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【滉斗side】
最初は、ただの仲間だった。
一緒にMrs. GREEN APPLEとして音を鳴らす、かけがえのない存在。
涼ちゃんも、俺も、元貴のために、音楽のために、ひたすら真っ直ぐだった。
作詞作曲を担う元貴に、少しでも応えたくて。
必死に食らいついて、時には涼ちゃんと意見をぶつけ合って。
でもそれは、互いを信頼していたからだ。
…そのはずだった。
——あのライブ、“Atlantis”。
スタイリストさんが神がかってたのか、いや、普段から綺麗なのは知ってたけど。
あの日の涼ちゃんは、信じられないくらい綺麗だった。
スモークが立ち込めるステージで、ピアノを弾く涼ちゃん。
淡いライティングに浮かび上がる横顔。
汗で濡れた襟足までが、なんか…やたら色っぽくて。
男同士だっていうのに、心臓が痛いくらいに跳ねた。
「——……やばい、俺、何考えてんだよ」
それから、気づけば涼ちゃんを見るたび、変にドキドキしてる自分がいた。
ピアノに夢中になってる時の、真剣な顔。
笑った時にふわっと揺れる、柔らかい表情。
全部が、気になって仕方ない。
だけど、そんな感情を悟られたくなくて、
今まで通り、バカみたいなノリで笑い合って、ふざけ合って——
誤魔化してた。
…それなのに。
今、目の前にいるのは、誰にも邪魔されないスタジオにいる、たったふたりだけ。
シンと静まり返った空気。
響いていた音は止まり、呼吸だけが聞こえる。
ふと、涼ちゃんが、無防備な顔でピアノの鍵盤を指でなぞった。
何でもない仕草なのに、心臓をわし掴みにされる。
——ああ、もう、ダメだ。
俺はもう、
涼ちゃんから目を逸らせない。
「……涼ちゃん、ちょっと」
気づけば、呼び寄せてた。
自分でもどうしたいのか分からないまま、
ただ、本能がそうさせた。
涼ちゃんが、首を傾げながら近づいてくる。
その距離が縮まるたびに、
息が詰まりそうだった。
「なに?」
無邪気な声。
けれど、それすら俺にはたまらなく甘く聞こえた。
ぐっと、涼ちゃんの手首を取る。
驚いた顔をする涼ちゃんに、俺は言葉もなく、
手を引いて、自分の方へ引き寄せた。
——あと、数センチ。
唇が触れそうな距離。
「……ダメかな、これ」
かすれるような声で聞いた。
情けないくらいに震えた声だった。
でも、涼ちゃんは——
ほんの少しだけ、瞳を伏せて、そして、微笑った。
「……ダメじゃないよ」
その一言で、世界が音を立てて崩れた。
俺は、涼ちゃんを抱きしめ、
そのまま唇を重ねた。
止まらない。
もう、止められなかった。
——このとき、
モニター越しに覗き見ている存在がいることなんて、
俺たちは、知る由もなかった。