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「アイナさああああ――……ん?」
次の日の昼前、私たちが錬金術師ギルドに入ると……テレーゼさんの声が、中途半端に響いた。
「こんにちは、テレーゼさん。
どうかしたんですか?」
「こんにちは! 今日はお仲間の方とご一緒なんですね!」
テレーゼさんは、私の後ろのルークとエミリアさんを見ながらそう言った。
「はい。依頼の報告をしたあとに、ここの食堂に寄って行こうかと思いまして」
「おお、ププピップですか!
いいなー、私もご一緒して良いですか?」
「え? ……12時前には食べて出て行くつもりですけど……」
「な、なんと!? ……もう少し、遅らせませんか……?」
「食事のあとは買い物に行くので、すいません」
「くぅ~……。分かりました、今日は諦めましょう。
でも次! 次はご一緒させてくださいね!」
「はぁ……。あ、ダグラスさんをお願いしても良いですか?
私の受けた依頼、ダグラスさんに報告するように言われているので」
「かしこまりました! 少々お待ちください!」
テレーゼさんは元気に返事をすると、小走りで奥の方に消えていった。
「……賑やかな方ですね」
「アイナさん、すっかり気に入られてますね……」
「あはは……。
悪い人では無いとは思うんですけど、ぐいぐい来るんですよ」
「ぐいぐい……。確かに、そんな感じがします……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらくすると、テレーゼさんがダグラスさんを連れて戻ってきた。
「アイナさん、こんにちは。今日はどうしたんだ?」
「こんにちは、依頼の報告に来ました!」
「え、もう?
アーティファクト錬金の方かな? 指輪に効果付与をする……」
「それもばっちり終わりましたよ」
「『それも』?
……え? まさか、パプラップ博士の依頼も終わったのか?」
「はい。大丈夫だとは思うんですが、確認をお願いできますか?」
「えぇ……? あれって確か、1か月くらい掛かるんじゃなかったっけ……?
と、とにかく見せてもらおうか」
「はい、よろしくお願いします。
……あ、エミリアさんとルークは少しそこら辺を見ていてください」
「はーい」
「分かりました」
受付カウンターの前で二人と別れたあと、私はダグラスさんと一緒に依頼報告のカウンターに向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それじゃ、とりあえず指輪の方からお渡ししますね」
私はそう言いながら、カウンターに指輪を置いた。
「うん、確かに。それじゃ――」
ダグラスさんが指輪を手に取ると、宙にウィンドウが突然現れた。
「あ、ダグラスさんは鑑定スキルをお持ちなんですね」
「職業柄な。えーっと、どれどれ……」
──────────────────
【思い出の指輪(S+級)】
熟練の職人が技術を注いで作った指輪。
かなりの年月を伝えられている
※錬金効果:精神力が1%増加する
※追加効果:精神力が1%増加する
──────────────────
「……凄いな」
鑑定結果を見て、ダグラスさんはつぶやくように言った。
「あはは、ありがとうございます」
「S+級は稀には出来るものだが、こうもあっさり持ってこられるとなぁ……」
「大丈夫そうですか?」
「さすがにこれ以上を望むなら、もっと報酬が必要だからな。
今回の報酬額は、錬金術師ギルドが最終的に決めることになっているんだが……これはもう完璧だ。満額払うしかない」
「おー、ありがとうございます!」
「……とは言っても、満額で金貨10枚だけどな?」
いやいや、元の世界のお給料2か月分ですよ!
「とんでもないです。
そんなに大変ではなかったし、金貨10枚でもありがたいですよ」
「……大変じゃなかったのか、そうなのか……。
さて、それでもう1件の依頼……パプラップ博士の依頼もできたんだっけ?」
「はい、それも出しちゃいますね」
そう言ってから、私は床に『高栄養飼料』を出した。
大きな麻袋で5袋ほどになるので、結構な重量感がある。
「ほう、これが……。どれどれ」
ダグラスさんは麻袋の1つを開けて、鑑定スキルを使った。
──────────────────
【高栄養飼料(S+級)】
栄養価がかなり高い飼料。
肉質に高い補正を得る。
※追加効果:肉質×2.0
──────────────────
「これもS+級かよ……。
それにちゃんと出来ているようだし、一体どうなってるんだ……」
「そこはパプラップ博士からもらった情報に、私の秘密の技術が加わって……ごにょごにょ、って感じです」
「よく分からんが、さすがS-ランクの錬金術師といったところか。
いや、これはすでにSランク以上じゃないか……?」
「ランクを上げて頂けるなら、喜んで上がりますよ!」
「個人的にはどんどん上に行って欲しいぞ? 俺はアイナさんのこと、応援しているからな。
でもこれより上のランクに上がるには、特別な査定が要るからなぁ……。
アイナさんがSランクに上がるっていうことは、誰かがS-ランクに下がるっていうことでもあるし」
「世知辛いですね」
「そこは実力の世界だ。
実力ある者が上に行くのは、当然のことだからな」
それはそうなんだけど、私の場合は少しズルっぽいから、普通に切磋琢磨してる人には申し訳ないんだよね……。
「機会があれば、挑戦してみることにしますね。
それで、この『高栄養飼料』はいかがでしょう」
「うん……。成分表とも合致しているし、問題なさそうだ。こいつの報酬は全部で金貨20枚か。
……はぁ。この短期間でこんなに稼げるなんて、羨ましい限りだぜ」
気持ちは分かる。
さっきの金貨10枚と合わせれば、元の世界の半年分を稼げてしまったわけだし。
「前回受けた依頼は、これで一通り完了ですね。ありがとうございました」
「おっと、依頼はまだまだあるからな!
S-ランク以上の錬金術師は、自分の研究ばかりでなかなか受けてくれなくて……」
「これまた世知辛い……。
そういえば研究室って、私でも持てるんですか?」
「ああ、もちろんだ。ひと月に金貨20枚の使用料が掛かるけどな」
「え、結構高いですね!?」
「そうなんだけど――
……アイナさん、それ以上の金額を今稼いだだろ?」
「確かに!」
なるほど。金回りの良い錬金術師なら、研究室は普通に持てるようになる……ということか。
でもさすがに金貨20枚も払うなら、別に無くても良いかなぁ。
そもそもひと月に金貨20枚も出すくらいなら、家を買うなり豪邸を借りるかした方が良いだろうし……。
「……さて、それじゃ次に受ける依頼は何にする?
俺のお勧めは『賢者の石』だな! 素材を集める必要はあるが、報酬はなんと金貨5万枚だ!!」
「うはぁ……、凄い金額ですね」
「作るのも難しいし、素材も半端じゃないからな!
……っていうかこの依頼、もう10年も出っ放しなんだよ……」
「やっぱり、受ける人っていないんですか?」
「そりゃぁもう。S+ランクの錬金術師だって難しいレベルだからな。
でも、アイナさんなら何とかなりそうな雰囲気だし……」
「ははは……」
素材さえあれば普通に作れるとは思うけど、でも『賢者の石』を作ったら……私はそこからオリハルコンを作ってしまいそうだ。
ああ、でも金貨5万枚か……。
……ダメだ、ダメ。大金よりも今は夢。惑わされるな、私。
しばらく金銭欲と戦ったあと、私は何とかそれを振り払うことができた。
そのあと結局、『賢者の石』以外の依頼を見せてもらって、素材を提供してくれるものを3件受けることにした。
それにしても、お財布が一気に潤うようになったなぁ……。