テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
状況がつかめない。なにこれ、いったいどういうこと?
この人、私を待っていたの? いつから? 朝から?
なんなの、ストーカー?
その思い付きに、背筋が冷えてくる。
手を振り払って声を上げようかと顔を上げて彼の横顔を見て、それはあまりに自意識過剰なんじゃないかという気持ちになって黙ってしまう。
だって、こんなにイケメンな上に社長なんでしょう?
絶対女の人に不自由なんてしていない。
声をかけてきたのはきっと、私に何か用事があるのだ。
「あのっ、なんですか? 私を待っていたんですか?」
「ああ。……あ、定時の時間を狙ってきただけだよ。別に朝から待っていたわけじゃないからな」
我に返ったように弁明を始める。
焦った表情は、これまでで一番親しみやすい気がした。
それにしても、私には彼に待たれる理由が全く分からない。
「なにか御用でも……」
大柄な彼に対して私は小さい。歩幅が違い過ぎて、足がもつれ、転びそうになる。
「大丈夫か? 案外ふらふらしているんだな。なんならかついでやろうか」
「け、結構ですっ」
深山さんがクスリと笑った。やや垂れた目尻は色気があって、ドキリとしてしまう。
イケメンの笑顔は危険だ。うっかり見とれてしまう。
「さ、行くぞ」
いつの間にか、私が一緒に行くことは決定事項となってしまったらしい。彼はタクシーを停め、私を先に乗せようとする。
これってやばいんじゃないかしら?
拉致られる?
見知らぬ人だったら大声で叫ぶところだ。だけど、会社員として考えるならば、迂闊な対応はできない。
なんと言っても、仕事上の付き合いのある会社の社長だ。身元は分かっているんだし、ここで大声で叫んだりすれば、名誉棄損で私のほうが怒られるかもしれない。
悩んでいるうちに、彼はどんどん自分のペースで話を進めてしまう。
「ほら奥に入って。……銀前坂の『ミヤマ』まで出して」と運転手さんに告げ、私を押し込むようにして乗せてしまった。
「あ、あの」
「すぐ着くよ」
そして気が付けば、私は、ビル群の中にありながらしっかり日本庭園を備えた、人生で一度も入ったことのないような日本料理の店へと連れてこられていたのだ。
鷹槻れん

17,797
鷹槻れん

34,256
#年の差
水無月 京
84
#大人の恋
月詠 涼
1,024
コメント
1件
お疲れさまです〜第8話、読み終えました🤍 深山さんの「定時の時間を狙ってきただけ」っていう言い訳、ちょっと焦った感じが可愛くて逆に怖いですよね(笑)無理やりタクシーに乗せられて高級料店に連れて行かれる流れ、拉致られ感がリアルでヒヤッとしました…! でも社長でイケメンだと、つい信じたくなっちゃう主人公の気持ちも分かるなあ。安全とドキドキの間で揺れる感じ、続きがすごく気になります🌙