テラーノベル
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打ち合わせ後のエピローグ。
総務省との打ち合わせは、大成功だった。
岩渕局長をはじめとするお堅い役人どもは、若き社長、日向徹の圧倒的なプレゼンテーションとパーソナルファイル事業の革新性に、言葉通りぐうの音も出ない様子だった。徹のプレゼンはいつだって最高のショーだ。俺は彼の隣で微笑みながら完璧なアシストに徹し、プロジェクトの第一歩はこれ以上ない形で踏み出されたのだった。
——そして、その日の夜。
「……なぁ、朝比奈」
オフィスに社員が誰もいなくなった21時過ぎ。
社長室のデスクでPCに向かっていたはずの徹が、珍しくどこかぎこちない足取りでフリースペースへ降りてきた。
片手で首元を執拗に隠すようにシャツの襟を押し下げ、もう片方の手には昨日二人で飲んだ白ワインのボトルを持っている。
俺は書類に落としていた視線を上げ、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。
『どうした、徹。 パーソナルファイルの初期コード、もう書き終わったのか?』
「……いや。コードは……まあ、8割は終わった。そうじゃなくて……」
徹は俺の目の前まで歩いてくると、ドスンと音を立ててワインボトルをテーブルに置いた。
その顔は、なぜか茹で上がったタコのように真っ赤だ。二日酔いの赤さではない。耳の先端から首筋にかけて、隠しきれないほどの熱を帯びている。
「お前……今朝、僕に『途中で倒れるように寝てしまった』って言ったよな?」
『ああ、言ったが? 何か問題でもあったか?』
すっと首を傾げてみせると、徹はキーッと歯ぎしりをしそうな顔で俺を睨みつけてきた。だが、その瞳は泳ぎまくり、絶対に俺の目を直視しようとしない。
「嘘つき……! 全部、思い出してきたぞ……っ!」
『……ほう?』
俺は胸の前で腕を組み、ゆっくりと背もたれに体を預けた。
『……思い出した、だと?』
「あ、ああ! シャワー浴びて鏡見たら首に妙な跡はあるし、腰は尋常じゃなく痛いし! なんで僕が腰を痛めるんだよ! 何より……何より……っ!」
日向は顔を両手で覆い、その場にしゃがみ込みそうになりながら、絞り出すような声で叫んだ。
「僕の耳に息吹きかけただろ!!『今夜は帰さない』とか……『俺だけのものになれ』とか……! お前、めちゃくちゃ言ってたじゃないか!!」
オフィスに響き渡る天才の絶叫。
誰もいない夜のオフィスでよかったと心から思う。
俺はフッと口元を緩め、ソファから立ち上がると、うずくまりかけている徹のもとへと歩み寄った。そのまま彼の前にかがみ込み、顔を覆う両手を優しく包み込んで引き剥がす。
『……思い出したか』
「っ、朝比奈……! お前、知っててしらばっくれて……! 僕は男だぞ!? 社長と副社長だぞ!? なのに朝比奈は僕を…僕を……っ!」
照れとパニックで完全に電算処理がショートしている徹。
言葉を詰まらせながら顔を背けようとする彼の顎を、俺は昨夜と同じようにそっと指先で掬い上げた。逃がさないように、少しだけ力を込めて。
『言ったはずだぞ、徹。男同士だとか、社長と副社長だとか……そんなくだらないロジックで俺を拒むな、と』
「う……ぐ……っ」
『それに、俺は嘘は言っていない。”甘えてきた”のは本当だろ? 途中で「朝比奈」って、何度も俺の名前を呼んだじゃないか』
「言・っ・て・な・い!!」
真っ赤な顔で言い張る日向の唇に、俺は間髪入れずに軽くキスを落とした。
「んむ!?」
不意打ちの口づけに、日向の瞳が驚きで丸く見開かれる。
一口分だけの熱を残して唇を離すと、俺は彼の耳元へ顔を寄せ、悪魔のように甘く囁いた。
『もう一度、思い出させてやろうか? 昨夜、お前がどんな声で俺を呼んでいたか……頭から足の先まで、身体に刻み込んでやったはずなんだが』
「っ……! 結構だ! 遠慮する!!」
徹は跳ね起きるように俺から距離を取ろうとしたが、昨夜の疲労と腰の痛みが残っているせいで、「あだっ!?」と変な声を上げて再びソファに倒れ込んだ。
「痛たたた……っ、なんだこれ! なんなんだよ、この理不尽な身体の痛みは……っ!」
『無理をするな。筋肉痛みたいなものだ(……少し違うがな)』
俺は倒れ込んだ彼の隣に腰を下ろし、呆れたように、でも愛おしさを隠さずに彼の頭を撫でてやった。日向は「くそっ……」と悪態をつきながらも、俺の手を振り払おうとはしない。
「……朝比奈」
『なんだ?』
「……本気、なのか? 僕のことが……その、ビジネスパートナーとしてじゃなくて……」
上目遣いで、照れくさそうに、でも少し不安そうに尋ねてくる徹。
その瞳には、かつて誰も受け入れようとしなかった孤独な天才の、不器用な素顔が覗いていた。
俺は撫でていた手を彼の頬へと滑らせ、優しく指先で撫でた。
『本気に決まっているだろ。俺が理由もなく、お前以外の人間にここまで執着すると思うか?』
「……思わない。お前は計算高さと冷徹さでできてる人間だからな」
『ひどい言い草だな。……だが、正解だ。俺の人生の計算を狂わせたのは、世界で日向徹、お前だけだよ』
徹はふいっと顔を背け、小さく溜息をついた。
顔の赤みは一向に引く気配がない。それでも、彼は逃げ出そうとはしなかった。
「……まったく。最高のパーソナルファイルを作るために集中したいのに、余計なバグを発生させやがって」
『バグじゃない、仕様だ。これからは『朝比奈恒介の愛を受け取る』というタスクも、お前のスケジュールに組み込まれる』
「勝手に仕様変更するな!!」
プンプンと怒りながらも、徹は渋々といった様子で俺の肩に頭を預けてきた。
素直じゃない彼なりの、最大の「受諾」の意思表示だ。
「……まぁ、朝比奈以外の奴にこんなことされたら即刻クビだし、二度と顔も見たくないが……お前なら……まあ、今回だけは……特別に認めてやる」
『今回だけ、か?』
俺が意地悪く微笑むと、徹は預けていた頭をぐっと俺の肩に押し付けてきた。
「……毎回だったら、僕の腰が保たないだろ!!」
『ははっ、善処しよう』
静かなオフィスに、二人の笑い声(と、徹の痛みに悶える声)が響く。
窓の向こうには、NEXT INNOVATIONがこれから変えていく世界と、東京の夜景がどこまでも広がっていた。
俺の腕の中に収まった、世界で一番美しく、世界で一番愛おしい天才。
「なぁ、朝比奈。喉乾いた。」
『はいはい、社長。仰せのままに』
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コメント
1件
みぃです🤍🥀 エピローグ、一気に読んじゃった……! 日向くんが「思い出した」って迫るところ、もうめっちゃ可愛くて照れくさくて、でも朝比奈さんの余裕ある感じが逆に怖くてドキドキしたよ…… 「もう一度思い出させてやろうか?」の台詞、最高すぎるでしょ……! BL作品として、二人の立場とか関係性がちゃんとあって、その上で徐々に近づいていく感じがすごく好き。 あてぃさんの書く言葉の選び方、すごく丁寧で、読んでて胸がぎゅってなった。 これからもっと深くなるのかな? 続き、すごく楽しみにしてるよ🌙
#リチプア
あてぃ
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