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第10章 名前のない夜
あの夜が、どこから変わったのかは覚えていない。
目を覚ました時、最初に感じたのは重さだった。
彼の息遣い、縋るように俺の胸に添えられた白い手。重なり合う華奢な足。
幸せな筈なのに、胸にヒリヒリと突き刺さるのは、彼の右上唇にある黒子のせいだろう。
人差し指で軽く縁を描くようになぞった。〝くすぐったいからやめろよ〟そう言った彼の声が聞こえた気がした。指先が離れた、その瞬間。
「誰を見てるの?」
眠ったままの体で、翔太はそう言った。
目は閉じたままなのに、すべて分かっているみたいな声だった。
俺は繕う事しか出来なかった。
「翔太だよ」
そう言った俺を、ゆっくりと開けた目で真っ直ぐ見つめた翔太は、不安そうに瞳を揺らした。頰を優しく撫でると、首元に蹲って胸にしがみ付いた翔太は、それ以上何も言わなかった。
何もなかった言葉のないこの関係に、温もりが加わった。
互いに求め合って重ねた体は、誰にも邪魔されずに二人だけの時間だった。
少しでも離れると、すぐに縋ってくる。一時も離れ難いと、わずかな隙間さえ埋めるように求められた。
追えば追うほど逃げていった駆け引き上手なアイツとは、違って目の前の翔太は不器用なアマエッティだった。
翔太 side
いつもと違う朝を迎えた。
外はすっかり雨が上がり、木々は水を得て朝日に照らされ、生き返ったように艶やかだった。時折、ポタポタと落ちる雫が光を纏って綺麗だった。
照の匂いに包まれて、あの夜を越えたことが、まだ現実みたいに思えなかった。
「行かないで」
その言葉が、何を意味していたのか、ちゃんと分かっていたはずなのに。
どちらからだったのかは覚えていない。
触れた指先が、離れなくなっただけだ。
ソファに座り暖炉の火が俺の頰を赤く染め、まだ冷たい手を、頰に翳した照は〝あったかい〟と言って目尻に皺を寄せると、額に唇を押し当てた。
薪がコトンと乾いた音を立てて崩れ落ちた。
それが合図だったように思う。
触れ合った唇はひやりと冷たく、隙間を縫って侵入してきた照の舌の温度差。
シャツを捲る冷たい手に、ピクリと反応した身体。
触れられた場所から、じわりと熱が広がる。
抗うより先に、身体の方が応えていた。
シトシトと降り出した雨が、また麓の店に靄をかけた。 しだいに大きくなる雨音が、胸の鼓動を速める。 躊躇いがちに掴んだシャツにグッと力を込め引き寄せた。
抱き寄せたはずの距離が、気付けば、戻せなくなっていた。
「……離れんなよ」
掠れた声が、すぐ近く耳元で落ちる。
頷いたのかどうかも分からないまま、指先が触れて、絡まった指。そのまま、頭上で組み敷かれソファに横たわり、逃げ場を失った。
「優しくする」
シャツが滑り落ちて、露わになった体に、息が止まる。 薄明かりの中でも分かるほど、無駄のない輪郭だった。
思わず伸ばした指は、照の鎖骨をなぞった。
「こそばゆい……」
子供みたいに無邪気に笑ったその笑顔に、胸が跳ねた。 触れるたびに、触れられるたびに引き返せない場所まで、静かに沈んでいく。
「……寒くない?」
「寒い……あっためてよ…ひかる」
触れ合う理由みたいに、言葉がひとつ、落ちた。
離れる理由が、どこにも見つからないように。
それ以上の言葉は、もういらなかった。
近づいた距離が、元に戻らないことだけが、はっきりと分かっていた。
両手で互いの頰に触れ合って、息が絡み合う。
首筋を辿って、照の後頭部に手を回すと、引き寄せ唇を重ねる。離れがたく喰らうように唇を寄せ、甘い吐息が漏れる。
照は優しく腰に腕を差し込むと、左手で上唇をなぞった。
――まただ。
時折愛おしそうに見つめる瞳に言いしれぬ不安が襲い掛かり、躊躇いもなく、照を求めた。
耳朶に触れる息に、身体の力が抜けていく。
照は纏っている衣服と下着を丁寧に脱がせていく。
一糸纏わぬ姿に「綺麗だ」と言った照の表情は暗がりに隠れて分からなかった。
じっくりと時間を掛けて、俺の身体中を指先と舌でなぞられる。「可愛い」とか、「ここ、感じやすいんだな」とか、いちいち声を掛けてくるから、余計に恥ずかしくなる。色付く肌をうっとりと見つめる照に〝恥ずかしいから見ないで〟と言うと、
「可愛いから無理」
その言葉に、思わず目を逸らした。
絡めた指はそのままに、
「甘えん坊のくせに」
その言葉に、噛み付くように返した。
「お前が離さないから」
「そう言うことにしておいてやる」
――あぁ、もうダメだ。
そう思った時には、もう遅かった。
ねっとりとした熱が、歯列をなぞっていく。
脚を大きく開かされ、照の顔が秘部に埋め込まれて花茎の先端を舐め転がした時、襲い掛かる快楽に、声を堪える余裕なんてなかった。
「ああぁっ……んんっ……………あん」
「可愛い翔太……もっと気持ちよくなって」
膨らんだそれを、根元まで咥えた照は、腕を伸ばすと白磁の肌に淡く色づいた俺の胸の先端を摘んだ。
「ンンンッ……待って……同時にしないでっ」
「えっ好きってこと?……素直じゃん」
「違っ……ンァッやだぁでちゃう……」
雨音に混ざる水音が自分自身から溢れ出て響いていると分かると、全身が熱く、赤く染まる。
クッションを掴んで顔を覆った。
「無理……ほんとに、……出る」
「イケよ……翔太」
「ンンッ」
短く身震いし、白濁をお腹の上に放った。
愛おしそうに俺を見つめ、頭を撫で労うように優しく抱きしめた。
「ベッドがいい」
そう言った俺に照は〝案内して〟と軽々と俺を持ち上げると、女の子のように抱えられて恥ずかしく、彼の胸に顔を埋めると〝可愛い〟などと言われ益々恥ずかしくなった。
〝可愛い〟だなんて言われ慣れていない言葉に戸惑いを隠せない。照の胸にしがみ付きながら、腕を伸ばし人差し指で部屋を案内する。
「こっち////」
「ほら、また……可愛すぎる」
だなんて――
「可愛いって……なんだよ恥ずかしいからやめろよ」
ベッドに押し倒され、覆い被さる照は、小窓から差し込むステンドグラスの光を受けて、色鮮やかなコントラストに染まっていた。
「無自覚かよ……もっと可愛くなって」
「は?……ンンンッ……待っていきなり……はあっ」
照の男らしいゴツゴツとした指が、臍をなぞると足首を掴んで一気に後孔へと指を侵入させた。
「翔太、溶けちゃってる……気持ちいい?」
「ああぁっ……んんっ…….」
「翔太の口元のホクロ、すごく色っぽくて好きだ。このまま…….もっと気持ち良くなろう」
胸の紅い蕾を口に含んで吸い上げながら、後孔を弄る指が律動すると、身体に強烈な快感が迸っていく。
「あああっ….ヘンに……なりそうぅっ………ああっ」
親指で花茎の先端を撫でながら、中指と薬指を後孔に入れて適度な力加減で抽送させると、翔太は扇情的な表情で身体を捩らせ続けた。
「だめっ……ヘンに……….なる……ひかるっ……んっ……..」
身体を逸らして跳ね上がった瞬間、翔太にフワフワした所からプツリと何かが切れたような感覚が襲った。
グッタリとしながら息を弾ませている翔太を見て、絶頂を迎えたと気付いた照は、髪を撫でながら〝かわいい〟と言葉を零した。
「ごめんもう……ムリ。翔太挿れるよ?」
「待って……イッたばっかり……ンンンッ待ってて」
翔太の腰を掴んで照の熱茎が押し入った。
照は愛おしそうに、口元のホクロをうっとりと見つめ、人差し指で、なぞった。
まるで、いつもそうしているみたいに。
「俺だけ見てよ……ひかる」
「翔太しか、見えてないよ」
翔太の両手首を下方に向かって掴んだ照は、自身の熱茎をさらに奥へと捩じ込んだ。中で膨らむ照の熱が愛おしく、翔太は手を振り解いて、照の後頭部を抱え込むように抱き寄せた。
「んっ……やばっ……しょうた」
「気持ちいい?ひかる?」
「あぁ……気持ちイイ……んっ一緒にイこう」
「ひかる……」
やがて、触れていた指先の力が、少しずつ抜けていく。
身体は重なったまま、どちらも、何も言わなかった。
呼吸だけが、静かに重なっていた。
こんなに満たされているのに、どうしてか、どこかだけ、空いたままだった。
この関係に、名前がないせいだと、そう思い込もうとした。
唇に残った熱が、まだ消えない。
――そこに触れられた感触だけが、やけに、鮮明に残っていて、照の胸に顔を預け離れないようにグッと抱き締めると、そのまま目を瞑った。
髪に触れる指が、ゆっくりと動いた。
「甘えん坊だな……」
「嫌なの?」
「いや、……思ってたより……いい」
「何だよ……それ」
釈然としない照の言葉に、唇を尖らせムッとした翔太は、抱き付いていた腕を離した。
代わりに照に抱き寄せられ、再び照の胸に頰がくっつく。
「おいで、アマエッテイ――」
「何それ?」
「翔太は、妖精みたいにふわふわしてるから」
「意味わかんない」
より強く引き寄せられて、照の腕の中に囚われる。苦しいと言った翔太に〝フラフラ飛んでいきそうだから〟と言ってそっと額にキスをした。
「沼らせる気だな……ひかる」
「分かっちゃった?……ちぇ作戦失敗」
「ふふっ……もうまんまとハマっちゃった」
〝んっ〟目を瞑って差し出した唇。
「ほら、やっぱりアマエッテイ」
「意味わかんない」
絡まる二人の足。
重ねた唇から、かすかな水音が響く。
もう朝とは言えない時間だった。
水を得た木々は、すでに光をたっぷりと含んで揺れていた。
高くなった陽射しが、葉の隙間を抜けて、
寝室のステンドグラスに触れる。
砕けた虹色の光が、
静かに、ベッドの上へと降りてきた。
二人の間に、何も言わない時間だけを残して。
コメント
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アマエッティってなぁに?👀

長い事放置してしまってすいません💦storyどんなだっけ???書いてる本人ですら迷子になる始末🤣💦
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