「いつも通りって、大きくなってる陽さんのに歯を立てずに激しくスライドしつつ、緩急つける感じでねっこりしゃぶったり、大事なところに舌を突っ込んでびちゃびちゃに濡れさせたり?」
「うっ、表現がいやらしすぎる」
「こんなのたいしたことないよ。全然!」
「まったく。普段はどんな本を読んでるんだ、おまえ……」
「異世界転生のラノベを中心に読んでますけど?」
「あー、はいはい。現実世界から逃避したいのか。聞いた俺が馬鹿だった」
そんなくだらないやり取りをかわしている最中に、橋本は身ぐるみ全部脱がされ、宮本に食べられる姿になっていた。
「陽さん、さっきみたいに、俺の首に両手をかけて」
「わざわざ抱きあげなくたっていいって。こんなところで体力使うなよ」
それでも言われたことをやってのける橋本に、宮本はニヤニヤが止まらない。文句を言ってる目の前の顔がかわいくて仕方なかった。
「今日の最後の荷物を、こんなふうにベッドまで運ぶことができるなんて、俺は幸せだなぁ」
スマホを手にしていれば、間違いなく橋本の今の顔を撮影してるのにと思いながら、大柄な躰を慎重に横抱きにして、ほくほくしつつ寝室に向かう。
「おまえにとって、俺はお荷物なのかよ」
「大事に扱わなきゃいけない、自分だけの印を付けた荷物ですよ」
寝室の窓から月明かりがうまく入り込み、宮本の指輪を煌めかせる。それが目についたので、自分だけの印という言葉で表現してみた。
「そんな大事な荷物を、これからベッドでぐちゃぐちゃにするくせに」
宮本は橋本を優しくベッドに横たえさせてから、着ている服をいそいそ脱ぎはじめた。
「だって、荷解きをしなきゃダメじゃないですか。念入りにあちこち荷解きをして、まだ見つけきれていない快感部分を探さなきゃ」
「おまえの大事な荷物というよりも、峠のコーナーじゃねぇかと思うことのほうが多いんだぞ」
「峠のコーナー?」
嬉々として橋本に跨った宮本が疑問を口にすると、目の前の顔がしかめっ面に変わる。
「責め方のえげつない感じがそっくり」
告げられた言葉の意味が全然わからず、首を傾げてきょとんとした宮本に、橋本はくどくど説明をはじめる。
「コーナーを攻める顔と、今のおまえの顔が同じなんだって。道路状況が悪ければ悪いほど、ここぞとばかりに攻めるだろ」
「はい、ワクワクがとまりません」
「日によっては体調の善し悪しで、俺の感度だって変わるのに、舌なめずりしながら責められる身にもなってくれ……」
「だけど陽さん、責められるの嫌じゃないですよね」
確信をつくようなセリフに、橋本の顎が自然と引かれて、宮本との距離をほんの僅かに遠のかせた。
「えげつない責め方をしなきゃな……」
橋本が視線を右往左往させて答える姿を見ながら、宮本は両手を組んで指をポキポキ鳴らした。薄暗闇に響く不気味な音に、橋本の躰から冷や汗が吹き出す。普段はそんなことをしない宮本の行動から、嫌な予感しかなかった。
「陽さん、安心してください。優しくしてあげます。そんなふうに言われたら、手加減しなきゃいけなくなっちゃった♡」
「雅輝、落ち着け。絶対に優しくする気ないだろ。だって関節を鳴らす必要ないのに」
「え~、これは軽い準備運動ですよ♡」
「そんなもん、する必要ないって! 目がギラついてる、怖い!」
ヒッと息を飲んで固まった橋本を見下ろす宮本の視線が、これからおこなわれることを暗に示していた。粘り気を感じさせるそのまなざしは、どこから手をつけようかと、品定めをしているようで――。
「雅輝頼むから、いつも通りに!」
「大丈夫大丈夫。いつも通りにしつつ、新しいこともチャレンジしてみようかと思って♡」
イヤラしい笑みを浮かべた顔が近づく瞬間に、橋本は「あ、そうだった!」なんて間の抜けた声をあげた。
「陽さん、どうしてこのタイミングで、なにかを思い出すんですか。ヤル気が思いっきり削がれました」
近づいた顔が遠のき、いつもの顔に戻ったのを確認してから、橋本は安堵の溜息を零して話し出す。
「ヤル気が削がれてくれて助かった。あのさ、面白そうなコーナーを見つけたんだ。新規のお客様を乗せたときに、それを偶然見つけたんだけど」
ヤル気が削がれたと言った宮本の顔が、橋本の言葉により、違う意味で輝く。
「面白そうなコーナー?」
「ああ、隣の県にまたがる街道でさ。トラック運転手なら通ったことがあるかもしれないけど、いかんせん道幅が狭いから、使ってないかもなと思って」
橋本は跨る宮本の躰を押しのけると、リビングに置きっぱなしになってる上着からスマホを取り出し、画面に地図を表示させて寝室に戻った。
「この裏道、知ってるか?」
宮本の手にスマホを持たせて、道路地図を指差した。躰に寄り添いながら顔色を窺うと、それを見るなり、宮本のテンションがあからさまに下がる。
「この道、仕事では使わないですけど、走ったことくらいありますよ。バードストライカーズのメンバーで、遠征に行ったときに走りました」
宮本は押しつけるように橋本にスマホを手渡すなり、ベッドに勢いよく横たわった。
「やっぱ走ったことあるんだ。それで、どうしてそんな浮かない顔してるんだ?」
手渡されたスマホをベッドヘッドに置いてから、質問から逃れないようにすべく、宮本に跨った。タチだった頃のことをちょっとだけ思い出す。
「ここからちょっと距離あるし、攻略せずに放置しちゃったから。というかその頃はまだ地元も攻略できてなかったんで、他所を攻略する余裕がなかったんです」
「マジかよ、攻略できてないなんて」
「俺ってばコーナーなら、どんなものでも完璧に走りこなせる男じゃないですよ。呆れたでしょ?」
「俺を攻略しといて、よく言うよ……」
「確かに、他の人が好きだった陽さんを攻略するのに苦労しましたけど、コーナーとは種類が違うでしょ!」
声を荒らげた宮本の手を取り、橋本自身に触れさせる。
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