私は、あんこさんに榊社長……祐誠さんとのやり取りを全て話した。
「それって、あの人、確実に雫ちゃんにホレてるね」
あんこさんが何度もうなづきながら言った。
「そ、そんなまさか! ホレてるなんてそんなわけないですよ」
「え~! 雫ちゃん、顔が赤いよ~」
「もう、からかわないで下さい」
そんなこと、あるわけない……祐誠さんが私を好きだなんて。
「でも、何もなければ、仕事終わりに自宅にパンを配達してほしいなんて頼まないし、ジムにも誘わないし、名前でなんて呼ばせないよ。雫ちゃんに興味があるから誘ってくれるんだよ」
あんこさんが力説する。
「榊社長のこと……もちろん素敵だと思います。でも、あまりに私との格差があり過ぎて。見た目も、身分も、全部が違い過ぎます。そんな人を私が好きになるなんて、厚かましいというか、おこがましいというか……」
「雫ちゃん、そんな風に言っちゃ、あまりにも自分が可哀想だよ。何度も言うけど、あなたは本当に素敵な女性なんだから」
「そんな……」
あんこさん、私のこと、過大評価し過ぎだよ。
「今はまだ怖いと思う。またフラレたらどうしようとか、1歩踏み出す勇気を出すのも難しいかも知れない。わかるよ、わかるけどね。でも、素直にならないと後で後悔することになるから。私は……何があっても雫ちゃんの味方だから」
あんこさんの言葉は本当に嬉しかった。
私のこと、ちゃんと大切に思ってアドバイスしてくれてるのが痛いほどわかる。
「ありがとうございます。あんこさんが言ってくれたみたいに、まだ自信はないですけど、焦らずゆっくり……1歩踏み出してみます。少しでも素直になれるように……」
「そう、その意気! ゆっくりでいいから。素直にならないと損するよ~」
可愛く、あんこさんが笑った。
「損したことあるんですか?」
「あるある。私はこの通り、かなりの意地っ張りだからね。パン屋を経営することに必死になってたし。だから、気がついたらパンが恋人になっちゃった」
あんこさん……
「まあ、雫ちゃんだから言うけど、今は素直に好きだと思える人がいるの。そばにいたい気持ちもある。だけど、その人と結ばれなくてもいいかなって思ってる。私には仕事があるし、それが生きがいだから」
そんな人、やっぱりいるんだ……
東堂社長……かな?
それも、潔くてカッコいい生き方だと思った。
「でも、雫ちゃんは恋愛するべきだよ。だって若いんだもん。今はまだ誰が好きなのか、はっきりしなくてもいいじゃない。わからないなりに配達に行っといで。そのうち、榊社長なのか、希良君なのか、それとも……雫ちゃんを想う他の誰かなのか。好きな人がだんだんわかるようになるから。だから安心して」
「はい、ありがとうございます。元気もらいました。あんこさんは本当に素敵過ぎます。憧れます……っていうか、ずっと前から憧れ続けてます」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない~私も雫ちゃんみたいにイケメン達にモテたいわぁ。さあ、また明日から頑張りましょ!」
私達は、後片付けをして『杏』を出た。
私の側にいてくれて、支えてくれてありがとう……って、私は心の中であんこさんに何度もお礼を言った。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!