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(大体、半分って所か)
マッハが使った『大竜巻』によって倒されたゴブリンの数を凡そで計算しながら、明らかに動きが鈍くなっているマッハに視線を向ける。
最初、使っていた風をその身に纏う『風の鎧』は既に消え、その一撃一撃の威力が下がったのかゴブリンを殺すのに手こずっている。
『大竜巻』で半分近く削ったとはいえ魔法の持続時間はおよそ10秒ほどと非常に短い。
『destiny』において、魔法は主人公の知能や魔力量によって威力や範囲、持続時間が変わるというものだった。
この世界において、魔法が『destiny』と同じかは不明であるが、知能はともかくマッハの魔力量はあまり多い方のものではないのだろう。
『大竜巻』の持続時間や、再び『風の鎧』を使わない所を見ると使う余裕がないのではなく魔力が足りず魔法が使えないのだろう。
(魔力の使い過ぎか・・・。
『destiny』においても魔力を使い過ぎると主人公のステータスが下る仕様だったな。
だから常に一定量魔力を残しながら闘わないといけないから非常にめんどくさかった。
確か魔力が減ると怠惰感や精神的な疲れが出て来てステータスに影響を出すって説明があったな。
見た感じマッハはそれと同じ状態なんだろう)
目に見えて動きが悪くなっているマッハは徐々にゴブリンの攻撃を交わしきれずにいた。
このままならいずれゴブリンに捕まり、確実に殺されるだろう。
酷く冷静に状況を把握しながらハーデスは自分の推測が外れてない事を知る。
(さてと、このまま見殺しにする訳にもいかないし、そろそろ加勢するか。
それにスキルを確かめる実験台に丁度いい)
『destiny』において魔法や武器によって出される技を一纏めにスキルと呼ぶ。
今回、ハーデスが試そうとしているのは魔法ではなく剣によって出せる武技。
ハーデスは魔法の他に勇者の使う武技を全て使う事が出来る。
早い話、ハーデスは『destiny』に登場する全てのスキルを使う事ができ、その威力はハーデスの魔力や桁違いの身体能力により勇者のものとは別次元のものと言える。
とはいえ先の村、キエタ村でのような失敗を避ける為かなり手加減を加える必要があるが。
キエタ村においてハーデスは本気でこそなかったが明らかに加減を間違えた魔法を使い、キエタ村を跡形もなく燃やし尽くした。
武技においてもハーデスが加減をしなければ、ここら一帯に甚大な被害を与えその跡をこの地に刻む事になる。
故にかなり加減を加える必要があるが、恐らくその点における心配は不要であろう。
ハーデスはこと戦闘においては並ぶ者がいないほどの天才である。
超越者たる自身の力を熟知しそれを自在に操る技術を持っている。
キエタ村の時のように激情に身を任せた行動をせず、一つ一つの行動を意識すれば加減は可能である。
現にゴブリン達を殺す際にもハーデスはかなり手加減を加えている。
本来の力でハーデスが軍刀を振るえばゴブリンの首を切り落とすだけでなくその余波だけで一帯を更地に変えてしまうだろう。
それほどまでに馬鹿げた力をハーデスは持っている。
万が一にも全盛期の勇者と魔王が闘うような事になればその二人の戦闘の余波だけで、大陸はその姿形を変えるであろう。
(常に冷静に、一つ一つの行動に意識を向けろ。
失敗すれば面倒な事になるぞ!)
自分自身に言い聞かすように心中で呟くと、再びゴブリンの群れへと向かった。
離れていた距離を一瞬で詰めたハーデスは、まずマッハの近くにいるゴブリンの首を刎ねその事を理解させる暇を与えず付近にいるゴブリンを一掃する。
「ハーデス!」
「邪魔だ、退いていろ」
少し遅れハーデスの姿を確認し声を上げるマッハの後ろ襟を掴み、ゴブリンのいない離れた所に投げ飛ばす。
叫び声を上げながら飛ばされていったマッハであるが、咄嗟に受身を取っているのだから流石である。
投げた本人であるハーデスはそんな事を一切気にせず、軍刀を構えると突如とした現れた予期せぬ敵の出現に戸惑うゴブリンに近づきスキルを使う。
「【雷神剣】」
軍刀を横に一線し、ゴブリンの首を切り落とすと軍刀を勢いよく地面に突き刺す。
その瞬間、地面に突き刺した刀身から何かが迸りマッハに当たらないよう計算されたそれはゴブリンだけを狙いハーデスを中心にドーム状に数十メートルに渡って広がっていき、範囲にいたゴブリンを襲う。
躱す事も理解する事も出来ないたった一撃でゴブリンに死を与える死神の鎌、その名は電
軍刀を中心にドーム状に迸る電はゴブリンの体を意図も容易く貫きその命を奪う。
奇しくもその光景はゴブリン達が『クオンの森』から逃げ出す原因を使った化け物のそれと酷似しており、ゴブリン達がその事で恐怖を抱くのは必然であった。
故に、彼らが選んだ選択は闘う事ではなく逃げる事。
「【飛燕】」
最も、それをさせるほどハーデスは甘くはない。
そしてその身に刻むだろう、『destiny』において多くの主人公に絶望を与えた言葉を。
───『魔王からは逃げられない』。
ハーデスが軍刀を振るえばその剣の先より一メートルほどの燕を模した魔力によって構築された鋭い刃が放たれ、標的であるゴブリンの体を切り刻みながらまるで意思を持つかのように縦横無尽に飛び回り蹂躙していく。
本来『飛燕』は真っ直ぐにしか飛ぶ事が出来ない魔力の刃であるが、ハーデスの膨大な魔力によるゴリ押しによりまるで生きている燕のような動きを可能にした。
ハーデスが軍刀を振るえばその度に魔力の刃は放たれ、ゴブリン達はその顔を恐怖に染めながら絶命していく。
「すげぇ」
先の雷もそうであったが縦横無尽に飛び回る幾つもの魔力の刃がゴブリンを切り刻んでいく光景にマッハは思わず感嘆の声を上げた。
個が多を圧倒する光景は正に強者による弱者の蹂躙と言える。
今の自分では決して出来ない事に悔しさを抱きながら、マッハはその光景に笑みを浮かべた。
(いつかきっと、俺もあの領域に立つ!
だから憧れるな、憧れて仕舞えばその足はいつかきっと止まってしまう。
前に進み、強くなりたいならこの悔しさを忘れるな。)
今より更に強く。
いつかこの時に見た光景が自分のものとなるようにこの悔しさを糧に強くなろう。
その為に今は笑おう。
仲間の成した事に悔しさも嫉妬を抱くのは無粋だ。
今はただ、仲間の強さにカルラ村が助かる事に喜ぼう。
決意を決めその顔に笑みを浮かべるマッハの視界に、既に両手で数える程しかいないゴブリンが魔力の刃によって切り刻まれる光景が映りこの戦闘が終わりを迎えるのだと理解した。
「【爆蛇炎】」
故にハーデスが最後に使ったスキルが明らかにオーバーキルだったのは言うまでもない。
赤く熱せられたように光る軍刀を振るえばその刀身より無数の炎の蛇が放たれ意思を持つようにゴブリンに元に向かい、その身を接触させると共に爆発した。
あちらこちらで起こる爆発により響く爆音に広がる高温の熱気。
されどハーデスは特に気にした様子もなく地面に刺した軍刀を引き抜くと軽く一振りした後、少し離れた場所でその光景を見て惚けているマッハの元に向かう。
その場に生きている生物はハーデスとマッハの二人以外いなかった。
「すげぇな、ハーデス!
まさかここまで強いとは思わなかったぜ!
まるで三英雄のような強さじゃねぇか!」
「貴様、先の魔法が己が力量に合わぬと知っておきながら使ったな」
ハーデスが近付いた事に気付き興奮するように叫ぶマッハを無視してハーデスは冷ややか目で見下ろすと、言い様のない威圧感を含んだ言葉を口にしマッハに軍刀を突き付けた。
「何故に使ったかその口で申してみよ。
下らぬ理由であったなら余が切って捨てる」
冗談ではない。
嘘偽や下らない事を口にするなら本当にハーデスはマッハを切るであろう。
先の戦闘以上に濃厚過ぎる死の気配にマッハは唾を飲む。
だが、その顔に笑みを浮かべるとハーデスを指さした。
「お前がいた」
「何⋯⋯」
「『大竜巻』が俺の力量に合わないのは誰よりも俺が知っている。
使えば1発で俺の魔力を喰っちまう事も理解している。
けど、パニックに陥り恐怖で逃げ出すかも知れないゴブリンをあの場に留めておく術をあの魔法以外に俺は知らなかった。
あのままやっててもゴブリンの群れを倒せたかも知れない。
けど、その中に取り逃した奴がいたら。
それが人間に危害を加えたら、・・・そう思ったら気付いたら使っていた。
それに何より、共に闘うお前がいた!」
「⋯⋯」
「俺は一人じゃない。
俺よりも強い仲間がいる。
だから使えた。
俺が倒れてもその後を任す事が出来た。
他の誰でもないお前がいたから使えたんだ!」
ニッと笑みを浮かべるとマッハにハーデスは呆れたようにため息をつくと、突きつけていた軍刀を下ろした。
「下らぬな。
だが、余の力を少なからず理解しての行動であったのならば、愚行と断ずるのは些か早計であるか。
クク、まぁよい。
飾らぬ事のない貴様の言葉に免じて此度は許そう。
だが、2度はない。
此度のように己が力量を弁えず、無謀とも言える行動を取るならば次は切る。
貴様の行動が無駄な被害を与えるのであれば尚の事よ」
キエタ村を焼き尽くすという甚大な被害を出したハーデスが言えた台詞ではない。
それを素直に受け止め、応っと答えたマッハはその顔に爽やかな笑みを浮かべるとハーデスの肩に手を回す。
ハーデスが物凄く嫌そうな顔をしているがまるで気にしない。
流石である。
「さて、ゴブリンの群れも倒した事だし⋯⋯帰るか相棒!」
「その煩い口を閉じねば殺す」
───もう1度言おう、2人は今回が初対面である。