テラーノベル
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奈央さんと別れたあと、俺は一人で校門を出た。
いつもと同じ帰り道。
同じ時間。
同じ重さのギターケース。
なのに、少しだけ歩きにくい。
(……なんだろ)
自分で言った言葉が、頭に残っている。
「前みたいでいいと思いますよ」
本心だった。
戻れるなら、それが一番楽だ。
奈央さんと話すときは、
考えなくてよかった。
言葉を選ばなくてよかった。
それが、当たり前だった。
でも最近は、
会話の前に一拍置く。
今の言い方、変じゃないか。
距離、詰めすぎてないか。
そんなこと、
今まで一度も考えなかったのに。
(俺、何に引っかかってんだ)
嫌になったわけじゃない。
避けたいわけでもない。
ただ、
前みたいじゃないのが、落ち着かない。
部活で他の人と話すときは、
相変わらずだ。
線を引いて、
必要以上に踏み込まない。
それが一番、楽なはずなのに。
奈央さんにだけ、
同じ距離感が使えない。
それが、少し気持ち悪い。
夜、ギターを触る。
チューニングは合っている。
でも、
音がどこか引っかかる。
狂っているほどじゃない。
ただ、微妙に合わない。
気にしなければ、気にならない。
でも、一度気づいたら戻れない。
奈央さんの顔が、
ふと浮かぶ。
そこで初めて、
自分がその表情を
ちゃんと覚えていることに気づいた。
その事実が、
今日いちばんの違和感だった。
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