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「馬鹿じゃないの?」
麗はポツリと呟いた。
「麗ちゃん、どうしたの、大丈夫?」
角田に声をかけられて、麗は床に座って日記を読みながら、目頭が熱くなっていることに気づいた。
祖母の墓まで行って罵りたい。お前が息子を育て損ねたせいで、皆苦労したと。
麗の胸が苦しいのは祖母のためでも、まして父のためでもない。
ただ、姉と己が可哀想だからだ。
姉や麗の苦労の諸悪の根源を見たためである。
(ああ、でも……もしかしたらあいつが私を社長にしたのは)
父なりの親愛の情だったのかもしれない。
かつて、父が祖母にそう望んだように。
馬鹿すぎる、どれほど迷惑だったことか。
麗は息を整えて笑った。
「ごめんね、ビックリさせてしもて。ちょっとお茶飲んで落ち着くわー」
立とうとして、涙が零れ落ちそうになった。
「無理しないで」
角田が目の前に来て膝をついた。
「あ、本当に大丈夫だから……」
「駄目、一人で悲しまないで」
麗の涙を拭ってくれようと、角田の指がそっと近付いてくるので、 それは駄目だと麗は顔をそらした。
その時、ドアが開く音がした。
「ただいま、麗、お土産にカツサンド買ってきたぞ。好きだろ?」
誰かからここにいると聞いたのだろう。出張から帰った明彦が資料室に入ってきた。
角田から顔を反らし、明彦と目が合った瞬間、その顔が剣呑なものになった。
「何をしている」
明彦の声は底冷えしそうなくらい冷たかった。
「あ、アキにい……明彦さん。帰ってくるの明日やなかったっけ? ああ、そんなことより、彼、サークルで一緒やった角田君やねん。今、映像会社にいるんやって。久しぶりやろ?」
サークルの後輩の角田だと伝えるも、明彦は角田を睨むのをやめない。
今のやりとりが後ろめたく麗は体が冷えていく。
「あの……須藤先輩お久しぶりです」
角田も明彦の剣幕に血の気が引いている。
「角田、お前はここで何をしている」
「CMの資料集めに来ました」
もしかして、キスしようとしていると明彦は勘違いしてしまったのだろうか。
「そうか。退社時間だ。角田君はもう帰りなさい。俺と妻も帰る」
大股で明彦が近付いてきて、勘違いを解かねばと焦る麗の腕をつかんで立たせた。
「妻?」
「そうだ、麗は俺の妻だ」
「ごめん、今日は明彦さんも出張帰りで疲れてるみたいやし、また今度」
麗は努めて明るい声を出したが、無意味だった。
「疲れていない。それよりも、麗にこれ以上近づくならお前のキャリアを全力で潰すから覚悟しておけ」
「ちょっと、何言って……」
明彦が変なことを言うので、麗は戸惑った。
「っ失礼します!」
顔を真っ赤にした角田が荷物をもって、すれ違うように部屋を出ていく。
「明彦さんっ!」
非難しようと声を上げたところで、麗は明彦の腕に囚われた。
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