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桃源暗鬼

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桃源暗鬼

42 - 第42話

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2025年05月25日

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会議室に集まった無陀野、淀川、並木度の大人組。

生徒たちのことも含めた、この後の動きについて話し合いを終えると、最後に淀川が無陀野へ声をかける。


「鳴海はどうする。やっぱり置いてくのか?」

「あいつ次第だ。」

「! じゃあ行きたいって言ったら連れてくつもりか。」

「あぁ。俺が一緒なら問題ない。」


“人手は多い方がいいだろう”

そう言って会議室を出て行く無陀野を、偵察部隊の2人は珍しいものでも見るかのように見送った。

意識的か無意識なのか分からないが、傍から見れば鳴海に対してかなり過保護な無陀野。

今回も安全な場所で留守番させるものだと思っていた。


「本当に人手のことだけを考えて言ったんでしょうかね。」

「どういう意味だ。」

「いや、鳴海さんってああ見えて頑固だし置いていくってなったら相当怒るし駄々こねるな〜って」


並木度の発言に納得し、淀川もまた彼に続いて部屋を出て行くのだった。


第29話 疑心暗鬼/悲傷


会議室を出た淀川は、部下たちにテキパキと指示を飛ばす。

彼に鍛えられているだけあって、皆が皆動きに無駄がなく、スムーズに事は進んだ。


「真澄隊長!最低限持っていける資料等まとめ終わりました。」

「したら残りは処分して、お前ら隊員は別アジトに移動しろ。それと1つ頼みがある。」

「はい?」

「俺らも移動か?」

「つまんねーな。」


部下への頼み事が終わると、淀川は続いてブーブー文句を言っている若者たちへと指示を出す。

今回ばかりは、彼らの力が必要となるようだ。


「お前らには働いてもらう。糸口になる半グレを捜す仕事だ。桃と繋がる”関東ナッツ連合”はいくつかの店を経営している。どっかに溜まってる可能性が高いけど、こっちは人手が足りねぇ。だからこんな感じでバラけて、半グレどもを捜してもらう。」

「皇后崎は?」

「あいつには外れてもらう。あいつは鳴海の部下と移動してもらう。どんな能力かけられてるかわからねぇからな。」


鳴海からの助言を受け、皇后崎は別室でヘッドホンにアイマスク姿で待機をしている。

それ以外の面々は矢颪・遊摺部、一ノ瀬・屏風ヶ浦、手術岾・漣でそれぞれペアを組み、半グレ捜索へと向かうことになった。

気合いを入れる仲間たちを寂しそうに見つめる鳴海に気づくと、淀川はスッと隣に並び、顔を覗き込みながら声をかける。



「鳴海も行きてぇか?」

「えっ!」

「ふっ。そんな顔してたぞ。」

「…皆頑張ってるし、それはもちろん行きたいけど…俺、自分のとこの事やらないといけないし…」

「あいつと一緒なら参加してもいいってよ。」


そう言って淀川がクイっと顎を向けた先には、腕を組んで立つ無陀野の姿があった。

驚いたように自分を見つめてくる鳴海に、無陀野は軽く頷いて見せる。


「どうする?俺と来るか?」

「うん!行く!行きたい!!というか絶対行く!」

「部下に連絡入れろ。5分後に出る。準備しておけよ。」

「了解!! 」


自分も役に立てると喜ぶ鳴海に目をやる無陀野と淀川は、同じように優しい眼差しだった。

支度を済ませ、出発まで少し待機していた鳴海の元に、一ノ瀬が駆け寄って来る。

さっきのやり取りの間中ずっとソワソワしていた彼は、鳴海が1人になるタイミングを待っていたのだ。


「参加できて良かったな!」

「うん!これで少しは役に立てるよ。」

「? 鳴海はいつも役に立ってるじゃん。俺は鳴海にカッコいいとこ見せたい!って思うと頑張れる。これって役に立ってるってことだろ?」

「あははっ!そうだね。…四季ちゃんは本当いつも俺に元気をくれるね。ありがと!」


鳴海に笑いかけられ、嬉しそうな表情を見せる一ノ瀬。

そんな彼のポケットから、突然スマホのバイブ音が聞こえてくる。

画面を見れば、そこには”神門”の文字。

彼のことを知っている鳴海と顔を見合わせてから、一ノ瀬は通話ボタンをタップした。


「もしもし?」

《あ、ナツ君?急にごめんね。ちょっと会って話したいことがあるんだけど、今から会えない?》

「え、今?今はちょっと無理だな…」

《忙しい感じ?何してんの?》

「あーちょっと色々な…!」

《え?言えないことしてんの…?》

「いや…そういうわけじゃない…けどまぁ…」


確かにこれから鬼機関の1人としてやろうとしていることを、正直に言えるはずもない。

せっかくできた新しい友人に本当のことを言えない苦しさが分かるから、鳴海もまた心配そうな顔を一ノ瀬に向けていた。

と言っている間に、出発の時間が来る。

“行くぞ”と声をかける淀川の声に反応し、一ノ瀬は慌てて電話を切った。


「神門ちゃん、何だって?」

「会って話したいことがあるって言ってたけど…具体的には何も。それに何か様子がおかしかったんだよな。」

「そっか…本当のこと言えたらいいんだけど…」

「だよなー。あー隠しごとすんのってしんどいなー…」

「…俺、四季ちゃんと神門ちゃんなら大丈夫な気がする。」

「そうかな?」

「うん。だってあんなに意気投合して楽しそうだったじゃん!」

「そう、だよな。っし、区切りついたら会ってみるか。」

「それがいいよ!」

「今度は鳴海も一緒に行こうな!」

「え、いいの?」

「当然!ほら、意外と恋バナとかかもしんねぇじゃん。」

「だといいんだけどね〜」


楽しそうに会話をしながら、大人組の元へ向かう鳴海と一ノ瀬。

彼が”大丈夫”と言った2人が、この後最悪な形で再会することになるなんて…

一体誰が予想できただろう。


「半グレどもはあらゆる店や土地を持ってる!どこにいるか謎だ!けど必ず見つける!半グレどもが重要な糸口になる!」


“捜せ!”

淀川のその一声に背中を押され、街中へと散らばって行く面々。

無陀野とペアを組んだ鳴海も足に特注の靴を装備すると、例の移動手段で捜索を開始する。

渡された店や土地のリストをしらみつぶしに当たって行く中で、効率重視の鳴海・無陀野ペアのスピードはダントツだった。

背負われた無陀野が地図アプリで道案内をし、鳴海の驚異的な脚力で現地まで向かう。

鳴海が中を確認している間に、無陀野が次の目的地を検索する。

この連係プレーで、渡されたリストは瞬く間にペンで消されていった。

そしてついに最後の1つを確認し終えると、2人は少し休憩タイムに入る。

無陀野が缶ジュースを手渡せば、お礼と共に受け取った鳴海はそれを美味しそうに飲み始めた。


「お前のお陰で早く終わった。ありがとう。…まぁ見つからなかったのは不本意だがな。」

「そうだね。リストにない、それっぽい場所も行ってみよ!」

「精が出るな。そんなに参加したかったのか?」

「うん!俺ってみんなに守られてるから今ぐらいは役に立たないとね!これも全線復帰に向けた足掛かりよ!」

「そうか…悪かった。」

「えっ!?な、何で無人くんが謝るの…!」

「守りたい気持ちが強すぎて、鳴海の行動を制限してた。それがお前の精神的負担になってると分かってやれなかった。」

「え、あ、いや、違うよ!みんなが俺を守ってくれるの、すごい嬉しいよ!自分の立場もちゃんと分かってるし。でも時々思うんだ…俺と一緒に行動する人は、必ず俺を守るっていう仕事をしなくちゃいけない。どれだけ強い人でも、1つ仕事が増えるっていう点においては間違いなく負担になる。ケガをした時はその恩を返せるけど…そうじゃなければ、ただ負荷をかけてるだけで…そんな俺に守られる価値があるのかなって。」

「お前は自分が守られてる理由を分かってない。」

「へ?」

「お前が守られてるのは、弱いからでも、能力のせいでもない。お前が俺たちを守ろうとしてるからだ。自分で言ってただろ、俺たちの背中を守ると。そう言ってくれる仲間を守るのは当然のことだ。少なくとも俺は、鳴海を守ることを負担だと思ったことは一度もない。」


言い方は淡々としているが、鳴海の方へ向ける無陀野の表情には、彼の強い意志が感じられた。

無陀野の言葉は、いつも鳴海の心を温かくする。

“元戦闘部隊のエリートとは思えないな…”なんてことを考えながら、鳴海は穏やかな気持ちでお礼を返すのだった。


「無人くんと結婚してよかった」

「何だ、急に。」

「だってこんなに優しい無人くんを知ってるのは俺だけで十分でしょ?」

「…」

「無人くん?」

「お前の笑顔を焼き付けてるから少し待て」

「この妻バカ…(嬉しい)」

「愛する妻が可愛いっていうのは最高だな」

「愛する妻って響き最高!💕」

「お前も大概だぞ。今度の休みに抱き潰してやるから覚悟しろよ。それと今は目の前のことに集中しろ。」

「え!?」

「いい子にしてたらご褒美もやる。」

「え、ほんと…?」

「ああ。お前の好きなことをしてやる」

「!」

「飲み終わったなら行くぞ。他の場所も捜してみるんだろ?」


そう言って差し出された手に中身が空になった缶を乗せれば、すぐ傍にあるゴミ箱へ軽く放り投げる無陀野。

ゴミ箱の中で空き缶同士がぶつかる音を聞きながら、鳴海の脳内は今言われたことを必死に処理しようとする。

男性が女性に向けて発する言葉の中でも、かなりドキドキ度が高い分野のものであることは間違いない。

それを真顔で平然と言い放つ無陀野無人という男。


「(俺の旦那様ちょーかっこいい〜っっ!)」

「鳴海、置いてくぞ。」

「あ、待ってよ!」


“無人くんの好きな料理たくさん用意しないと…!”

鳴海はそう肝に銘じて、無陀野を抱き上げるのだった。

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