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「帰るの?」


別荘の玄関ロビー。

帰る前にお手洗いに行ってきた月花のもとに、三田村がやってきた。


やっとマリコから解放されたらしい。


はい、と言うと、三田村は、ちょっと笑い、

「あの日、錆人が来たから、金持って逃げてた僕が隠れたと思ってる?」

違うよ、と言いながら、一歩踏み出した。


月花の頬に唇でちょっと触れてくる。


「君が錆人と来たからだよ」


おやすみ、と言って、三田村は手を振った。

錆人が来た。


「月花、あいさつはすませて来たから」


三田村を見る。


「……おやすみ」

とだけ錆人は言った。


「おやすみ、おにいちゃん」

と三田村は笑って手を振った。



「……唐人になにかされたか」

帰りの車で錆人が言う。


まだ呑んではいなかったらしく、家まで送ってくれた。

あの騒ぎで呑みそびれたのかもなと思う。


月花が答えないでいると、


「俺が……

唐人を殺したくなる感じのことか?」

と問われる。


いや、どのような状況だと、殺人事件が発生するのですか……と月花は怯える。



錆人は月花を部屋まで送ってくれた。


「鍵をかけて、誰が来ても開けるなよ」


お母さんヤギかな……。


「俺が来ても、唐人の変装かもしれん」


そんな莫迦な……。


「わ、わかりました。

おやすみなさい」


月花はドアを閉めようとしたが、錆人は自分が鍵をかけろと言っておいて、ガッと足でそれを止める。


刑事っ!?

と思ったが、錆人はドアを引き開けると、月花の両肩をつかみ、キスしてきた。


み、三田村さんもそこまでしてないんですけどっ?


「……おやすみ」


「おやすみなさい」


えーっ?


えーっ?


えーっ?


……私、頭壊れたのかな。


えーっ、しか浮かばないんだが。


こんなことでは仕事をクビになってしまう。


それはちょっと嫌だな、と月花は思った。


何故、専務が?


専務が私に……?


もしや、これも仕事の内なのだろうか。


っていうか、私、初めてだったんですけど。


問われても恥ずかしいからそうは言わないかもしれないけど、初めてだったんですけど。


ちょっと唐突すぎやしませんか?


いや、だったら、どういう状況ならいいのかと問われたら、やっぱり答えられないのだが――。




「おはようございます。

常務、すごいですね」


その日、常務、日立中但ひたちなか ただしは廊下でいきなり、あの城沢月花に話しかけられた。


……いや、なにがだ。


褒められて悪い気はしないが、理由がわからないと、不気味すぎる。


なにせ、藤樫錆人の手の者だからな、

と思ったあとで、


おかしいな、と思う。


彼女は、最初は私の秘書として派遣されてきたはずなのに。


いつの間にやら、奴の手の者に――。


ほんとうにあの男は横暴だ。


……いや、横暴かな。


思い返してみれば、この派遣秘書を知らぬ間に奪い取ったことを除けば、かなり私に配慮してくれている気もする。


いやいやいや。

そもそも、ジイさんの七光で、いきなり専務、というだけで、私はあの男を気に入らない、と思っても許されるのではないだろうか?


そういえば、奪い取られはしたが、そもそも、こいつは秘書として優秀なのだろうか?


別にこの秘書は譲ってもいいのでは、といろいろ考えている間に、藤樫錆人がやってきた。


「おはようございます」

と丁寧に頭を下げてくる。


うむ。

このような立派な若者にそのようにされたら、嬉しくないこともないこともない。


「おはよう」

と年長者の威厳をふんだんに出しながら挨拶を返す。


錆人は月花の方を向いた。

びくりとした顔をする。


「お、おはようございます」

と言ったのは、月花ではなく、錆人の方だった。


いや、それ、お前の秘書……。


錆人はそのまま、せかせかと――


いつも堂々としている彼らしくなく、落ち着きのない様子で専務室に戻っていった。


専務室――。


ああ、私が座りたかった専務室の椅子。


まだ自分が常務になる前、可愛がってくれていた前の前の専務が、

「そのうち、君もここに座るのかな?」

と笑って椅子を叩いてくれた。


専務っ。

その椅子はなんかわからん、今どき感心な感じの色男だが、七光な男に奪われましたよっ、と心の中で涙する。


ふー、と常務は深いため息をついた。


「大丈夫ですか? 常務」

と訊いてくれる月花の前で、


「こうなったら、専務を追い出すしかない……」

と呟く。


「えっ?」


「城沢くん。

君、私とタッグを組まないか」


「え、嫌です」


「返答早いな。

決断が早いのはいいことだ。


いや、そうじゃなくて。

私とタッグを組んで、専務を追い出そうじゃないか」


いや、そんな莫迦な……と月花は苦笑いする。


「彼にもっと功績を上げさせて、グループの上の方に押しやるんだっ。

そしたら、私がここの社長になれるかもしれんっ」


「なるほどっ。

それならありですねっ」




……なんであの二人は徒党を組んでるんだ。


専務室のドアを開け、そっと外を窺いながら、錆人は思う。


ほんとうに妙な女だ。


俺は緊急に花嫁がいるので、仕方なくだったが。


唐人はあいつの何処がそんなに良かったのか……。





偽装結婚の花嫁に逃げられたそうです ~3日で真実の愛は見つかりませんっ~

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