テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後のチャイムが、始まりの合図のように響き渡る。
泉は、まだ肌に馴染まない貸し出されたばかりのジャージの袖をぎゅっと握りしめ、陸と優の二人に挟まれるようにしてグラウンドへ向かっていた。
「……ねえ、陸くん。私、本当に大丈夫かな? 足手まといにならない?」
「何回目だよ、その心配! 大丈夫だって。泉がいれば、部活の空気がパッと明るくなるからさ!」
陸が屈託なく笑い、泉の背中を軽く叩く。その大きな手の温かさに、泉の胸がトクンと跳ねた。
「……重い。歩きにくいだろ、茅野が」
横から、優が不機嫌そうに陸の手を払いのける。
「なんだよ優、お前は相変わらず愛想ねーな」
「うるさい。早く行くぞ。アップに遅れる」
優は早足で先を行ってしまう。彼にとって、女子が部活の現場にいることは、まだ「面倒なノイズ」でしかないようだった。
グラウンドに足を踏み入れると、土の匂いと、誰かが風を切って駆け抜ける音がした。
本部テントの下。ストップウォッチを首にかけ、凛とした背筋で立っている一人の女子生徒がいた。
「くるみ先輩! 新入部員、連れてきました!」
陸の声が、弾けるようにグラウンドに響く。
振り返ったその人は、夕方の光を背負って、まるで映画のワンシーンのように美しかった。
「――あなたが、泉ちゃんね」
さらりと流れるポニーテール。涼しげな瞳。
木下くるみ。 三年生マネージャー。
彼女が微笑んだ瞬間、泉は直感した。
(……綺麗。……私とは、全然違う)
圧倒的な華やかさと、部員たちを包み込むような落ち着き。
けれど、それ以上に泉を動揺させたのは、隣に立つ陸の「顔」だった。
「先輩! 今日、俺、マジで気合入ってますから。……俺の走り、一秒も見逃さないでくださいね」
陸がくるみ先輩を見つめるその瞳。
そこには、泉に向けられる「友情」とは明らかに違う、熱くて、切実な「憧れ」が宿っていた。
泉の胸の奥で、まだ名前の知らぬ小さな痛みが、静かに、けれど確実に疼き始めた。