テラーノベル
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渡辺は、家に帰って来た。
帰りのタクシーの中で運転手さんに唇怪我したんですか?
と聞かれて慌てて擦ると血が指についた。
それを見るとまた涙が出てくる。
運転手さんは黙って運転してくれた。
目黒の気持ちに気が付かなかった。
好きと言われても、抱きしめられても、怖いだけだった。
信じられない。
だが、下手な嘘をつく男ではない。
本気だと言う。
自分にどうしろと言うのだろう。
好きになる?
考えられない。
痛くて怖い思いをするのは自分じゃないか。
渡辺はソファに座り込んで頭を抱えている。
誰かに相談しようか?
いや、言えない。
コーヒーを飲みながらこれから自分達はどうなるんだろうと思う。
明日は9人での仕事がある。
どんな顔すればいいかわからない。
渡辺ー舌、切れてるよな。
思い切り噛んだんだから切れてるはずだ。
あんなことされても、心配する。
好きって何だろ?
同じ男なのにどうして好きになる?
どこが気に入った?
間違ってる。
女性に向ける感情だ。
そういう恋愛をしている人がいるのも知ってる。
だけど、自分は関係ないと思っていた。
明日、話をする気はない。
でも、みんなに変に思われるのも嫌だ。
喧嘩してると言われることも嫌だ。
何杯目のコーヒーだろう。
渡辺ーきらいかなぁ。
涙が出てくる。
気が合って、一緒にいて落ち着くし、楽しい。
はしゃがないけど、穏やかで安心できる。
だけじゃダメなのかなぁ。
渡辺は涙をこぼしながら目黒を思った。
好きになるって何だろ?
わからない。
年上だし、男だし、好きになってもらえる要素がない。
これからどうしたらいい?
近くにいるのに、話さない?
近くにいるのに、目も見ない?
不自然すぎるだろう。
渡辺ー目黒のばか。
怖い思いをするのは嫌。
痛い思いをするのは嫌。
諦めてくれないかな。
ちゃんと、自分の気持ちを言おう。