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「あらあら……。なんだか、死んでるのも忘れちゃうくらい、良い匂いがするじゃない?」
春風と共に、ひらりと境内に舞い降りたのは、白玉楼の主・西行寺幽々子。 彼女の目は、いつになく真剣……いや、完全に「捕食者」のそれだった。
「幽々子様! お待ちください、今まさに盛り付けるところで……!」 妖夢が慌ててお椀を用意するが、幽々子はふわりと俺の目の前に浮き上がると、樽から溢れる「白だし蓬莱味噌」をじっと見つめた。
「料理人さん。あなた、とんでもないものを醸(かも)したわね。この味噌の香り……まるで幻想郷の歴史をすべて煮詰めたような、深くて、残酷で、でも最高に慈悲深い香りがするわ」
俺は何も言わず、妖夢が差し出したお椀に、炊き立ての出汁と特製味噌を丁寧に溶き入れた。具材はシンプルに、豆腐と三つ葉だけ。だが、その一杯からは黄金色の後光が差している。
「……さあ、食べてくれ。不老不死の俺たちが、妖夢の剣技と共に『永遠』を詰め込んだ、究極の味噌汁だ」
幽々子が、白く細い指でお椀を受け取った。 静かに一口、その琥珀色の汁を口に含む。
「…………っ!!」
瞬間、幽々子の背後にあった桜の幻影が、季節外れの満開となって吹き荒れた。 彼女の瞳から、一筋の涙(のような霊力)がこぼれ落ちる。
「……南無三。白蓮がトランス状態になるのも分かるわね。……これ、ダメだわ。一口飲んだだけで、生前の記憶も、死後の退屈も、すべてがこの『旨味の深淵』に溶けて消えていく……」
「幽々子様!? 身体が……身体が透けて光っていますよ! 成仏しちゃダメです、戻ってきてください!!」 妖夢が半泣きで幽々子の裾を掴むが、幽々子は幸せそうに目を細めて呟いた。
「……ふふ、冗談よ。こんなに美味しいものがある世界、成仏してなるものですか。……ねえ、料理人さん。決めたわ。このお味噌、白玉楼の『指定文化財』に認定するわね」
「勝手に決めるな! これは俺たちの、博麗神社の味噌だぞ!」 霊夢がすかさず割って入るが、幽々子は満足げにお椀をお代わりしながら、俺たちに向かって微笑んだ。
「いいじゃない。不老不死のあなたたちなら、これから何千年も、私にこれを食べさせてくれるんでしょう?」
その言葉に、俺と霊夢、魔理沙は顔を見合わせた。 永遠という長すぎる時間に、この「味噌」という深みが加わった。 俺たちの高校生生活は、まだまだ始まったばかりだ。