テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
深夜のコンビニ帰り、
イヤホンから流れる音楽だけが、心を繋ぎとめてくれていた。
「今日も、何もなかったな」
小さく呟いた声は、冷えた夜空に吸い込まれる。
ため息ばかり増えて、
笑う理由も、怒る理由も、
もうほとんど思い出せなくなっていた。
誰かと話していても、
頭の中に声が届かない感じがする。
ぼんやりして、空っぽな自分だけが残ってる。
食べても、飲んでも、何も満たされない。
起きてるのも、眠るのも、どっちも疲れる。
けど、何かを変える勇気もないまま、
毎日を繰り返してた。
部屋に帰って、無意識でパソコンの電源を入れる。
ネットの海に沈みながら、目を泳がせてると──
ふと、妙な広告が目に留まった。
【キミはまだ知らない──“本当の場所”へようこそ】
気持ち悪いほど作り込まれたアニメキャラが、
こっちをじっと見て笑っている。
…なんだこれ。
無視しようとして、でも指が止まらない。
軽い気持ちでクリックしてみた。
画面が一瞬だけブラックアウトして、
謎の動画が流れ始めた。
キャラが、笑ってる。
けど──目だけが笑ってなかった。
その瞬間、心臓がドクンと跳ねた。
どこかで見たことあるような“俺”が、
画面の奥に映ってる。
(え? なんで俺、これ知ってる?)
理由なんてわからない。
でも、“知ってる気がする”感覚が頭にこびりついた。
急いで動画を閉じた。
でも、映像の残像が、脳の奥から消えない。
──あのキャラ、さっき俺の名前を…?
「怖い、やだやだやだ」
無意識にぶつぶつ呟きながら、PCの電源を引っこ抜いた。
息が苦しくなって、
震える手でスマホを握りしめる。
LINEを開く──けど、誰にも送れない。
言ったところで、絶対に信じてもらえない。
(俺、おかしくなった?)
次の日。
外に出ても、あの視線を感じた。
電車の中。
コンビニの雑誌コーナー。
駅のモニターに流れるアニメのCM。
全部が、どこかおかしい。
“あいつ”がまた、いた。
「逃げろ」って自分に言い聞かせて、
画面を見るのをやめた。
全部シャットアウトして、イヤホンで耳を塞いだ。
でも──
心の奥が、
ザワザワとうるさくなってきた。
“怖さ”が“興味”に変わってきた。
(俺、知りたいのか…?)
何を?
この違和感の正体?
自分だけが知ってるような気がする、あの世界のこと?
気づけば、再びパソコンの前に座っていた。
「ああ、俺って馬鹿だな」
笑いながら、またあのサイトを開いた。
画面がまた一瞬だけ暗くなって、
耳鳴りが響いた。
そして──
次の瞬間、
世界が…色を変えた。
足元がふらついて、景色がグラつく。
まるで夢の中に落ちたみたいな、ふわふわした感覚。
「あ、入っちゃった」
思わず口から漏れた。
目の前には──
さっきまで“画面の中”にいたはずの、あのキャラがいた。
「嘘…なにこれぇぇぇぇええええ!?」
叫んだけど、もう戻れなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!