていないか、金具が外れる気配がない。変な噛み方をしているのかもしれない。
「あー。魔法を使うけど。大丈夫?」
リツキさんが頷くのを見て金具を撫でる。外せばいいくらいなら特に呪文だのなんだのは必要がない。直すならオレの腕だとまだいろいろ必要になると思う。
「外せた」
「えへへ……ありがと、ね?」
ワンピースを押さえながらリツキさんは振り向く。なんだか楽しそう、うれしそうな声色だ。そこまで喜ばれるようなことをしたつもりはないから、少しくすぐったい。
「別に、すぐ終わることだから」
やっぱりにこにことしている。不思議な人だ。
「それじゃ、またあとで」
それだけ伝えて部屋を出る。雨の後で肌寒いから火を入れておくべきだったと思った。リツキさんは寒くないだろうか。とはいえ、今それを考えても遅い。気が利かなかったなと自省する。
それにしても、だ。さっきのリツキさんの様子は何だったのだろう。改めて考えても違和感があった。だからと言ってどうというわけでもないが。
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