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俺たちとアランさん一行は熊人族の集落に転移してきた。
というか、ここはナツの家の前だね。
着いたと同時にシロが2、3歩前に出る。クンクンにおいを嗅ぎ、耳はピクピク動いている。
んっ、何かあるのか?
それに、このにおいはなんだ? ……野焼きか?
――いや火事か!
集落の中央からのようだ。
子供たちはナツに任せ、アランさん一行はこの場で待機させる。
「ナツ、子供たちを頼む。俺はちょっと村の様子を見てくる」
「アラン様、何か様子が変です。すこし見て参りますが、危険なようならダンジョンの方へお下がりください」
そのようにナツとアランさんへ言いおいて、俺はシロと一緒に走り出した。
んんっ、何だろう?
何か飛び回っているようだが。
しかし樹海に阻まれ上空の確認ができない。
またワイバーンなのか?
しばらく走ると、焼けた臭いのする現場へ辿り着いた。
なんじゃ、こりゃあ!
そこはなだらかな広い丘になっており、日当たりが良いからなのか一面が畑になっていた。
畑の周りには5~6軒の家が軒を連ねているのだが。
その全てが豪快に燃えていたのだ。
……原因はあれだろうな。
上空にはワイバーンが飛び回っていた。見えているのだけで10頭以上はいる。
それらを束ねるように、ど真ん中で優雅に滞空している赤いヤツ。
属性竜の炎竜ってヤツだろう。
するとあの家々もヤツの仕業だよな。
おそらく炎のブレスを吐くのだろう。
状況を把握したので取りあえずは連絡しにもどる。
アランさんに今の状況を一通り伝え、この後どうするか尋ねてみた。
「俺とシロは炎竜とワイバーンを殲滅しに向かいます。アラン様はどうされますか。見ていかれますか? 結界を張りますので一応安全だとは思いますが、万一を考えるなら城に戻られた方がよろしいかと」
「ここは山間 (やまあい) ではあるが王国内。皆が難儀しておるのに私だけ逃げる訳にはいくまい」
「それでは一旦ダンジョン前まで下がりましょう。あちらからなら、きっと良く見えますよ」
(アランさん、なかなか肝が据わっているな)
全員をダンジョン前まで転移させた。
すこし場所を移動すると煙があがっているのが見えてくる。
その煙に群がるようにワイバーンが。そして、ひと際デカい炎竜も目にすることができた。
デレク (ダンジョン) に防御結界を張るように頼んで、俺とシロはさっきの丘の麓へ戻ってきた。
近くに居た村人をつかまえ状況を聞く。
その村人が言うには、
昨日の夕刻からワイバーンが何頭も現れ、村人を襲いはじめたそうだ。
人々は家に隠れたり樹海の中に身を潜めやり過ごしていたという。
それが今朝になってから、さらに赤い竜まで現れた。
赤い竜は丘の周りにある家々に火を放ち、たまらず家から外へ出てきたところを襲っていったそうだ。
すでに6人が犠牲になっていると……。
なるほど、大体の状況は理解した。
これ以上被害を出さない為にも、サクッと狩っていきますかね。
俺はインベントリーから十字槍を取りだす。
シロには虎サイズになってもらい、その背中に跨った。
なんか久しぶりだよね、こうして一緒に戦うの。
――おらぁワクワクしてきたぞ。
「久しぶりだなシロ。一緒にやっつけような」
そう言って背中を撫でてやる。
『いく、たのしい、やる、うれしい、あそぶ、いっしょ』
シロもやる気十分だな。
「よし! 行こうか」 背をポンと叩く。
シロはワイバーンたちに向け、丘の上を疾走する。
(先ずは何頭か魔法で落としますか)
「シロ、ウインドカッターを広範囲で放つぞ!」
槍は左手に持ち、右手を上空に向け叫ぶ。
「ウインドカッター!」(イメージはデビルカッターです)
すると半月状の風刃が空に大きく広がり、ワイバーン共を切り刻んでいく。
次の瞬間、3頭のワイバーンが錐揉みしながら力なく落ちていった。
それで俺たちを敵と認識したのだろう。
他のワイバーンが奇声をあげ敵愾心をあらわにすると、次々とこちらへ突っ込んできた。
それらをエアハンマーで迎え撃っていく。
――ベゴッ!
妙な音をたてて面白いように丘に転がっていくワイバーン。
カウンターで当てているので威力も増し増しだ。
そのまま放置すると戦闘の邪魔になるため、デレクにお願いして転がっているワイバーンを回収させていく。
その後もバカの一つ覚えのごとく、ワイバーンはただ突っ込んでくるのみ。
デカいというだけで、お頭 (つむ) が大噴火なんだろう。
こちらは楽で良いのだがな。
突っ込んでくるだけのワイバーンを狩り続けた。
10頭程は葬っただろうか。
それまでゆったり上空を旋回していた赤いヤツが、満を持してかこちらに近づいてきた。
(いよいよボスのお出ましかな)
ヤツは上空20mぐらいまで近づいてくるとそこで滞空する。
(おお、なかなかにデカいなぁ。赤い鱗もかっこいい!)
首を少し後ろ反らしたと思ったらいきなり口を開きブレスを放ってきた。
あんな大きなモーションでシロに当たるはずもなく、ひょいと横に躱す。
20m程横に飛んだか、
ズガァ――――ン!
躱すと同時にブレスが着弾、地面がえぐれてクレーターができる。
土とか小石とか飛んでくるが結界を張っているため問題なし。
その後も2回ブレスを放ってきたが当たるはずもない。
(……終わりか?)
どうやら打ち止めで充電期間にはいったようだ。
まあ、魔力が貯まるまで待ってやる必要もないだろう。
「シロ、肉弾戦でいってみようか」
「ワンッ!」
あの野郎、俺たちが飛べないと思って余裕をかましているなぁ。
(ちょっと驚かせてやるか)
俺は頭の中で『スキップ!』と念じる。
次の瞬間、俺たちはヤツの顔面横に現れ、
――ガキャッ!
横っ面に一槍ぶっこんでやった。
しかし、ヤツの鱗に阻まれ傷ひとつ付かない。
……ほう、これが竜の鱗か。たしかに硬いな。
今度は後ろに回り込むようにスキップ!
ヤツの背に向かって魔力を纏わせた槍を一振り。
今度は肉に食い込んだが槍が砕け散った。
……ほうほう、やはりこうなるのか。
それなら次は、あの洞窟にあったオリハルコンの槍なら……どうだ!
おおっ、ザックリいったなぁ流石の切れ味だ。
まぁテストはこのくらいでいいだろう。
あまり苦しめるのもな……。
そう思い、再度スキップ!
ヤツの首元に転移して、
オリャ――ッ!
槍を一薙ぎ、炎竜の首を落とした。
そして炎竜の首と胴体を空中にあるうちにインベントリーへ収納する。
――これで終了だな。
シロはピョンピョンと結界魔法を使って大地に降り立つ。
俺はシロの背中から降りると、空を見上げてみたが残っているワイバーンは1頭もいなかった。
まあ、逃げたやつがいたとしても、ここへは戻って来ないだろう。
俺とシロはワイバーンの血で汚れた畑に浄化を掛けていった。
………………
――これで良し。
クレーターの方は集落の皆さんに頑張ってもらおう。
(さて、アランさん達を迎えにいきますか)
俺とシロが戻ってくると、ワァーッ! と子グマ姉弟が歓声を上げ抱きついてきた。
「あんたぁ、お疲れさま!」
ナツが抱擁しながら迎えてくれる。
アランさんと護衛の騎士達は…………少し引き気味だな。
「おばば様の言を疑っていた訳ではないが、こうして目の当りにすると真に凄いのだな」
アランさんはそう呟いたのち、俺とシロの正面に立った。
「真に見事だ! 炎竜 (ファイヤー・ドラゴン) の討伐ご苦労であった。国王になり代わり感謝する!」
すこし堅いのでは? と思いはしたが、確りとこの場を締めてくれたようだ。
今日は騎士たちも居るからねぇ……。
ちょうど昼時になったので温泉施設に入り昼食を作ることになった。
厨房にてナツと手分けしてスープを作り肉を焼いていった。
みんな揃ったところで焼きたてのステーキを頂く。
(これ旨っ! 旨すぎるぞ! 流石はヤツの肉だな)
「こ、これはなんという旨さだ……。得もいわれぬ奥行のある味わい。ゲン殿、これは何の肉ですかな?」
アランさんも気に入ってくれたようだ。
「さっき狩った赤いヤツですよ。アラン様」
「…………!」
「…………!」
アランさんとお付きの人達は顔を見合わせるとしばらく無言になった。
「これが幻の……」
ぼそぼそと何か言ってたみたいだが、声が小さくてうまく聞きとれなかった。
その後、本来の目的もあって村を訪れてみたのだが……。
んんっ、なに? どしたの?
すべての村人が俺に向かって両膝を突き頭を下げているのだ。
ほぼ土下座である。
中には手を合わせて拝んでいる者もいる。
驚いて見ている俺に、その中の一人が口を開いた。
「おお、英雄さま~。この度は我々をお救いくださり感謝しておりますぅ~」
そしてまた、皆で へへ―――っ! と頭を下げる。
「…………」
俺はどうしたもんかとオロオロしてしまい隣のアランさんに助けを求めた。
「……プフッ!」
横で小さく吹きだすアランさん。
「…………」
「せっかくですので英雄さま。ここは皆の者にお言葉を掛けてみては?」
ニヘラ顔で進言してくるアランさん。
隣に目をやると、ナツまで口を手でおさえて肩をピクピクさせている。
……くっそ~、おぼえてろよ~。
――仕方ない。
俺は右拳を握ると天に掲げ、
「皆の者、巨悪の根源であった ファイヤー・ドラゴン はこのゲンが打ち取った。これでまた安心して暮らせるであろう!」
周りは一瞬の静寂のあと、
「「「「「うぉ――――――――――――っ!」」」」」
割れんばかりの歓声と拍手に包まれていった。
――やれやれ。