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夜会の狂騒が遠い幻だったかのように、侯爵邸の主寝室は静寂に包まれていた。
窓の外で揺れる木々のざわめきさえ届かないこの部屋は、まるで世界から切り離された聖域のよう。
けれど、私の目の前に立つアビス様の瞳だけは、静かな夜の底で青い炎を燃やしているようだった。
「エリス……」
低く、震えるような声で名を呼ばれ、私はビクッと肩を揺らした。
逃げ出したいような、けれどこのまま搦め取られたいような矛盾した感情が胸を突き上げる。
アビス様の手が、私の頬を包み込んだ。その指先は、驚くほど熱を帯びている。
「ずっと、こうして二人きりになるのを待っていた。……あのドレス姿の君を、他の男たちの視線から隠したくて仕方がなかったんだ」
「主様……いえ、アビス様……」
彼が顔を近づけると、上質な葡萄酒の芳醇な香りと、彼自身の雄々しい香りが混じり合い、私の脳を麻痺させていく。
視界が熱で歪む。
柔らかな唇が、私の唇をなぞるように重なった。
最初は触れるだけの、羽のような、確かめるような口づけ。
けれど、耐えきれずに私が小さく吐息を漏らすと、それは一気に飢えた獣のような激しさを帯び始めた。
「ん……っ、ふ……あ……」
強引に押し開かれた口内に、彼の熱い舌が侵入し、私の意識をかき回す。
絡みつく粘膜の熱さに心臓の音が耳元まで跳ね上がり、逃げ場を失った私は、彼の広い胸板を掴んでしがみつくことしかできなかった。
彼の大きな掌が、私の背中のラインをなぞるように滑り、ドレスのファスナーをゆっくりと、けれど容赦なく引き下げる。
じりじりと肌が露出していく感覚に、背筋が震える。
空気の冷たさが素肌に触れたのも束の間、すぐにアビス様の熱い肌が私を包み込んだ。
床に落ちたドレスの衣擦れの音が、静まり返った部屋にやけに大きく響き、私の羞恥心を煽る。
「エリス……君は、自分がどれほど美しいか分かっていない」
ベッドに押し倒され、シーツに沈み込む私の体に、彼の重みがのしかかる。
薄暗い中で見上げるアビス様の表情は、苦しげなほどに情熱的で、見るのが怖くなるほど私への執着に満ちていた。
彼の口づけは、唇から首筋へ、そして柔らかな鎖骨の窪みへと降りていく。
「あ……っ、そこ、は……アビス様……っ」
吸い上げられるような鮮烈な刺激に、私は背中を弓なりに逸らし、シーツを指先で固く握りしめた。
私の中に眠っていた見知らぬ衝動が、彼の舌が肌を這うたびに呼び覚まされていく。
「拒まないでくれ。……君のすべてに、俺の印を刻みたいんだ」
愛撫はさらに深く、容赦なく私の秘められた場所へと及んでいく。
普段は冷徹なほど冷静な彼の指先が、今は私を壊さんばかりに熱く、執拗に弄る。
指先が与える甘美な拷問に、私は声を殺すこともできず、ただ寄せては返す熱い波に飲み込まれていった。
恥ずかしさと快感が混ざり合い、視界が涙で潤んでいく。
「見てくれ、エリス。君は今、俺の手の中でこんなに震えている……」
彼が私の中へと入り込んだ瞬間、世界が弾けたような衝撃が走り、私は息を止めた。
喉の奥まで熱がせり上がり、声を出すことさえ忘れて彼を見つめる。
「は……っ、あ……アビス、様……っ!」
「……っ、きついな……。締め付けすぎだ」
「んっ…だ、だって……っ」
アビス様は私の指を強く絡め取り、耳元で熱い独り言を吐き捨てながら、激しく腰を動かし始めた。
「っ……!」
鋭い痛みに顔を歪ませると同時に、アビス様の動きが少しだけ緩んだ。
「力を抜いてくれ。……大丈夫だから」
囁くように言われて目を開けると、彼は苦しそうに眉を寄せながらも優しく微笑んでいる。
「は……い…っ」
痛みと違和感に耐えようと必死に唇を噛む。彼の荒い呼吸と滴り落ちる汗が頬に触れ、その熱さが何よりもリアルだった。
アビス様の手が私の頬を撫でる。大きな指が涙を拭っていく。
「無理はさせたくない。……少し休もう」
そう言って、彼は動きを止めてくれた。私を抱きしめたまま、荒い呼吸を整えようとする。
彼の胸筋が上下する鼓動を感じながら、私も浅い息を繰り返した。
痛かった。でもそれ以上に――。
(私のために……我慢してくれてる……)
彼の優しさが胸をいっぱいにして、痛みさえも愛おしく思えてくる。この人が好きだと改めて思う。強引で激しいのに、どこまでも優しい。
「アビス様……その……初めてのことで……どうすればいいのか……」
言葉にするのが恥ずかしくて顔が赤くなる。
そんな私を見て、アビス様は困ったように微笑んだ。
「すまない、君があまりに可愛くて、手加減ができなかった。もっと優しくするから、俺に身を委ねてくれ」
そう言って彼は私の頭を優しく撫でた。大きな手のひらが温かい。
「わかり…ました」
再び彼のものがゆっくりと中に入ってきた。優しくてゆっくりとした動きに合わせるように呼吸をする。すると徐々に痛みが和らぎ始める。
「ここ……大丈夫か?」
時折確認しながら進める彼の配慮が嬉しかった。
(慣れてきた……気がする)
その変化を感じた瞬間――突然全身を貫くような強い刺激に襲われた。
「あぁっ!」
驚いて声を上げると同時に中がきゅっと締まりアビス様の動きが止まった。
アビス様の驚いた表情と同時に、今度は違う部分にも同じ感触を与えられてビクンッと体が跳ね上がる。
「どうした?痛いか?」
慌てた様子で尋ねてくるが、答える余裕もなく言葉にならない喘ぎ声だけが出てしまう。
「いや……ちがっ……あっ」
何度試してもうまく伝えられない。
しかしそれだけで伝わったらしい。彼は安心したように笑みを見せると同時に、
「ここが気持ち良いんだな」
低い声で囁かれつつさらにそこを集中的に攻め立てられた瞬間――世界が変わった。
今までとは比べ物にならない程の快楽と共に全ての思考回路が停止するほどの凄まじい閃光に包まれた。意識が飛びそうになりながら必死で彼にしがみつき続けるしかなかった。
「あっ!あっ!アビス……様!ダメ……もう……っ!」
あまりに強烈な快楽の波に体が反り返る。彼の逞しい腕に必死でしがみつく私の爪が白くなっているだろう。
「可愛いな、エリス」熱に浮かされたような呟きが耳元に吹きかかる。「もっと感じてくれ」
そう言うと彼の動きがさらに激しくなった。内壁を擦られるたびに火花のような刺激が走り抜ける。もう声を抑えることもできず、喉の奥から漏れる嬌声が部屋中に響き渡った。
「ひゃあっ!あん!そこ……!ああっ!」
自分でも信じられないくらい甲高い声が出てしまい恥ずかしくてたまらないのに止められない。体中の感覚が一点に集中し溶けていくようで怖いはずなのに―不思議と逃げたくない気持ちも芽生えていた。
(おかしくなりそう……なのに……嬉しい……)
相反する感情が渦巻く中で唯一確かなことは彼が触れているところ全部が熱く燃えるようになっていることだ。シーツを掴む指先にも力が入りすぎて皮膚が破れそうな気さえする。
突然アビス様の動きが止まったと思うと唇を奪われた。強引だけれど優しいキス。酸欠状態の中必死で応えるうち気づけば両足が勝手に彼の腰を引き寄せてしまっていて自分でも驚愕してしまう。
「はぁっ……はぁ……アビ、スさま…」
繋がった場所から全身の細胞に広がる快楽は、これまでの人生で知るはずもなかった、甘く痺れるような毒。
彼が奥を突くたびに、私の思考は真っ白に塗りつぶされ、形にならない嬌声が漏れる。
ただ彼の名前を呼び、その逞しい背中に縋りつくことしかできなかった。
「愛している、エリス」
その宣言は、何よりも重い鎖となって私を縛り上げる。
果てることのない愛の波に、私は何度も、何度も打ちのめされた。
彼に愛されるたび、私は「使用人」という肩書きを脱ぎ捨て
ただアビスという一人の男を狂おしいほどに愛する、一人の女へと作り替えられていったのだ。
「なんで、こんな……知らない……私じゃ、ないみたい……」
息も絶え絶えに訴えかけると彼の碧眼が細くなり真剣な表情になった。
「これが本当の君だよ。俺だけが知ってる……俺だけの……」
そう言い終わらないうちにもう一度深く貫かれた瞬間―頭の中で何かが弾けるような衝撃を受けた。
何も考えられない空白状態になってそのまま意識を失ってしまった。
◆◇◆◇
気づくと朝日が差し込んでいた。
隣ではまだ眠っているアビス様の穏やかな寝顔があり胸のあたりにそっと額をつけたまましばらくじっとしていた。
昨晩あったことが嘘みたいな安らかな時間が流れていて幸せすぎて泣きそうになった。
窓の隙間から差し込む眩しい日差しが、私の瞼を容赦なく叩いた。
ゆっくりと体を起こすと、全身を襲うのは鈍いけれど心地よい倦怠感。
少し動こうとしただけで、腰のあたりに回された強い腕の力に気づき、昨夜の情事が鮮明にフラッシュバックして顔が火を噴いた。
(私……本当に、あんな声を……)
恥ずかしさに身悶えしていると、耳元で吐息が聞こえる。
「……ん、エリス。起きたのか」
隣から、少し掠れた低い声。
振り返ると、アビス様が肘をついて、慈しむような
けれど独占欲を隠さない眼差しで私を見下ろしていた。
寝乱れた黒髪の間から覗く瞳は、昨夜の激しさを物語るように、どこか蕩けたような色をしている。
「あ……お、おはようございます、アビス様。あっ、お着替えしないと…」
「……まだ、仕事の話をするのか?」
彼は不機嫌そうに目を細めると、私の細い肩を抱き寄せ、再び布団の中に引きずり込んだ。
抗う隙もなく、私は彼の逞しい胸の中に閉じ込められる。
彼は私の胸元に顔を埋め、深く、深く、私の匂いを確認するように息を吸い込んだ。
「アビス様! くすぐったいです……っ」
「せっかくの休暇だ。今日は君を抱いたまま、一日中ここで過ごす」
「そんなっ、昨夜ですら恥ずかしかったのに…こんな格好のまま一緒に寝るなんて…こ、困ります!」
「困ればいい。……俺も、君が愛おしすぎて、自分でもどうにかなりそうで困っているんだ」
彼は私の首筋に残った、生々しく紅い痕を指先で愛おしそうになぞった。
その瞳は、まるで手に入れた宝物を誰にも見せたくない子供のような
純粋で、それゆえに逃げ場のない重い執着に満ちている。
「昨日、君から愛の言葉は聞けてないからな、エリス。……君が好きと泣いて縋るまで、ベッドから出すつもりはない」
「えっ……ちょ、アビス様……んぁっ!」
拒絶の言葉を紡ごうとした唇は、再び重なった熱い感触によってあっけなく飲み込まれてしまった。
朝の光の中で、溶け合うような愛撫にまたしても翻弄される私。
外堀を埋められるどころか、私はすでに
アビス様という名の逃げられない深い檻の中で
永遠の愛という名の「終身雇用」を、心から受け入れてしまっていたのだった。