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七美の父親が撃った弾は、俺の真横の床にめり込んでいた。焦げ臭い。
『七美ーー。今、青井君を殺した。この死体の処理を頼めるかな?』
「パパ………」
『もちろん、一度死んだ人間は、殺せない。僕達は、今後一切彼に関わることはない。……まだ彼のことが好きなら、彼の肉が朽ち、骨になるまで側にいてあげなさい』
「はぃ………分かりました。ありがとうございます」
俺は立ちあがり、まだ震えている足を叱咤し、ご両親にお辞儀をした。
「いっ!?」
「タマちゃん……私の…タマちゃん……」
俺の背中に抱きつく懐かしい温もり。
目の前に七美の親御さんがいなかったら、俺まで号泣していたに違いない。
「ふざけるな!! こんなに……侮辱されたのは、産まれて初めてですよ。神華さん。この不始末、どう責任取って頂けるんですか?」
まだ座っている七美の結婚相手。確か、夢神とか言う男が同じテーブルに座る七美の両親を睨み付けていた。
一触即発とは、まさにこのことだろう。
『夢神さん。あなたは、この青井君に比べたら遥かに神華側の人間だ。持っている資質は、申し分ない。彼のように優しく、自分の命を投げ出し、誰かを助けようとする蜜のように甘い考え方。その緩い精神は、神華では不要。不純物でしかない。その彼が、我が一族の長になれるはずもない』
「それが分かっていながら、どうしてそれでも彼を選ぶんですか? こんなどこにでもいるバカ男。弱腰のあなたが殺せないなら、僕が撃ち殺します!」
立ち上がり、拳銃を構えた夢神。
『卯月っ!!』
ザジゅっ。
その夢神の右手には、先ほどまでなかったテーブルナイフが深く突き刺さっていた。外で神華と夢神の兵隊を殺しまくっていた卯月さん。妖しい笑みを浮かべて今、俺達の前に立っていた。
「ぐっ!! ………はぁ……ぁ……。僕にこんなことをして…………。皆殺しにしてやるよ……この悪魔め」
『夢神ーーー。もし、お前が今撃っていたら、彼を抱き締めている七美まで重傷を負うことになっていた。最悪、死んでいたよ。この娘には、まだ大事な跡取りを産む役割がある。………やはり、全く未来が見えていないお前の腐った目では、神華を継ぐのは無理なようだな。僕が、間違っていたよ……。お前は、くだらない兵隊蟻と共に家に帰れ。もう、いらん。ふぅ~~。そろそろ行くよ、レイナちゃん。準備してね』
レイナちゃんと呼ばれた七美の母親は、明らかに慌てながら身支度を整え、旦那に駆け寄った。その旦那を盾にしながら、横からヒョコッと顔を出し、一度だけ俺にお辞儀をした。俺も慌てて、お辞儀を返す。
キョドり具合が何となく、番条さんに似ている。
「行かせるわけないだろ。殺す、お前等……全員……。生皮剥いで、殺せっ!!!!」
夢神がパチンッと指を鳴らすと、数人の大男が姿を現した。明らかに堅気ではない。圧倒的な悪のオーラ。黒服を着ていても分かる、その筋肉量。
『卯月。マリモ。この目障りな虫を排除しろ』
「「はい。旦那様」」
卯月さんの隣に立つ、初見のメイドさん。小学生のような背丈。その幼さには似合わない、両刃のダガーを持っている。
……………………。
……………。
………。
十分後。
俺はドレス姿の七美を抱っこして、ホテルを出た。七美が用意した高級外車に乗り込む。
その車内で。
「一応、親公認になったんだよな? これからは、こそこそ隠れて付き合うこともない」
「うん! 自由に付き合える。ずっと、ずっと一緒だよ」
「……………」
「どうしたの? 大丈夫?」
「………アパートに…帰ったら、膝枕してくれよ……。すぐに癒しが必要……。俺にはさ、刺激強すぎだよ。アレは」
「分かった。いっぱい、甘えさせてあげる。頑張ったご褒美もあるしね」
まだ生きている奇跡に感謝しつつ、七美が隣にいる幸せを俺は目を閉じ、噛みしめていた。
アパートに着くと、すぐに七美をベッドの上に押し倒した。俺だけを映す潤んだ瞳。少し熱を帯びたマシュマロ頬っぺ。
「狭いけど、我慢して」
俺は、彼女の横で猫のように丸まった。
「よちよち。いい子……いい子……。さっきは、恐かったよね。でもタマちゃんが、最後まで私を救おうとしてくれたから、こんなに幸せな今がある。一生かけて、恩返しするね」
胸に顔を埋めた俺の頭を撫でる七美。
「恐かったのは……お前を失うことだけ。……別に死ぬことじゃない。あのまま七美がさ、夢神って男のモノになったら、二度と会えないから。そっちの方が、死ぬよりツラかった」
「………私ね、実はタマちゃん以外の人とはエッチ出来ない体なの。だからね、あのまま結婚してたら、今夜……確実に死んでた。私も自分が死ぬことは恐くないよ? 恐いのは、大好きなタマちゃんが死ぬことだけ。番条さんにさ、二百五十億を払って副会長にして、タマちゃんを彼女の奴隷にして、記憶を消した。そこまでは未来通りだったのに……。私との関係が切れたら、アナタは平和で安全な普通の生活を送れて、幸せになれるはずだった…………」
「バカだな、お前。何にも分かってないよ。俺はさ、平和な生活なんて望んでない。七美がいない世界は、何もない砂漠と一緒。そんな世界で、のほほんと長生きしたくない。絶対に」
七美のドレスの脱がし方が分からない為、仕方なく強引に引き裂き、下着姿にした。されるがまま。抵抗する素振りは一切ない。
「あ~ぁ………。この服、五千万くらいするのになぁ。デザイナーさん、これ見たら激怒だよ~」
「っ!? 五千。ん……何? えっ」
「大丈夫だよ。心配しないで。いつも千円くらいしか持ってないタマちゃんからしたら、ショックな額だよね。それよりも……ねぇ、ねぇ。久しぶりに、あの甘えん坊タマちゃん、私に見せて……」
明日から、また学校。休みたいなぁ。一日中ずっと、こうしていたい。
とりあえず明日、二川さんと番条さんには、今日のお礼を言わないとーー。
「もしかして今、他の女のこと考えてる?」
「い、いやいや。全然っ」
「タマちゃん……。私に嘘は通用しないよ。腐っても私、神華の人間だからね」
七美のひんやり冷たい柔肌を貪る。
「っ! そこ……そんなに…ペロペロしちゃ……ダっ…メ…」
神華の人間ーーーー。
今後は、七美の両親に会う機会もあるだろう。彼等に対する対応を少しでも間違え、機嫌を損ねたら殺されるかも……。俺は、まだ首の皮一枚繋がっている状態に過ぎない。七美とこれから幸せに暮らす為。
近い将来、俺も神華となるため悪魔の仮面を付けなければいけなくなるかもしれない。