テラーノベル
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【涼架side】
音楽が、好きだ。
このメンバーで音を鳴らすのが、何よりも。
——それだけだったはずだった。
「もっとこういう感じでどう?」
「うん、いいと思う!」
滉斗と音合わせをしながら、自然に笑い合う。
いつもと何も変わらないやりとり。
でも、ふとした時、滉斗の指が近づくと、
心臓が跳ねることに、最近気づいてしまった。
別に、そんなつもりなんて毛頭なかった。
自分も滉斗も、そして元貴も、
音楽に必死だった。
真剣に、全力でぶつかってきた。
——それなのに。
Atlantisのライブ。
自分でも自覚するくらい、あの日は「綺麗だ」と言われた。
スタイリストさんにセットしてもらった髪型。
照明に浮かび上がる、自分。
滉斗が、少しだけ、変な顔して自分を見ていたのを覚えてる。
——もしかして、って。
そんな馬鹿な。
男同士で。
ありえない。
…でも、それから。
滉斗の視線が、
優しすぎたり、熱すぎたりして。
気づけば、滉斗を見るたび、自分の方も変に意識してしまっていた。
「……バカだな、俺」
ピアノに向かいながら、小さくため息をつく。
忘れようと、鍵盤をたたくたびに、
逆に滉斗の顔が頭をよぎった。
そして、今日。
スタジオに、二人きり。
シンとした空間。
音を止めたあとの静けさが、余計に心をざわつかせる。
「…涼ちゃん、ちょっと。」
滉斗が呼ぶ声。
低くて、でもどこか頼りなくて。
自然と、身体が反応した。
「なに?」
笑うつもりだった。
いつもの、涼しい顔で、何もなかったふりをして。
でも——
滉斗が、俺の手首を掴んだ瞬間、
全身の血が逆流するみたいだった。
至近距離で、見つめ合う。
滉斗の目が、真剣だった。
冗談でも、遊びでもない。
この人は本気で、俺を——。
(…どうする?)
このまま離れれば、何事もなかったことにできる。
冗談みたいに笑って、いつもの日常に戻れる。
でも、もし。
一歩、踏み込んでしまったら——
もう、戻れない。
脳裏に、元貴の顔が浮かんだ。
仲間として、絶対に守りたかったこの関係。
壊したら、きっと取り返しがつかない。
それでも。
「……ダメかな、これ」
滉斗のかすれた声。
今にも崩れそうなその表情を見た瞬間、
俺の中の“理性”が、音を立てて崩れた。
「……ダメじゃないよ」
小さな声で、でも確かに答えた。
その瞬間、
滉斗の腕に引き寄せられた。
熱い唇が、重なる。
これが、間違いだってことくらい、分かってた。
それでも、
滉斗のぬくもりを拒めなかった。
——ずっと、
誰かにこんなふうに求められたかったのかもしれない。
ピアノの上で、絡まる指先。
止まらない呼吸。
全身が、熱で満たされていく————
「——へぇ。…2人って、そういう関係だったんだ」
——モニタールームで見守るのは、一体誰なのか。
コメント
2件
もしかして…お、大森さん…???? Atlantisの藤澤さんは綺麗すぎましたね。女神。 今回も最高でした。!!